百八十七話 やらかし結婚メルモニカ編①
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メルモニカ・アーバン。原作においては主人公の親友かつお助けキャラ。
本来ならばミュゼットを誘拐にて失ったカノーラ家、もといアレクシールの代替として両親ともども辺境伯の補佐という名目で使用人として引き取られ、婚約者に仕立て上げられアレクシールの慰み者となる。
その後、おそらく幼い時の度重なる辱めにより貴族としての子孫繁栄能力を喪失。本来の相手であるミュゼット捜索の為に貴族学園に入学し、そこでミュゼットと出会い親しくなる。
しかし、アレクシールに対する執着か恨みか、純粋に友人を想う気持ちからかミュゼットを引き渡す事なく、ミュゼットの恋を応援する。
その過程の中で、騎士団の見学で身体に更なる深い傷を負う事になった。それでも、ミュゼットの恋を最後まで応援し、最後は故郷へと戻る。ルート次第ではミュゼットを連れて…
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というのが、アレク兄様が話し、ミュゼット様とシェリチェ様が補足説明した私の本来の生き様……お助けキャラ?
どちらにせよ、あまり今と変わらないような…もっとも、アレク兄様の寵愛を受けながら子を宿さないのは辛い。
「大まかに話したけど、何か聞きたい事あるか? 原作でのミュゼットとの出会いとか、ミュゼット庇って騎士の剣を受けた時の事とか、考察として負け犬令嬢を俺に当てがう為に連れ帰ったとか…」
「興味はありますけど、後でいいです…というか、アレク兄様。どのみち私はアレク兄様と結ばれる運命だったんですから悩まないでください」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「そもそも、ミュゼット様が誘拐されそうなのを防いだのは当然の対応じゃないですか。悪いのはさっさと手を出さなかった上に私たちの前から逃亡した事と分かっていますか?」
「アレク、ロリコンだもん…小児性愛者じゃないもん」
そう言って、そっぽを向くアレク兄様。皆で椅子に括り付けたので逃げる事は出来ない。言いたい事だけ言って皆を困惑させて逃げるなんて事はさせないようにした結果、そうなっている。
そもそも、アレク兄様の話す内容は支離滅裂だった。前世があるというのはミュゼちゃんとシェリチェ様も同様というのなら認めよう。家庭教師も教える事は何も無いと言っていた知性の持ち主…昔からどこか大人びた雰囲気を持っていたのは確か。
でも、私と出会った時点でアレク兄様は今のアレク兄様だった。そこに前世がどうとか本来のアレク兄様がどうとかは関係があるはずもない。つまり、アレク兄様は根本的に間違っている。
ミュゼちゃんとシェリチェ様曰く、「マリッジブルーに陥って全て暴露しなきゃいけないって自ら追い込んでしまった」と…変な部分で正直者過ぎるアレク兄様なら仕方ない。
二人きりの時やベッドの中では男らしさを見せてくれたというのに、普段は情けない姿を晒す原因が原作…つまり、本来の私たちから逸脱させた負い目だと考えれば分かる気もする。
でも、先程語られた私の姿に何処を負いる必要があるというのだろう?
ミュゼちゃんが居なくなったアレク兄様の悲しみは安易に想像出来る。実際のところアレク兄様にされた事でどれだけ苦しんだか……ルチルレート様が来なければ、狂っていたのは間違いない。ルチルレート様が男性なら、あるいは…
「…アレク兄様は、ミュゼット様の代わりに私を愛した方が良かったのですか?」
「……そんな事言うなよ。ただ、俺は騙してたようなもんだ。都合のいいように接して、本来のお前たちの生き方を踏み躙った…それで嫌われるなら仕方ない」
「嫌うも何も……本来の生き方していた方が嫌ですけど?」
「だよなぁ…俺だって嫌だ。原作のメルもクールビューティーで綺麗だけど、傷ついて苦しむなんてさせたくなかった。それに、メルは大切な妹で俺みたいなクソボンボンが穢して幸せを台無しになんてしたくなかったんだ…」
アレク兄様は、だいぶ拗らせている様子…きっと本来の私でも同じ事を思う。
アレク兄様無くして私の幸せなどありはしないのに。




