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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒聖女~バカ王子が改心した話

作者: 山田 勝

「殿下・・悪いお友達とお付き合いを控えて下さいませ・・」


「はあ?カトリーヌ俺に意見するのか?」プイ、ダダダダー


「で、殿下・・」


 ・・・俺はこの国の第三王子、ロベール、我国は長子相続ではない。厳しい王位継承の競争がある。

 王太子に指名されるか、しないかで、後ろ盾になった各貴族の勢力図が変わるから、競争は過激を極める。


 第一王子は、政治経済学で上位の成績であり、実務でも結果を出している。第二王子は、騎士団で頭角を現している。

 対して・・俺は、全教科平均よりも、少し上、それも、家庭教師が付いてだ。

 王族の仕事は、まだ、していない。


 全くやってられない。平民では想像出来ないプレッシャーだ。


「殿下!今日も城下町に繰り出しましょう!」

「おう、行くか」


 そして、同じくプレッシャーに耐えきれない貴族の不良子弟が俺を中心に集まって派閥を形成した。


 俺たちには共通の兄貴と慕っている存在がいる。


 隣国のシャルル王子、王子の身分で無頼の徒になり、廃嫡された後、冒険者となり、今も各国を廻っているそうだ。

 俺は何回か王子時代のシャルル殿下にあったことがある。


 オールバックでかっこよかったな。



「おりゃ、もっと酒を持ってこい!」


「・・・はい」


 酒屋でどんちゃん騒ぎをして、次は女のいるところに行く。


 途中で、串焼き屋で、軽く食べようか?


「ちょ、ちょっと、お代を下さいな!」


「あん?俺は第三王子ロベールだぞ、王宮まで取りに来い!」


「そ、そんな」


 居酒屋、娼館で、遊んだ金は払わない。王宮にツケておく。誰か払うだろう。


 ・・・


「・・・これが知られたら、大変なことになる。ワシが払おう」

「お、お父様」


 第三王子の婚約者の実家の侯爵家が、秘密裏にツケを払っていた。


「カトリーヌ。もう、これは、ダメかもしれない・・婚約解消・破棄を覚悟しておけ」


 シュン「・・・そんな。初めの頃は優しかったのに・・」


「王子・・娘を悲しませおって・・」



 ☆☆☆ある日


「王子、面白い遊びがありますよ」


「うん?何だ?」


 騎士団長の息子が、俺に刺激的な遊びの提案を持ち出した。


「人斬りだと!」


「シ、声がデカいですって」


 ・・・何でも、死んでも捜索がかからないような平民が、郊外に集団で住んでいるらしい。

 流民という奴だ。


 彼は三日前の夜に、剣術の実戦稽古で実際に人を斬ったそうだ。


「ヘエ、面白い。今夜行くぞ!案内しろ」


 ☆


 ・・・待ち合わせの場所、お、あの木だな。俺は予定時間どおりにやって来た。


 ワクワクしている。これで、無頼の徒になれる。

 プレッシャーのない冒険者になれるのかもしれない。

 そしたら、カトリーヌとはお別れだな・・・


 と考えていたら、少女の声がした。


「おい、新入り、そこは私の場所なのです!どくのです!」


「なんだと、な・・」

 聖女の服を着た齢15歳くらいの少女が、魔法杖も持っていやがった。


 ・・・生意気な。しかも、肩に黒猫を乗せていやがる。


「おい、な!」


 ・・・俺は、言葉を失った。少女の手には、騎士団長の息子の首を、髪の毛を持ってつるしていやがる。

 どういうことだ!


「ほう、お前、剣術はしてないのです。魔法残滓も認められないのです。しかし、お前は剣を持っているのです」


「へ」


 ・・・いつの間に、少女は、俺の手首を取って、剣ダコを確認していた。

 猫が、クンクン嗅いで、首を横に振っている。

 どうゆうことだ。


「クロちゃんは魔法猫なのです。魔法を使っているかどうかわかるのです」


 そう言えば、最近、剣術も魔法の訓練もさぼりまくっていたな・・・


「それなのに、お前、剣を持っているということは、青臭い正義感に駆られて、賞金首、クズ王子を狙っているに違いないのです!」


 少女は、ビシッと指を差して、ドヤ顔で宣言した。



 ☆


 ・・・クズ王子って、俺のことか?

 俺はたまらず話題をそらした。

 騎士団長の息子の首のことだ。無関係を装おう。


「なあ・・・そいつの首、そいつは、何をやった!」


「ああ、こいつは三日ぐらい前に、ここで人斬りをしたのです。奴は人斬りに失敗して、被害者は大けがを負ったものの顔はパッチリの見たさんだったのです。だから、特定できたのです。

また、バカの一つ覚えで来やがったので、報酬銀貨三枚(3万円)で私が請け負ったのです!」


「や、安い。そいつ、貴族ではないのか?大丈夫か?」


「貴族だから、大丈夫なのです。貴族の命の値段は上にいくほど、戦場の兵士よりも安いのです!取って代わりたい奴が、勝手に病死扱いしてくれるのです!

それに、ここは流民の集まりなのです。大金をもっている者はいないのです!」


「な、何?」


「それに、死体は、少し先の森に持っていけば、魔物さんたちが食べてくれるのです!証拠消滅バッチリさんなのです!」


 俺は、言葉が出なかった。


 ・・・


「ああ、じゃあ、俺は、クズ王子討伐をあんたに任せて帰る・・・あんたはプロだからな」


「ちょっと、待つのです。折角だから、クズ王子を殺すところを見せてやるのです!」


 首の裾を強い力で掴まれた。

 何、こいつ、本当に聖女か?


 ・・・


「ところで、クズ王子って何をやって賞金首になった?」


「知らないで討伐しているのですか?しょうがないのです。教えてあげるのです!」


 少女は語り出した。

 クズ王子は、酒屋や、串焼き屋、娼館で、料金を踏み倒し、町娘を犯し、村民を面白半分で殺し、婚約者を無実の罪で陥れて・・・


 違う!俺はそこまではしていない。酒屋や串焼き屋や娼館で料金を踏み倒したぐらいだ。


「な、な、な」

・・・噂が勝手に一人歩きしたのか?


「あ、もう来たのです。情報通りなのです。お前、先に行けなのです。一番槍はお前のものなのです」


 ドン!と王子の背中を、少女は蹴飛ばした。


 どうなって、いやがる!クズ王子って、俺のことじゃないのか?


「あ?貴方は」


 月明かりで顔が、わかった。

 俺が蹴飛ばされた先には、隣国の、俺が兄貴として慕っている。シャルル、王子から冒険者になった。憧れの王子が・・・


 薄汚れた服に、杖を持って、ボロボロの剣を持っている・・・


「お、お前は、こっちに来るな。まだ、やり直せる・・俺は、追われて、この流民たちに混ざって刺客から逃げている・・、どけ!危ないーーー」


 ボロ服の男が、王子を突き飛ばした。


 ヒュンーと魔法の光が胸を貫き。ボロ服の男は絶命した。


「グハ!」


「お、お前、俺を巻き沿いにして殺そうとしたな!」


「フフフフフ、そうなのです。お前はこの王国の第三王子ロベールなのです!通称、バカ王子なのです!」


 ・・・言葉が出なかった。少女の魔法杖のコアが青く光っている。また、何か、放つ気だ。


「殺せたら、殺そうと思ったけど、お前は、運は良いのです。良く聞くのです。

 この流民は、第二王子が戦役を起こし、故郷を追い出された人々なのです。

 そして、第一王子は、戦傷地の貴族や商会を中心に援助して、領民はほったらかしさんなのです!」


「な、な、な、兄上たちは優秀ではなかったのか?」


「二人は、無能な働き者さんなのです。お前は、まだ、無能なのです。お前は有能な無能になれるのか楽しみなのです!でなかったら、銀貨三枚から依頼を受けるのです」


「そ、そんな。俺は、何を見ていたのだ・・」


「そろそろ、お終いなのです」


 少女が杖を掲げ、「転移!」と詠唱すると、死体の周りに魔方陣が浮かび上がり、死体は無くなった。


「何?」


 第三王子が振り向くと、少女は消えていなくなった。

 


 あれから、俺は走った。走って、走って、王宮まで帰った。


「・・殿下、また、朝帰りですか・・・」


 カトリーヌが寂しそうに、俺に問いかける。


「ううう、カトリーヌ!カトリーヌ!カトリーヌ!」


「で、殿下!」


 俺はカトリーヌに抱きつき。泣き叫んだ。


「すまなかった。すまなかった。やり直したい!」


 ・・・俺はあれから、貴族の不良子弟と縁を切り、まず初めにやったことは、侯爵に謝罪だ。


「殿下、信じて良いのですね・・・貴方は王族です。頭をお上げなさい。婚約破棄は保留にさせてもらいます。いいですね。次はありませんよ」


「有難い、有難い、有難い!」


 そして、俺は、侯爵に、俺用の王宮予算から、分割払いで今までのツケを払い。


 迷惑を掛けた酒屋、串焼き屋、娼館に頭を下げた。


「へ、あのバカ王子・・・何が起こったのだ」


 あの流民の群が恐ろしくて、たまらない。あの流民の群れの集合体、恨みが、あの少女を生み出したとしか思えなかった。


 さらに、俺は学園の貴族の子弟達に、訴えて、王都郊外の流民の炊き出しの費用の寄付してもらおうとしたが、集まらない。今までの評判があるからな。


「殿下、これを」


「カトリーヌ!この宝石は、これはお前が大事にしていた母上の形見ではないか?」


「いいえ・・・お母様から、本当に大事な時は売ってお金に換えなさいと言われました」


「「「ええ、あの真面目なカトリーヌ様が!」」」

「じゃあ、俺も」

「私も一回信じてみますわ」


 俺とカトリーヌが中心になり、流民への炊き出しを行った。



 ・・・

「弟は、政治が全くわかっていない。貴族と商会を潤せば領民など、どこからか集まってくるものだ」


「そうだ。新たな土地を奪えば、人民も付いてくる」


 兄上たちからは冷笑されたが、どうでも良い。


 次は、父上は説得して、魔物討伐の職を流民に与える資金を捻出させた。


 俺は得意分野がない。その分、全教科、平均よりも少し上だ。

 ということは、専門馬鹿にはならず。賢人たちを一歩引いて、全体を見渡せる愚人にはなれる。それで結構。

 何一つ出来ないが、専門馬鹿を統率することが出来る。いや、出来なければ恐ろしいことが起きる。

 それが、今回の流民の群だ。


 ああ、王になど、ならなくて良い。

 あの流民と、忌まわしい死体を処理する魔物の森さえなくなればいいと思って活動していたら


「王命、王太子は、第三王子を指名する!」


 ザワザワザワザワ


 王宮で文武百官の前で、宣告された。


「何だと、何故、政治の実績のないロベールが?」

「陛下、武勲で考えるべきです!」


「聞け。第一王子がばらまいた金は、貴族と商会が貯め込んで人民に還元しない!」

「第二王子は、戦いこそ勝ったが、土地を得るまでには至っていない!」

「しかし、第三王子の施策は、流民が良民に変わり、王都近郊で村々を作ったことで、治安が良くなったわ!」


「「それのどこが功績だ!」」


「わからないから、第三王子を次の王にしたのだ!」


 その後、第一王子は、政治資金を私的に流用していたことが発覚し、毒杯を賜り。

 第二王子は、更なる武勲を立てようと、敵陣に突っ込み包囲され戦死した。


 そして、盤石とは言わないが、戦争のない時代が二〇年続いた。




 ☆☆☆王都郊外、旧流民の居留地跡のバラック小屋


「貴方が、あの方の孫ではないですね?娘さんですかな?」


「????何なのですか?意味不明なのです!私は貴方のお母さんではないのです!共通認識がない話題を振ってはいけないのです!」


「ははは、失礼しました。仕事の話に移りましょう。座ってくれませんか?」


「私は座って商談をするほど、自信家さんではないのです!」

「ニャーニャー」


 ・・・あれから、20年、私は苦渋の決断をしている。

 王太子が、ハニートラップにかかった。


 卒業パーティで、婚約破棄をし、男爵令嬢と婚約を宣言、その後、隣国の王子がしゃしゃり出てきて、いわゆる。悪役令嬢を助け。彼女の家ごと、隣国に寝返らせる計画を察知した。


 王太子は、婚約者をないがしろにしているが、廃嫡をするまでには至っていない。絶妙にコントロールされている。

 まだ、問題を起こしていないが、起こしてからでは遅いのだ。


 だから、秘密裏に暗殺を・・・する。


 カトリーヌの形見とも言える大事な子だが、戦乱を起こすわけにはいかない。


「・・・王様は泣いているのです。落ち着いてから話すといいです。三代目クロちゃんに腕をペロペロなめられて慰められると良いのです!」


 ・・・ああ、有難い。


 過酷な競争に、心のスキを付かれたか・・

 我国も長子相続にするか。


 その後、しばらくして、王太子の病死が発表され、第二王子が王太子に指名された。


 王国内で、男爵家の一家が、食中毒で一夜にして全員亡くなり。隣国出身の商会が収賄容疑で騎士団に捕縛され、ムチ打ちの刑を受け。手ひどい姿で隣国に強制送還された。


 女神圏では、流民の群の中に、黒聖女が生まれる。だから、政治をしっかりしなければいけないとの教訓話がある。









最後までお読み頂き有難うございました。

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