十五話 やらかし19歳期・騎士編①
あれから一年強。たるみきった近衛、騎士団の空気を払拭すべく奔走した。嫌われ者役には慣れてる。が、なんか知らんが好感持たれ始めてる気もする。まあ、どちらにしてもそれで民が…特に子どもが守れるならいいさ。だからロリコンナイトと呼ばれる……それはつらたん。
そんな中、一つの事件が話題となる。王都連続通り魔殺人事件だ…時間は夜間。場所や犯行日時は不規則でバラバラ。犯行手口は複数の刃物で切り裂く…通称切り裂き魔事件。
既に多くの浮浪者に平民や商人、巡回中に単独行動したバカな騎士や見習いまで総勢20名以上が犠牲になっている。子どもも含めて。
レシアたち炊き出しに来る子をはじめ、王都民は夜間の外出は控えるよう厳命しているが、それを守ってくれない者は一定数居る。まあ、酒場に行きたいだとか仕事や急用あるとか事情もから取り締まるわけにもいかない。
騎士の巡回を増やして対応している。俺を含めた一部の騎士は長期休暇も返上して夜間の見回りや不審者情報収集に取り組んでいるが、進展は無い。
「何か分かりましたかっ!?」
「また君か…いい加減対応するのにも疲れてきたんだが」
「アレクシール卿。その言い方は不謹慎だとは思いませんか…仮にも被害者遺族なんですよ、こっちは」
毎日のように進捗状況を聞きに押しかけてくる女の子が居た。クリスティーナ・トリスタン嬢。騎士学校の新入生にして、商人である叔父を殺された商会持ちの子爵令嬢。黒髪ツインテールの美少女さんである。
気持ちは分からないではない。被害者感情を思えば、自ら復讐したいから騎士になる…生活安定とか漠然とした正義感なんてのよりは明確かつ単純で好感さえ持てる。
が、それとこれとは別だ。相手は得体の知れない切り裂き魔…ましてや原作では未解決事件。ただはっきりとしているのは、目の前の少女が無茶をして顔に消えぬ傷を受けるものの犯人を撃退し事件が終息した事だけだ。
彼女を原作通りに行動させれば終息はする。それはある意味では正しい選択なのかもしれない。だが、年頃の子に大きな傷を残してしまう…身も心も。それは許容出来そうにない。
「被害者遺族だからこそだ。また身内に犠牲者が出てみろ…悲しむだけじゃ済まなくなる。それが分からない年じゃないだろう?」
「っ……それでも、犠牲者は増えているんです。あなたたちが何もしないからっ!」
「……役立たずで悪いな。だが、君の目指す騎士はその程度だ。現状では精一杯の事をしているとしか言えない」
「っ…もういいですっ!」
クリスティーナ嬢は憤慨し部屋を出て行く。少し間を置いて、俺も後を追う。距離を空けての尾行である。
女の子の尻を追っかけている最低な奴と最近噂されて株価落ちているのは分かっている。元からストップ安だけど…それでも、残念ながら俺に出来る最低かつ最適解は彼女が切り裂き魔と対峙するのを待つのみ。
多くの騎士が見回りしているのに起こる惨劇…身内を疑いもしたが、潔白だった。では誰が…捜査は完全に行き詰まり被害者は増えるだけだ。
設定でもっと多く語られていれば救えた命もあったはず…少なくともクリスティーナ嬢の叔父の時点で止められなかった俺の不手際だ。いわば、俺も加害者側だ…
だからこそ、助けたい。それが例のコラボでも加わった少ない女の子にも人気なサブキャラの眼帯クール男装騎士学生を殺す事になろうとも。むしろ、リョナ好き作画担当の性癖なぞぶっ壊してやるっ!
と、意気込んでいたからか。それともクリスティーナ嬢の執念の結実か…切り裂き魔が現れた。
宵闇の中、クリスティーナ嬢の後ろに回り込むよう現れた黒フードのそいつは、いきなりクリスティーナ嬢に襲い掛かった。
学生でも騎士は騎士…クリスティーナ嬢はそれに気付き応戦するも、相手は人を殺す事に慣れた殺人鬼だ。
更に体格差もあり、クリスティーナ嬢は押し倒され、馬乗りになった切り裂き魔は顔目がけて凶刃を振り下ろそうとする…………
あの時と同じ感覚が戻ってくる。このまま彼女を英雄にしても良いのではという一瞬の葛藤…刹那にて永遠にも等しい瞬間。
心の迷いとは裏腹に体は動作を止める事は無い。
もし、これが別の誰かであったなら…そう思うだけで迷いは晴れた。
背後からの片手一本突きによる心臓部を貫く強襲。クリスティーナ嬢の眼前にまで迫った刃…そして、犯人の息の根は止まった。




