三十七話 やらかし22歳期・隊長編⑥
某ロープレの初代勇者が如く寂しい一人旅(馬付き)を行う事、約半月…遠過ぎるぜ、我が故郷。とはいえ、クソ親父が渡してきた土地は辺境伯領の南東端…辺境伯領はやたらと広く、そんな方まで足を伸ばした事ない僻地。
普通なら最終的にワークハルス領を通って最短で領都まで行くのだが、今回は最初から南下。領都には寄らない。メルには王都を出る前に手紙を出したので向こうで合流出来るだろうと踏んでいる。
まあ、王子の病死とかは通達で届いているだろう……上手く動けと言われたのに出来なかった無能とか思われているだろう。ぐすん…
辺境伯領の南端から北東へ。古めかしい看板が村までの距離を書いていた…薄くて読めんけど。
この辺の土地が俺のもの…辺り一面草原。ペガサスも居やしない。その向こうは別の国とを隔てる大山脈。開墾して米作りとか山荒らして鉱脈探しとか出来そうである……人手不足だろうけど。
そんな事を考えてツインドライブ師匠の蹄の音を聞いてのんびり向かっていると、道の先に第一行き倒れ人発見……ダーツのちゃうねん。
近づくと幸い、まだ息がある。後、とてもクチャイ…師匠も近寄らない。だが、放置するのも忍びない…近くに川も無いし洗えない。とりあえず、水を飲ませて師匠の背に乗せる。嫌な顔すんなよ、女の子だぜ。
レシアの時に学んだ。可愛い顔してたら女の子…付いてたら倍お得。うん、ホモじゃねぇ。何処ぞの異星人みたいに股叩いて確認するわけにもいかんし…
まあ、仮に男の子であっても助けるけど。何処ぞの絡み酒夫人の所為で福祉根性身に付いてるし。
少し開けた所で休憩。行き倒れにはパン粥が一番という事で持ってきた携行鍋でグツグツ煮込む。ミルクじゃなくて水煮だから不味そう…塩入れとこ。
煮込んでドロっとしたそれを行き倒れ娘(仮)に食べさせる。なお、師匠は転がって砂遊びしている。そんなに不快だったか…まあ、分からないでもない。
抱えて食べさせつつ、左手で小聖回復をかけていく…と、臭いも抑えられてる気がする。消臭機能付き…え、気のせいとかいうな。
一通りの傷は癒え、朧げながらもパン粥を食べる行き倒れ娘(仮)…コニーちゃんに同じような格好で食べさせたのを思い出す。元気にしてるかなー…なんて考えてたら、意識取り戻したようで…
「おとー…さん?」
「残念。アレクくんです」
「っ!?」
バッと立ち上がり、俺から距離を取る。当然の反応だが、ちょっと寂しい。まあ、立ち上がれる力があるなら大丈夫か…と思ったが、すぐ立ちくらんだので支える羽目になった。
「ご、ごめんなさい…」
「まあ、とりあえずゆっくりお食べ。その後で事情を話してくれるかい?」
「は、はい…」
余程空腹だったのか、不味そうなパン粥を食べる少女…声が女の子だったから間違いないと思う。後、食べる仕草とか…
食事後、ポツポツと彼女は話してくれた。名前はアン。年は12歳…というにはあまりにも痩せっぽちで幼い印象を受けるが、彼女の出自を聞けば納得だ。
今から向かうカルン村の外れの棄民が住む小さな集落出身…大昔に山を越えて攻めてきた別の国の捕虜が起源の民が彼女の血筋だという。
そんな集落出身者はカルン村の食い物だった。男は労働力として死ぬまでこき使われ、女は慰み者…生まれた子は混じり物として扱われ、それが繰り返される。
正直、クソ親父やゴリラがきちんとしていれば領民として扱われるのだが、目が届かなかったようだ。後で苦情の手紙書こう。剃刀入れて。
そんな集落で育ったアン…ついこの前、子どもが産める体になったと言われ、恐怖で逃げてきたらしい。姉妹のように育った年上の子たちは村長の家に行ったまま二度と帰って来なかった事を知っていたから…
うーむ……これは闇が深い。王都とかなら娼館があって、そういう事を商売として成り立たせている。が、聞く限りは奴隷扱いだし、棄民とはいえ血は薄れて領民とほぼ同じ。
場合によっては村滅ぼす必要性も出てくる。盗賊の村以下の存在だぞ……それが出来る権利も力もある。
「よく話してくれた…もう、大丈夫だからな。お兄さんに任せなさい」
「えっ…でも…」
「こう見えてもな、お兄さんはとーっても偉いんだぞ。この前だって悪い悪い王子を退治したんだ。悪い村長なんてすぐ退治するからな」
なんか、怖がられた。あれ、安心させようと思ったんだけどな……子ども心難しい。




