缶コーヒーを飲む君
僕は同じサークルに所属している岩下と喧嘩してしまった。
今回の喧嘩は些細なことの言い合いが始まり、そこから大きく発展していったよくあるやつだ。
お互い自分の意見は譲らず、そのまま岩下はどこかへ行ってしまった。
サークルをやっている部室で一人。
静かになった部屋をゆっくり眺めた。
深呼吸をし、昂っていた気持ちが少しずつ落ち着いてきた。
またやってしまったという後悔と早く謝らないといけないという罪悪感で胸はいっぱいになった。
彼女が言ってることは正しかった。彼女はサークルのみんなが思ってることをぶつけただけ。
ただ、僕は自分のやりたいことを優先したいというわがままを言っていた。
そりゃあ、キレて当然だった。
しかも、僕はサークルの部長という肩書きだけで、本来の役割はしっかり者の岩下がやってくれていた。
僕もやろうと思ってはいたが、岩下にアンタがやると効率悪くなると言われて、簡単なことしかやっていない。
岩下には感謝するべきなのに、また言い合いになってしまった。
僕は謝罪の菓子折り代わりに、彼女の好きな甘めの缶コーヒーを部室の近くにある自販機で2本買った。
そして、彼女がいつも喧嘩した後に冷静になるために行く場所に急いで向かった。
階段を最上階まで上りドアを開けると、やはり彼女は屋上にいた。
夕暮れが綺麗に彼女を照らしていた。
ゆっくり彼女の元に近づき、話しかける。
「ごめん」
シンプルかつ一番伝わる言葉を彼女に投げかける。
その言葉が聞こえていなかったのか、少し無言の時間が続く。
「……」
彼女がぼんやりと夕日を見つめていたが、ゆっくりと僕の方を向いた。
「私も怒ってごめん。
ーーでも、高橋くんも悪いんだからね」
微笑みながら言った。
彼女の言う通り、僕が9割悪い。
僕も自分が馬鹿すぎて一緒に笑っていた。
「これ」
僕は彼女に先程買った缶コーヒーを渡す。
「飲みたかった」
そう言って彼女は僕から缶コーヒーを受け取り、軽快に蓋を開けて、飲んだ。
僕もその様子を見てから蓋を開け、ゆっくり口に入れる。
僕には甘すぎるが、たまには悪くないと少し笑う。
「甘すぎるとか思ってるでしょ?」
彼女に僕の心が見透かされていることに驚いた。器官にコーヒーが入り盛大に咳き込んでしまう。
「わかりやすいな」
彼女は僕が咳き込む様子に笑いながら言った。
「笑うなって、ゴホッ」
彼女はツボったのか爆笑していた。
僕はやっと落ち着き、笑う彼女の姿を見て、勝手に口角は上がった。