五十二話 やらかし妹・少女期編⑥
「では、そのように」
時は流れて、五月…小兄様と挨拶くらいは出来るようになったものの、休日も忙しい様子で落ち着いた会話も出来ない。
残念ながら、仕事を邪魔するわけにもいかないし…その間に進めておかなければならない事があった。第四王女派との接触である。
とはいえ、マリアベル様やシルディナ様に面会出来るはずもなく、セリーヌさんは小兄様と仕事。クリスティーナ様かレシアさんに会う機会を狙うしかない…
という事で、ルチルレート様の提案…「チキチキ暴漢に襲われているところを助けてもらおう作戦 presented byるっちー」である。頭悪そうな作戦名…しかも、るっちーまでが作戦名とか…
暴漢といっても、スタンティーナ家の手のものである。危険は全くもって無い…暴漢役の二人以外は。
クリスティーナ様にしろ、レシアさんにしろ小兄様に憧れているのだから容姿ない…骨折と斬り傷までは許容範囲内らしい。それでいいのか、るっちー…
待ち伏せしていた場所に偶然通りかかったレシアさんに作戦実行した……ざっくり短剣で斬られた暴漢役さんたち、ご愁傷様です。
*
「へぇ…君たちがいつもアレクシールが話してた妹さんたちかぁ…」
「こんな偶然、あるのですね…(大嘘)」
「まったくです(作戦完了)」
レシアさんにお礼と称して近くのカフェでご馳走するまでが作戦だったけど、どうやら疑ってないみたい。
お互いに自己紹介して、注文をする………レシアさん、容赦ない注文するわね。お礼代はわたくしたちの自腹なのに。
「まあ、王都は危険だからね。良かったら、案内とかするよ? アレクシールにはお世話になってるし」
「え、いいんですか?」
「わざわざ、あんな小芝居してまで近づいたんでしょ。普通に声掛ければ良いのに」
バレテーラ…あれ、メルモニカの見る目が冷たい。貴女も棒読みだったでしょ…
というか、小芝居だって分かってて斬るレシアさん怖い…
「まあ、本当は王都案内とかじゃなくて本当の目的はマリアベル様とかに会う事なんだろうけど…まだ半信半疑なんだよね、あたしとしては」
「学園生証ならありますが…」
「メルモニカさんだっけ…そういう身分証明とかじゃなくて、アレクシールが話してた中身。『最近、やっと妹たちが挨拶してくれるようになった』って言ってたんだよ……あいつはね、バカみたいに優しいんだ。あたしみたいな浮浪児に裸見たってだけで大金渡して、その後も何かにつけて優しくしてくれてさ…そんな奴が、悲しそうにしてるのに何してたんだよ、あんたらは?」
「それは…」
「捨てられたって捻くれる気持ちは分かるけど、アレクシールがどんな気持ちで離れていったか考えてやれよ…」
少し前のわたくしなら、レシアさんの気持ちに負けていたはず……こんなに小兄様を好きだって気持ちに溢れた人の強さの前で屈して諦めていたかもしれない。
だけど、だけど…今なら…
「…わたくしはバカですから、それが分からなかった。だから、教えて欲しいんです。貴女たちの気持ちも、小兄様と過ごした時間も……都合のいい事は分かっています。それでも、あの人を諦めたくない…」
「…ミュゼット様と同じです。私たちは妹だからと甘え続けていました。でも、もうそれは終わりにしたいんです。アレク兄様と対等になりたい…妹ではなく、一人の女として…」
「……はぁ………三回」
「えっ?」
「王都の案内、三回して見極める。あんたたちがアレクシールに相応しいかどうか…あたしだけじゃマリアベル様やシルディナちゃんに会わせられるか決めきれない。他の人にも見極めさせる…それでどう?」




