五十話 やらかし妹・少女期編④
兄様と廊下ですれ違うけど、ニキビ顔どころか寝不足で目の下にクマまで出来て、そんな顔を見られるのが嫌で避け続けてた。
それがいけない事だって分かってるけど、入学の準備に追われて兄様と話す事さえ出来なくなっていた…
四月を迎え、兄様も仕事に出掛けるようになり顔を合わせる事も無くなった。早朝から夜遅くまで仕事で不在の兄様…
そうだ、兄様はあの若さで騎士団の分隊長まで昇り詰めた人だと改めて思い知る。
ただでさえ忙しいのに、煩わしい妹たちに割く時間なんてあるはず無い…
それを思ったのは入学式。小兄様はやっぱり来てなかった。お父様は来ていたのに…
というか、ルチルレート様…どうして生徒会長になってるの?
*
「二人とも、久しぶり」
「ええ、ルチルレート様もおかわりなく……というか、成長していませんわね。食生活また疎かにしてましたわね?」
「バナナは至高。バナナさえあれば生きていける」
ダメだ、頭の悪さに拍車がかかっている…地頭いいのに色々と残念なのは昔と変わらない。
入学式の後、すぐさま生徒会室に呼び出されたわたくしとメルモニカ…
オリエンテーションとかガン無視ですわね。
「るっちー、明日からお弁当を用意します」
「メルの手料理楽しみ…それはさておき。アレクとシた?」
「ど直球ですわね……それが…」
同盟には隠し事無し…さすがに前世の事は言えませんが、ルチルレート様に叱責されるのを覚悟で王都に来てからの事を全て話した。
「…拗らせ過ぎ。タイミングも悪い。一緒に住んでるアドバンテージ使えてない」
「はい…分かっています」
「メルも遠慮しすぎ。ミュゼに引け目感じて動いてない…ただでさえ二人はアレクに『妹』としか見られてない。このままだと寝取られる」
「はい…」
ルチルレート様は「更に…」と続けて、写真付きの書類を机の上に出す。
「第四王女、マリアベル・フォン・アレモニアを筆頭にこの五人がアレクの近くにいる。向こうも徒党を組んでアレクの嫁になろうと画策してる」
「小兄様の…」
「拝見します」
メルモニカと一緒に五人のプロフィールが書かれた書類に目を通す。
マリアベル・フォン・アレモニア様はアニメでも知っている…エルヴァン王子の妹で、とても可愛らしい女の子。そういえば小兄様が救出したって新聞にも載ってた。
レシアさんは件の小兄様が裸を見た元浮浪児の女の子。今では小兄様に懐いており自称情報屋として小兄様を支えている…快活そうで、何処となくアニメのミュゼットに似ている感じもある。
セリーヌさんは小兄様の部下。あれ、確かアニメでわたくしをいじめてくる実行役の人だ…でも、それは公爵令嬢のミスティア様に言われてされた事だったと思う。本当は悪くない人なのかな…
クリスティーナ様は……アニメで同じ名前の人が居たけど別人かな。別人だね…めちゃくちゃおっぱい大きいし。アニメのクリス様はそんなの無かった。わたくしにも無いけど…
最後にシルディナ様…まさに深窓の令嬢。誰これ、こんな美少女知らない。アニメで見た事無い…妹にしたいって保護欲が掻き立てられる。
正直、勝てない…地位も名誉も富もわたくしには無い。妹としてのアドバンテージさえ霞んでしまう程の女の子たち…そんな子たちが小兄様を好き……
「ミュゼ、メル…僕は彼女たちに合流した方がいいと思ってる」
「るっちー…同盟は破棄ですか?」
「二人が合流を了承しないなら、僕たち…いいや。僕には勝ち目が無いと思う。今のまま、二人が愚かなままであるなら見切りをつける方が余程現実的。でも、僕だって情はある…向こうは王女と元公爵令嬢に商会持ちの子爵令嬢とおまけ二人…全てにおいて格上。でも、二人にはアレクと過ごした日々がある。向こうが手を差し伸べてくれるなら、合流すべき」
「………少し、考えさせていただきませんか?」




