百二十七話 やらかし結婚編62
今でこそ、何処かの足長いおっさんやら道楽貴族やら国が政策して親無しっ子のプータローを保護しているが、数年前までは王都にも居た浮浪児。その一人であるレシア…
勿論、その当時にも孤児院はあったし孤児を保護していた。が、限りはある…それがさっきラティーナ嬢が言っていた「わっちの時とは違って今は孤児院も豊か」という言葉である。
つまり、金無いからある程度しか見れませんよ、他は自力でなんとかしろ…選民思想とまでは言わないが、差し出せる手の数が足りてなかった。孤児と浮浪児…それが同じようで違う現実。
そこに歴然とした差があるのは事実。妬みや僻み、蔑み…孤児院だって裕福でなく飢えていて、浮浪児の中には小銭稼いで腹一杯食える子だって居た。どっちが幸せかなんて本人にすら分からない境遇…
その中で聖なる力を持っていたラティーナ嬢は勝ち組も勝ち組。優しい義両親の養子になって幸せに暮らせましたとさの代表格。一方のレシアも浮浪児の勝ち組代表。変態騎士と仲良くなって食うに困らなくなったとさ。
だが、そこには決定的な違いがある…勝者の裏には敗者も居る。今でこそ仲良しこよしお人好し出来るけど、それは一つ違えば他の子だったかもしれない。どうして私じゃないの、どうしてあの子なの。私は幸せになれないの……皆が幸せを望むライバルだった。
それこそ、ミリスベルが動き出すまでは他の子は宿敵。踏み潰して台にしてでも倒すべき怨敵だったのだ…
「いや、そこまでじゃないけど…アレクシールは大袈裟」
「そうですね…でも、噂を聞いてレシアさんの事を羨ましく思った事は何度もありますよ。力が無ければ、そう羨んだ事もあります」
「……そう…」
ミュゼットの発言に一触即発するかと思いきや、そうでもない様子。レシアがラティーナ嬢の言葉に照れている。ゆりゆらら?
何とも言えない空気で昼食を続けるのであった…まあ、同い年の嫁が仲良くするのを見てるだけで僕は満足さ(サクタロー、サンドイッチしばらく要らない)
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食後、ラティーナ嬢が厄介な事を言い出した…「日頃から王都の安全を守ってくれる騎士様たちに感謝を込めて祝福を捧げたい」と。要は回復力アップを施したい…洗脳してくれていいよ。馬車馬のように働いてボロ雑巾のように捨ててやるから。
更にミュゼットも「日頃お世話になっている皆さんに挨拶を」とか言う…が、目は笑っていない。「よくも夫に騎士団長なんて面倒な事を押し付けてくれたな」と言うつもりのようだ…やっぱりイチャコラしたいのよね。育ってきた環境が同じだから擦り合わせはしょうがないんやで。
というわけでいつもの屠殺じょ…もとい、訓練場にやってきた俺たち。さすがに遠巻きにされている。今度は何されるんだと怯えている騎士たち。調教は成功しているようだ……騎士がそんなんでどうするよ。
「聞けい! 我が妻にして聖女のラティーナ嬢が下賎たるお前らに加護を施したいという。受けたいものは並べ。受けたくないものは俺のところに並べ。矯正してやる」
「先輩、それ脅してます」
「ほら、皆並んで。アレクシールに痛めつけられてから加護を貰ったってすぐ治るわけないんだから」
セリーヌが俺を宥めてる間に、レシアがテキパキと騎士どもを整列させる…本当に出来た嫁たちだこと。
ラティーナ嬢が加護を与える…両膝を着いて手を重ね祈る。それを棒立ちで見てる騎士たちを踵落としで地に伏せさせるのが俺の役目。せめて片膝くらい着いたらどうだよ。これだから脳筋は…騎士学校で何習ったよ。
神は言っている、「こいつらに礼儀を教え直すのです」と…後、ミュゼットが冷めた目で思っている。「ダメだこりゃ」と……兄ちゃんの苦労分かってくれるか、マイシスター。




