百八十九話 やらかし結婚ルチルレート編①
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ルチルレート・スタンティーナ。
原作では名前も出ない事から、通称・処す子ちゃんで親しまれているバッドエンド請負人。
エルヴァンルートとルイレートルートにあるバッドエンドの一部に登場し、ミュゼットをミュ/ゼット…つまり、首を切り落とす処刑人としてのみ登場。なお、原作では貴族学園生徒会長ではない。
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「…僕、そんな事しない。ミュゼは勿論、皆にそんな事する気無い」
「……今は、だろ。俺に感化されたりしなかったら、王子や弟に近づいて婚約を台無しにしようとする輩を処分するような仕事だってしてたはずだ」
「………処したかったのは王子や元弟の方」
アレクは変な事を言う。ミュゼは当然の事、ミスティやエルミィをどうにかする気なんて今の僕には無い……
でも、あの時アレクと刃を交えなければ今の僕は居ないってのは分かる。だとしても、やっぱり処すのは王子たちの方だったと思う。
「それも元を辿れば俺のクソ親父が歪めた所為…それを辿れば俺が魔物を討伐して辺境伯領に平和をもたらせたり、ミュゼットを誘拐から助けて捜索の手間を省き、ゆとりをもたらせた所為…」
「アレク、さすがに考え過ぎ。それにミュゼが居なかったら今の生活は成り立ってない」
「でも、俺が居なかったらルチルの弟は種馬にならずに済んだんだぞ?」
アレクは言った、ミュゼかエルミィがルイレートの嫁になって幸せに暮らす未来だって潰したと……
勿論、エルミィの境遇なんてアレクは分かりきってる。ミュゼの事だって尚更…
「兄さんは拗らせ過ぎてるんや。原作のゲーム…分かりやすく言うたら、本当にあるはずだった未来の姿が好き過ぎたってとこやな」
「小兄様は自身が何もかも台無しにしたと何処かで思い込んでいるんですわ…特に嫁になってしまった事で」
ミュゼとシェリが言った。アレクは原作というこの世界の本来の在り方を好いていたのだと…メルはまだいい。でも、他は別の幸せがあったはずと…
アレクらしいけど、アレクらしくない。そもそも、元弟に対して僕は何の情も抱いていない。
アレクとミュゼみたいとまではいかずとも、ミリスとマリアくらいに親しくするようなのが一般的かもしれないけれど、スタンティーナ家はそんな事すら無い実力主義。
僕が長子として裏を仕切り、元弟が男だから表を仕切る……本来なら長子で男なら両方とも仕切れるが、元弟は暗殺には不向き。具体的にはエルミィより更に劣るレベル…でも、男だからと表を仕切る事が許された程度の存在。
そこにアレクたちの父親はあまり関係ない。そもそも、エルミィを見捨ててミュゼに走るようではスタンティーナ家からも見限られるのが必至。お情けで王子の補佐としては留まれたかもしれないけれど、それも実力が伴わなければ今の生活と変わらない未来が待っているはず…勿論、その場合はミュゼ共々。
その場合も、僕は裏を仕切りやがて生まれる甥たちに立場を譲り一生を終える…最後は孕み袋として使い潰されるまで。
それかアレクと出会わなければ定められていた僕の…スタンティーナ家に生まれた女の宿命。叔母や分家の女たちの誉れ……だと思い込まされていた呪い。
「僕がアレクを好きになったからこそ、変わった未来も生まれた……アレク。ルイレートはなるべくしてああなっただけ。むしろ、スタンティーナ家やその寄子はアレクによって救われた」
「…どゆこと?」
「僕がアレクの嫁になる為に、スタンティーナ家の伝統をぶっ壊した。だから、自由恋愛が認められた…望んで孕み袋を希望するのも居るけど、好きな人と結ばれるのも増えた。だから、バナナ組はアレクに忠誠誓ってる」
「……さようか」
何故かアレクが遠い目をしていた。けど、だいじょぶ。アレクが望むならアレク専用の孕み袋を希望するのも探す。何故かミュゼに止められたけど…




