4.出だしから炎上
× × ×
待合室の外は、炎に包まれていた。
「……え?」
予想外すぎる光景に一瞬思考が停止した間宮は、二宮の小さな叫び声で我に返った。
「なんなの、これ! なんで燃えてんの!」
「知るか! とにかく、戻るぞ!」
慌てて待合室に戻ろうとした間宮の前に、焼けた天井板が落下してくる。
間一髪のところで避けられたのは、背後から二宮が必死の形相で引っ張ってくれたからだ。
「あ……っぶねぇ……。焼き茄子になるところだった……」
「くだらないこと言ってんじゃないよ!」
半狂乱になった二宮がぎゅうぎゅう腕を引っ張ってくる。
火の粉を避け、煙を吸い込まないようにしながら間宮は周囲を見渡す。
「……とりあえず、戻るのは無理だな、これ」
間宮は、ふっと気配を感じて廊下の端へ目をやり、ぎょっとする。
廊下の向こうに、”何か”がいる。
「ねえ……あれ……なに……?」
さっきからずっと間宮の腕を痛いぐらい掴んでいる二宮が声を震わせる。
その声に呼応したように”何か”が振り向いた。「!」
間宮と二宮が声にならない叫び声を上げる。
それは、人型の炎……いや、燃えさかる人間、だった。
「……」
炎の中でにやり、とその人物が笑ったように見えた。
「やだー!」
二宮が叫び声をあげる。
炎人が駆け寄ってくる。
「く、来るな!」
間宮は二宮を背にかばい、台本を振り回した。
開いたページから、はらり、としおりが舞い踊る。
炎人の手が二人に届くか届かないかの刹那、火の粉がしおりに落ちて押し花に落ちた。
瞬間、周囲は激しい閃光に包まれた。
「な、なんだ?!」
あまりに強い光に視界を奪われる。
白い世界。
押し花を中心に、痛いほどの眩しさの光が周囲を包み込んでいる。
必死に目をこらす間宮に、手が差し伸べられる。「……レスキューか?」
背後の二宮の腕を掴み、間宮は必死にその手を掴んだ。
その手が、真っ赤な血に染まっていたことにも気づかずに。
はっと気づけば、今度は闇の世界だった。
手探りで周囲を探れば、柔らかな布地の質感を感じる。
間宮は恐る恐る立ち上がってみる。
どうやら、自分はベッドに寝ているようだ。
救出され、病院にでも運び込まれたのだろうか。
ふいに、泣きそうな二宮の顔が頭によぎった。
「……二宮!」
シーツを蹴飛ばして起き上がり、はっと気配を感じて振り返れば、そこには絶世の美形が立っていた。
ゆるい癖のある白に近いプラチナブロンドの髪が縁どる肌は陶磁器のように白く滑らかで、その美しいキャンパスにマリンブルーの宝石のごとく輝く双眸と筋の通った高い鼻、薄い唇がこれまた絶妙なバランスで配置されている。「正統派の王子様」といったら、十人中八人はこんな顔をイメージするのではないだろうか。
そんなテンプレ"だからこそ"望まれる王道のこの顔は、ここ数日、間宮が自分の顔より見続けてきた顔だった。まあ、そもそも間宮は鏡なんて、日常生活でほとんど見やしないのだが。
つまりは乙女ゲーム「夢見る乙女と五人の勇者」の筆頭攻略キャラ・ジークハルト王子がたたずんでいた。
「な、なんでジークハルトが……?」
呆然とする間宮に、低い声がかけられた。
「おめざめになられましたか?」
カーテンが開けられる音と共に、まばゆい光が部屋に差し込んだ。
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