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8.ご都合オートモード

「我が息子、ジークハルトよ」


 重々しい声に顔を上げる。


 国王……つまりはジークハルトの父にあたる男は、王座から息子を見下ろしていた。


 その目には、威厳こそ漂うが、親が子に与える感情は一片も感じられなかった。


「その身に『夢の花』を宿したとこのこと。まずはよくやった」


「ありがとうございます」


 戸惑うより先に言葉が出た。


 あれ? と間宮は内心首をかしげる。


 またしても、間宮の意思とは関係なく、恭しく礼をするジーク。


 言葉も行動も勝手に出てくる。


 一瞬、鏡の中のジークの復活を期待したが、問いかける心の声に返答は全くない。


 もしかしてこれはオートモードなのか? と間宮は察した。


(まあ、それぐらいのオプションがないと、プレイヤーはオープニングで死ぬよな)


 改めて、ここがゲームの世界なのだと実感する。


 どうやら不慣れな所作で「中身バレ」することは避けられそうだった。


 上座に国王、その隣に王妃の座が設けられているが、王妃の座は空席。ここに座るべき第一王妃 ーーすなわちジークハルトの母は、病のため、床に臥せっている。


 そしてその前に間宮=ジーク、則妃とその子、弟二王子のアレクが控えてる。


 下座近くに神官服を来た初老の男性と黒装束の男。


 これが教会と異端審問会の面子だろう。


 神官は露骨に黒装束を避けているが、黒装束は素知らぬ顔だ。


(この黒装束が、アーノルドの言っていた「ライブラ」か)


 間宮=ジークはそっと横目でライブラを見る。


 身長は間宮=ジークと同じくらいか。黒いマントを頭からすっぽりと被り、やはり黒いマスクで目以外の部分を覆っているため、年齢も性別も判別できない。


 ふとライブラの目と間宮=ジークの目があった。


 その時なぜか、間宮=ジークはライブラが笑ったように思えた。


 アレクが鼻を鳴らす音が響き、はっと間宮=ジークは我に返った。


「五人の男が乙女に己の体の花を差し出して寵を請うとは。見目麗しい兄上には似合いの役割でございますな」


(二宮あたりがやると、実感こもりそうだよなあ……)


 アレクの嫌味たっぷりなセリフに、間宮は呑気に待合室で突っかかってきた二宮を思い出していた。しかし、間宮に対抗心を燃やしてきたからには、二宮はジーク狙いだったのだろう。実際、アレクの声は二宮の声ではなかった。


「口を慎みなさい、アレク。兄君に失礼でしょう」


 優雅に扇で口元を隠しながら、則妃が窘める。


 言葉ばかりは窘めているが、扇の下で笑っているのが分かる。


 則妃の言葉が聞こえていないように、王は言葉を続けた。


「ジークハルト。その身に課せられた使命は分かっておろうな」


「は。聖なる乙女が五人の勇者の『夢の花』を開花させた時、乙女は『夢見る魔法』に目覚め、花の力で夢をなんでも一つ叶える、と聞いております」


 これはゲーム通りの設定だな、と間宮は思う。


「私の使命は、その願いを国益に使うことでございます」


 国王は鷹揚に頷いた。


「乙女の夢の力は国のために使われねばならぬ。他の花の持ち主の名はまだ判明しておらぬが、我ら王族ほどに国を愛している者はおらぬだろう。誰よりも早く乙女を見つけて王族のものとし、『夢見る乙女』の力を王家のために使うことを期待する」


 王の言葉にジークハルトは再び深く礼をする。


「この命にかえましても」


「教会も異端審問会もそのように」


 神官とライブラが頭を下げる。


 それだけ言うと、国王は身をひるがえして謁見の間を去っていった。




「お疲れ様でございました」


 謁見の間の外で控えていたアーノルドが迎える。


 間宮=ジークはそっと息を吐いた。


 身の凍るような視線にさらされた全身が、、アーノルドの暖かな目で見つめられることで溶けていくようだった。


 これはもしかしたら、ジークハルト本人の感覚なのかもしれないな、と間宮=ジークは思った。自分が思っているより、この主従の関係は深いのかもしれない。設定資料では分からないことが多そうだ、と間宮=ジークは改めて思った。


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