三十四話 やらかし22歳期・隊長編③
フィネット公爵邸に居を移し、俺も軟禁状態となった。とはいえ、シルディナ嬢やマリアベル様、アリスベル様も居るしセリーヌとクリスティーナ嬢も護衛名目で宿泊している。レシアたちも報告にやってくるしミュゼットとメルが居ない事を除けば何ら変わらない日常である。朝起きたら必ず誰が隣に寝ているのを含めて(手は出してない)
二人が居れば真剣にこの先の関係を悩んでいたであろうが、そんな余裕すら無い。情報統制されているのかバカ王子の動向や辺境伯のクソ親父どころかミュゼットに関する新聞記事も無し…
だが、水面下では着々と情報は集まりつつある。バカ王子罷免の弾劾裁判を起こせるには決定的な証拠証言が足りないのではあるが…
とはいえ、俺はアリスベル様の御息男ヴォイドくんに盾の使い方を教えているだけだったりする。クリスマスプレゼントの勇者の盾っぽいカイトシールドを贈ったら気に入ってくれてるので、技を仕込んでいる…目指せ盾の勇者。獣人この世界居ないから闇堕ち確定だけど。というか俺、盾使った事ないから適当教えてるけど。
とか適当な事やってたら、マリアベル様とシルディナ嬢に呼び出し受けた…負け犬婚約者たちがお話ししようよとランランルーしてきたらしいのである。負け犬扱いしてる事を悟られたか…
まあ、政略で婚約させられた相手があんな連中では負け犬扱いはさすがに酷かったか。噛ませ犬でいいか(どのみち犬扱い)
*
サロンにて、シルディナ嬢が同席しての話し合いが行われる事となった。マリアベル様は王族、ましてやバカ王子の元妹という事もあり居ては話さない事もあるだろうと同席しないとか…本当に聡明な王女様である。
「はじめまして…ではないが、アレクシール・カノーラだ。王宮騎士団第六分隊の隊長をしている。簡単に言えば、君たちの婚約者たちに害意を加えられたミュゼットの兄…といえば分かるだろうか?」
「はい。多分に存じ上げおります。私たちは彼女を友人と思っておりますので……紹介が遅れました。エルヴァン王子の婚約者、レイリック公爵が娘、ミスティアでございます」
「公爵令息、ルイレート・スタンティーナの婚約者、エルミディア・シュノーケン侯爵令嬢でございます…」
「アレモニア王国将軍が子女、レミルーファ・ティノーヴァでござる…」
「ウチは…まあ、改めましてやな。シェリチェ・ホーウェンや」
「わ、わっちはラティーナ・セイリックと申します。セイリック家の養女で聖女をやっております…」
ふむ。ちょっと殺気を込めて言葉を発したが、さすが王子の婚約者…他の四人とは格が違う。恐怖を顔に出していない。もっとも、シェリチェ嬢は俺の意図を理解したのか直ぐに立て直したが。というか、シェリチェ嬢以外はカーテシーをしたまま俯いている。ちょっとやり過ぎた。
別に敵対する気は無い。ましてや、嘘か真実かミュゼットの友人を語ったのだ。脅すのも忍びない…後はどちら側かを聞き出すくらいだろう。まあ、他愛ないお茶会としよう。そう声を掛けて着席を促す…
「まずは、保護の助言をしていただけた事、御礼申し上げます」
「いや、単なる気まぐれだ。礼を言われる程のものじゃない…」
「いいえ。おそらくあのままでは私たちは王子たちと同じく貴族牢に囚われていたでしょう。そして、そのまま毒杯を賜っていたかもしれません」
ミスティア嬢が主だって話をするようで、そんな話を振ってくる。
毒杯……まあ、王子の婚約者ともあれば国の秘密を多く知っているから仕方ないのかもしれない。そう考えると、原作のセリーヌを使ってミュゼットをいじめるのも理解出来るかもしれん。そうしなければ自身が死ぬのだから。
まあ、そう考えるとミスティア嬢が感謝してくるのも当然か…とはいえ、王子が廃嫡してもその状況は変わらない。どのみち…その事を指摘すると…
「いいえ。ここに来たからこそ光明が見えました。私もエルミディア様も…他の三名は既に婚約を向こうの有責で破棄出来ましたし、有能な方との縁も結んでいただきました……後は、貴方様が決めてくださればと思います。王子命の破棄を行わせるだけにとどめるのか、徹底的に追い詰めるのか」
「…それで、貴女とエルミディア嬢の運命はどう変わる?」
「そのまま王子や公爵令息の孕み袋としてだけ利用されるか、歳の離れた殿方の所へ嫁がされるかです……個人的には後者の方が救われます」
ミスティア嬢の言葉にエルミディア嬢も頷く…令嬢が孕み袋なんて言葉使うのかとも思うが、バカ王子そこまで嫌われてるのな。まあ、脳内お花畑なのは原作通りだがやり過ぎたんだろうなぁ…
ミスティア嬢もエルミディア嬢も愛想尽かすわな、そりゃ…他の三人は原作でも呆気なく婚約解消するし。脳内お花畑連中に見切りつけるはずだ…
追い詰めるの確定。ただ、シェリチェ嬢だけは真意聞いとかなきゃいけない。どう考えても俺たちと同類なのだし。




