六話 やらかし12歳期
ユニコーンの角事件から半年。角は親父の部屋に封印された。おぞましい親父の姿を一度見てミュゼットとメルモニカが寝込んだとか…おっさんの魔法少女コスとか誰得だよ。
そんな被害者二人を看病したりもした。淑女教育もあり少しずつだが大人になろうとしている…だが、まだまだ俺の中では子どもだ。
今のところ、不穏な事も無いしストーリー改変の強制力なんてのも見られない…もう大丈夫だろうと考えるのは早計かもしれないが、サリィ女史の子も生まれ、姉みたいなものとして自覚出てきたのか時折面倒も見ているという。
一人前にはまだ遠いが、そろそろ子離れする頃だろう。甘やかすだけが全てじゃない…少しずつ距離を取っていくのがいい。
人の心なんてのは本人ですら分からない。貴族学園に行った二人が恋するのは原作通りかもしれないし違うかもしれない。
だが、その恋が実るように陰ながら応援してやりたいとは思う。
それが親心というか兄心ってもんだ。
って、思ってたんだけどなぁ…
*
「あのぅ…お二人さん?」
「アレク兄様は黙ってエスコートしてください」
「兄様、嫌ですか…」
今日は次兄・イザーク・ルクシールの結婚式。イザークなんて幼女撃ち殺しそうな名前にしないで欲しいものだ。インテリ眼鏡のくせに…
辺境伯領都ではなく、旧伯爵領都にて行われる事となった。つまり、味噌っカスの俺は前回の時のように茂みの中でコソコソしておけない。
監視というか、抑止力としてミュゼットとメルモニカのエスコートをさせられる事になった。両手に花ではある。あれ、今回の結婚式で良い相手見つけられるんじゃないかなぁって応援した俺の気持ちは?
原因は、親父の変態姿がトラウマで他の男とは話すら拒否したいという。それは仕方ない…あんな特級呪物何故使ったし。バカなの、大バカなの。それでも俺の親なの……親だからかぁ。
それはさておき、今回は辺境伯でも次兄の結婚、しかも婿入りみたいなものだから寄り子や近隣の爵位持ちは参加するが遠路はるばる王家とか高位爵位の面々が来る事はない中規模な結婚式となった…処す子ちゃん来てない、助かった。前回は第一王女とかも参加していたらしいが、挨拶してない。さすがは要らん子。
が、今回は大変なのである。要らん子なのに強制参加…魔物討伐とかで顔を売ってしまったが為に、辺境伯の身内として参加しなきゃいけない展開。なお、サリィ女史は子が幼いから出席見合わせ。それは仕方ないが、それなら俺も見合わせて欲しかった。
辺境伯界のインテリクソ眼鏡の相手は15歳になったばかりのマルセット嬢。ルクシール伯の血を薄く継いでいるものの平民であり、ほぼほぼ政略結婚である。その情報だけなら…
一部の参加者からは不穏な言葉が交わされる。やれ、「平民に伯爵夫人が務まるのか」とか、「この子なら我が家の娘の方が」とか…貴族の腐った思考である。
全くもってふざけるなである。尊き貴族の血だとかノブレスオブリージュとか綺麗事言ってる口で吐き出すのは嫌悪するヘドロばかりである。
あのインテリクソ眼鏡が、わざわざ貴族学園に行かずにボンクラなレッテル貼られてまで守りたかった相手だぞ。貴族学園卒業で箔付けすれば平民との結婚なんて夢のまた夢になる。だから認めて欲しいと自分の人生捨ててまでクソ親父に頼み込んだ傑物…あるいは単なる脳内お花畑。
だから、マルセット嬢が結婚出来ないと断られてもストーカーのように手紙やプレゼント送り届けて、やっと今日この日に至る事が出来たんだぞ。聞けば聞くほど脅迫じゃねとか思わなくもない。他にも何か脅したな、絶対。設定資料集には書いてない裏があるはずだ。
まあ、真相は闇の中。とりあえず、陰口言ってた連中は後でクソ親父に告げ口しておこう…あいつらの領地、税の冬が来るぞ。