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6.ヒーローとヒーロー(声)




「死んだ? 君は死んでここにきたのか?」


「分からない……」


 呆然と間宮は姿見の自分=ジークを見つめる。


「ゲームの世界に転生? そんなこと、現実にあるのかよ」


 しかも、そのゲームキャラに声を吹き込む声優が、である。


「笑えねぇ」


 暗い笑みを浮かべる間宮に、ジークは戸惑ったように声をかけた。


「そちらとこちらは違う世界だというが、そちらでも人は何度も死んで、何度も蘇るものなのか』


『そちらでも? どういうことだ?』


『私は何度も同じ時間を繰り返しているのだ。死して蘇り、そして死ぬ……。今は一体何回目の世界なのかもわからぬ』


 間宮は首をかしげた。


「何度も同じ時間を繰り返すっていうのはゲームなんだから当たり前だけど、死亡エンドなんかあるゲームだったかな……。もっとほんわかゆるゆるの恋愛ゲームの筈なんだが」


『……やはり、君から見ても、この世界はおかしいのだな』


「いや俺もシナリオの全容は知らないからどうなのか分からんが、そういう筋じゃなかった気がする。……そもそもここが本当にゲームの世界なのかさえも、分からんしな……」


 オーディション用のシナリオは情報漏洩を避けるため全体のほんの一部で、それすらダミーであることもある。しかし、流石にほんわか恋愛ゲームと死亡エンドありゲームでは内容が違いすぎる。


「いや、何回目かって言ったよな」


 ふと間宮は疑問に思った。


「何度も経験しているなら、死亡エンドを回避する方法も分かってるんじゃないのか? それに、外の世界から誰かがきたことも、一度や二度じゃないのか?」


『分からない……』


 眉間に皺を寄せるジークに、間宮は首を傾げた。


『一度殺されて時間が巻き戻ると、それまでの記憶は消えてしまうのだ。記憶が残っていることは初めてだ』


「初めて、だと?」


『今も、どんどん記憶が薄れていく。今覚えているのは最後に死んだとき、私は強く願い、手を伸ばしたことだけだ』


「手を」


『その手を握ったのは、君なのであろう?』


 あの光の中で自分を導いた手を思い出し、間宮は鏡にへばりついた。


「じゃあ、俺をこの世界に引っ張り込んだのは、お前なのか? それならどうやって戻れるのかも、知っているのか?! 二宮は? 二宮はどうなったんだ?!」


『なぜ、こんなことが起きているのか私にも分からない。


「私は死の間際、毎回願い続けた。己の中にある『夢の花』の力を使って。しかし、悲劇は回避できなかった。私の願いが間違っていたのだ」


 鏡の中のジークはふっと笑った。


「そうか、私はやっと正しい願いに気づけたのだな」


「おい! なんだよ、その正しい願いって! それがこの状況の原因なのかよ!」


 鏡の中のジークは顔を歪ませた。


『意識が遠くなってきた。もしかしたら、このまま私は消えてしまうのかもしれない。君に存在を受け渡す代わりに』


「え? ちょ、ちょっと待て! 俺はどうなっちまうんだよ!」


『「夢の花」を集めて「夢見る乙女」の力を覚醒してくれ!』


 苦しそうに顔を歪めながら、息も絶え絶えに鏡の中のジークは叫んだ。


『乙女が開花させた『夢の花』はどんな願いも現実にしてくれる。私の願いが叶えられれば、きっとこの狂った世界も変わるはずだ! そうすれば君も探し人に出会えるし、元の世界に帰れる……』


「その、お前の願いっていうのはなんだ?!」


『分からない……。思い出せないんだ』


「はあ!? じゃあ、どうしろっていうんだよ!」


『きっと君なら、「正しい願い」を求めることができるはずだ。いや、君にしかできないはずだ。だって君は「私になる」ためにここに来たと言っていたではないか……』


 ーー 俺がジークになってやるよ ーー


 二宮に言った言葉がリフレインする。


「まあ、確かにジークになる、って言ったが……」


『ああ、だめだ。消える』


 苦悶の表情でジークは顔を右手で抑えながら、声を絞り出した。


『何かあったら、アーノルドを頼れ。あやつなら、きっと君を守ってくれる……!』



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