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五十一話 やらかし妹・少女期編⑤

入学式を終え、屋敷に戻ってきたわたくしたちはサロンで過ごしていた。


ルチルレート様から、必ず今日中に制服姿を小兄様に見せるよう念を押された。それくらい出来ないようでは見限るとまで言われて…


それはともかく、ルチルレート様の提案は決して悪いものじゃない。正直、考える時間を貰ったのは時間稼ぎでしかない。


小兄様がそれほどまでに多くの方に慕われている事にショックを受けたのが本当のところ…小兄様の今を、わたくしは見ていなかった事に打ちのめされた。



「小兄様は、モテるのね…」


「そうですね…るっちーはともかく、平民貴族問わず好かれています。巷では木剣騎士としての知名度も高く、王家からの信頼も厚く将来性もあって……マリアベル様が見初めていなければ貴族令嬢からのアプローチも凄いものとなっていたはずです」


「…知らなかったわ。そんな事さえ」



メルモニカはきっちりと小兄様の事を把握していたのね。わたくしは知ろうともしなかった。


それで好きなどとよく言えるものだ。妹という関係性に甘えてきたのはわたくし…


小兄様はゴリ兄様やメガネ兄様に似ず、紺色の髪の爽やかイケメン…に見える残念イケメン。でも、優しくって行動的で………知っているのは、あの日出て行く前までの兄様。


ここ二ヶ月同じ家で過ごしてきたのに、何もアップデート出来てない。わたくしが好きなのは昔のアレク兄様…それとも…


だからといって、本来の攻略キャラであった王子たちとどうこうなんて考えたくもない。ましてや彼らは前世の母を虜にして私の人生を狂わせた…



「メルモニカ。貴女が知る小兄様の全てを教えなさい…」


「…良いのですか、ミュゼット様。それを知ってアレク兄様を嫌いになる事だってあるんですよ?」


「その時はわたくしに媚薬でも何でも盛って小兄様の前に差し出しなさいっ!」


「ミュゼちゃん、拗らせすぎ」



小兄様以外に舐め回されるとか死んでも嫌ですわっ!




小兄様は多くの人の命を奪っていた。メルモニカはそれをしっかり話してくれた……正直、「それで?」という気持ちしか起こらなかった。倒したのはどう聞いても悪人…


そんな事より、騎士の間ではロリコンナイトと言われている方が問題ですわ……確かにマリアベル様もシルディナ様も、かろうじてルチルレート様もロリですけれど、それだと小兄様の性癖にわたくしが引っかからない…


特に嫌いになる要素も無く、メルモニカの知る話は全て聞きましたわ。


でも、それでも小兄様は戻らなくて…いつの間にか眠っていた。



『本当に、綺麗になったな…』



浮遊感と共に小兄様の声がした…それに小兄様の匂いと温もり…懐かしい。


怖い夢を見るといつも小兄様が慰めてくれた…この世界で生きて行こうって思えた。生きていかなくちゃって勇気をくれた…


そっか、そうなんだ…


この日、久しぶりに悪夢は見なかった。




翌朝、見知らぬ…だけど、何処か懐かしさを覚える部屋で目覚めた。


隣にはメルモニカが寝ていて、微かに小兄様の匂いがして…


だけど、小兄様の姿は無くて……あの時みたいに追いかけたくなった。


違う。あの時は小兄様が遠ざかっていったけど、今は…わたくしが近づいていないだけだ。


これからは近づこう。でも、もう少しだけ…小兄様の匂いに包まれていたい。


……後でシーツ交換して部屋に持ち帰ろう。


後日、メルモニカに見つかって取り合いになったり、ルチルレート様たちからも寄越すように言われるのは、また別の話…


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