二百九話 やらかし結婚ミスティア編①
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ミスティア・レイリック。
悪役令嬢オブ悪役令嬢。エルヴァンの婚約者として立ち塞がる王道悪役令嬢(大切な事だから以下略
家の力や近衛騎士などを用いて典型的ないじめを行う縦ロール悪役令嬢(大切な以下略
王子の婚約者として悪しきまま邪悪な道を辿る。ただ、裏を返せば男爵家の養女如きに婚約者の座、王妃の座、国母の座を奪われるのを防ぐ為に落ちていったとも取れる。
バッドエンドは処す子ちゃんや近衛騎士のセリーヌに斬殺されるパターンをはじめ多様。グッドエンドではミュゼットが辺境伯令嬢と発覚し今までの悪行が暴かれ断罪される。
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「…邪悪ですか…」
「兄さんの妄言やから。むしろ、兄さんの面構えの方が邪悪やから」
「今夜は豚の丸焼きが食いたい…」
旦那様が邪悪かはともかく、愛に狂う気持ちは分かります。丸焼き用の豚は手配します…
旦那様か、かの方かの違い……というより執着心なのでしょう。今の私では到底思い至りませんが、婚約者選びの時に思い描いた理想を欲望に忠実なままでいればそうなったのでしょう。シルディナ様がどうなったかも考ええぬまま…
「まあ、少なくとも今のティアとはかけ離れてる存在だよ。髪型とか色々」
「苦労したで、縦ロールのくせっ毛直すんわ…」
「……シェリチェ様は小兄様並みに色々とやらかしてますわね」
確かに、当時はかなりの抵抗をしましたけど縮毛矯正という荒技のお陰でサラサラの髪になりましたし旦那様にも優しく頭を撫でてもらえましたから結果的に良かったのですけれど…
もしあのままの髪型で性格も悪ければどうなっていたのでしょう?
悪しき令嬢として首を落としていたのでしょうか。それとも…
「あの……原作でいうと私はどうなっていたのでしょうか。やはり毒杯…それとも…」
「るっちーにやられてると思います」
「さすがにセリーヌはんに罪なすりつけたり悪どい事しとるから兄さんに嫁がせるとかは無いやろ…良くて国外追放。悪くて断頭台処刑やろな」
「あぅ…」
毒杯が怖くてやった挙句性格も悪くて、ロクな結末も迎えられない…おそらく、婚姻を結べても他の女性に目移りした人を信頼し続けるのは…
そう考えると立場は逆なのだと思う。旦那様は最愛をミュゼット様と言いつつ同じくらいの愛を向けてくれている。
それくらいの懐の深さというか下心が殿下には無かった…あるいは欲望に忠実過ぎた。結果、旦那様に断頭された。
皆様の話を聞いていれば、原作の旦那様像も見えてくる…ミュゼット様を求めつつもミュゼット様の想いを優先して身を引くどころか裏で動いて助けたのであろう事は容易に想像出来る。
そして、その意向を汲んで王都に留まり今の旦那様も動こうとしたのでしょう。ただ、負う傷を防ぎ命を守り多くの方へ愛を向けて…
おそらく、ミュゼット様が誰を選んでも婚約者であった我々は救われたはず…
つまり、遅かれ早かれ旦那様とは結ばれる運命だったのですね。
「旦那様…原作では死してしまう宿命だとしても、前世を得ている旦那様なら助けてくださいましたか?」
「…正直分からん。セリーヌを唆したり、色々やってたみたいだからな、悪役令嬢のミスティアは…でも、そう歪ませたのはエルヴァカだ。俺一人じゃ無理だったけどシェリが居たから今のティアが居る。俺はただ少しだけ手を差し伸べただけだし…」
「そこでウチに振るなや…まあ、歪めた自覚はあるけど…」
「この世界、いや華星への愛は歪んでるもんな俺たち…」
ミュゼット様は「わたくしは違いますわよ」と否定していますが、三者…いえ、私も含めて四人それぞれ歪んでいると思います。
旦那様が「分からない」と答えてくださったさっきの質問…即断で助けるなどと言われてしまったら旦那様の愛を疑うところでしたもの。悪辣でも何でもミスティアという器なら中身はどうでもいいと言われている気がしたでしょうし…




