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第六話 異世界人の犯罪

「俺はやってないと言っているだろ!」

「嘘をつけ!お前が突き落としたんだ!」


 スキンヘッドの強面刑事が机を叩き恫喝してみせるが、竜は負けじと睨み返した。

 取調室を小窓から射しこむ朝日が容赦なく蒸し焼きにした。扇風機を回してもまとわりつくような蒸し暑さに竜はシャツを扇いだ。

 音を上げようとする様子を確信した刑事は手で扇ぎながら不敵な笑みを浮かべていた。


「どうして俺が取り調べされなきゃいけないんだ?」

 

 竜は心の中でぼやきながら、昨日の出来事を思い返していた。





「飛び降りだ!」「うわぁ、死んでるじゃん!」「人、死んでるーっと」


 三橋銀行のオフィスビル屋上から男が飛び降りた。幸いにも通行人に当たることはなく、男は銀行の手前に小奇麗に飾られた植え込みへ飛び込んだ。凄惨な転落死体を見た女性が悲鳴を上げ、通行人は野次馬となり昼下がりのオフィス街は騒ぎになった。


「何をしてる!さっさと救急車と警察を呼べ!」


 DVD研修で学んだ内容を竜が叫んだ。

 現場に駆けつけた竜とななみ、続けて遅れてきた稲妻は呆然と立ち尽くすビジネスマンに指示を出して救急と警察を呼んだ。現場にブルーシートの壁が作られて男の遺体が病院へ運ばれた頃、一台のパトカーが遅れて到着した。そこから現れたスキンヘッドの男、今まさに竜を取り調べている男は竜を見るや否や、足早に竜の前に駆け寄った。


「お前、異世界人か?」


 目を細めて睨む刑事の質問に素直に頷いた瞬間、刑事の態度が急変した。温厚な瞳が猜疑心に満ちた瞳に変わり、野次馬がいなくなるまで竜をしぶとく問い詰め続けた。


「任意同行を願えますかな?」


 謂れのない疑いを執拗に向ける刑事に、オベソと面談した一件でストレスが溜まっていたこともあったのだろうか、竜は苛立ちを抑えられなかった。


「そんなに疑うなら付いて行ってやろうじゃないか!」


 竜は売り言葉に買い言葉で返してしまった。竜の暴走にななみと稲妻は慌てて刑事を説得したが、我を見失った二人を止めることはできなかった。

 そして、竜は丸一日警察署に閉じ込められることとなった。





「あいにく俺は異世界人とか言う化け物を信用しちゃいないんでね!」

「だから、目撃者がたくさんいるんだ!俺が犯人じゃないのは分かるだろ!」


 反論する竜の声には苛立ちがにじみ出ており、それを好機と言わんばかりに刑事は追求を続けた。


「はん!どうだか!大方、姿を消す魔法とか記憶を改ざんするスキルとやらでも使ったんだろ!」

「そんなスキル、俺にはない!」


 頓珍漢な推論を繰り広げる刑事に竜の苛立ちはますます募らせていた。


 入管庁のデータベースにも載っていない異世界人は五百人を超え、今も国が把握できていない異世界人が年間五十人ずつ日本に転移してきていると推定されている。


 国が把握できていない異世界人の(スキル)が犯罪に使われたとしても、それを証明する術はない。


 未知のスキルがあることを前提にした捜査会議は混迷を極め、出鱈目な捜査方針に従う現場の刑事たちは途方に暮れていた。


 しかし、警察が抱える裏事情を竜が知るはずもない。

 埒が明かないと竜が腕を組むと同時に取調室の扉が静かに開かれた。


「迎えに来ましたよ。竜おじさん」

「おう、伊勢。すまねぇな」


 いつもの見慣れた仕事仲間の伊勢刑事の姿に竜の声色が明るくなる。

 いつもの見慣れた腐れ縁の竜の姿に伊勢は鼻息を鳴らして顔を歪めた。

 そして、伊勢は取り調べをしているスキンヘッドの刑事に一礼した。


「お久しぶりです。日笠(ひのがさ)さん」

「伊勢君、久しぶりだね。元気にやっとるかね?この男と知り合いか?」

「ええ……まぁ、そうです……」


 日笠刑事は伊勢と握手を交わすと、しばらく互いの近況で話を弾ませた。


「彼女とはどうかね?」「また刑事課に戻ってこないか?」

 

 身上話で饒舌になる日笠に伊勢はただ短く頷き返していた。

 二人が談笑する中、蚊帳の外に追い出された竜は人差し指で机を弾きながら聞いていた。

 

「ところで、俺はいつになったら釈放されるんだ?」


 長い取り調べで苛立つ竜の言葉が二人の世間話を遮った。

 我に返った伊勢は気まずそうな顔を浮かべ、日笠は仏頂面を再び竜に向けた。和やかになった空気が一瞬にして元の張りつめた空気へ変貌するのを肌身で感じた竜は、余計な一言だったと反省することとなった。





 伊勢の尽力もあって何とか取り調べから抜け出した竜は麻布署の廊下を歩いていた。行き交う警官の姿はなく、その廊下には竜と伊勢の二人だけが歩いていた。


「全くしつこい野郎だったな」


 竜の口からこぼれた愚痴が無人の廊下に響いた。

 背筋を大きく伸ばして愚痴をこぼし続ける竜に伊勢が悲し気な視線を向けて声をかける。


「竜……日笠さんのことは許してやってくれ」

「どうした?偉くアイツの肩を持つじゃないか?アイツとは一体どういう関係なんだ?」


 思うがままに疑問をぶつけてくる竜に伊勢は苛立ちを隠せず舌打ちした。


「昔の先輩だ」

「昔の……と言うとヤクザを追い回していた頃のか?」

「違う、それは捜査四課だ。日笠さんは捜査一課だよ」

「なるほど……それで昔の仲間を擁護する訳だ」


 一人納得した様子の竜を無視して、伊勢は無言で廊下を突き進んだ。

 無人の廊下の突き当りを道なりに折れると、署の玄関が目の前に広がった。その受付に携帯電話をいじりながら黒髪をかき上げるななみの姿があった。


「連れてきたぞ」


 伊勢の言葉にななみが顔を上げる。

 その声にななみは腕を組み、ほんの微かに伊勢から視線を反らしていた。


「全く……あなたはどうして感情を抑えられないのかしら?」

「仕方ないだろ」


 立ち止まった伊勢の横を通り抜けて、竜は弁明しながらななみの下へ歩み寄る。ななみは駆け寄る竜の背後で気まずそうな顔をする伊勢にちらりと視線を送ると、そのまま離れるように歩み出した。


「ところで、伊勢」


 空気を読めない竜が伊勢に声をかける。

 背後で歩みを止めたななみに竜が気づく様子はなかった。


「俺を釈放してもよかったのか?」


 伊勢は呆れた様子でこめかみを押さえると、胸ポケットからスマフォを取り出した。何度か親指でスワイプして竜に一つの動画を見せた。


「これは?」

「ビルの下の通行人が撮った動画だ。屋上の人影に気づいて咄嗟にカメラを回したらしい。すでにSNSで拡散されている」


 竜は伊勢のスマフォを取り上げると、イイねが大量につけられた動画を再生した。

 最新のスマフォで撮られた画質の動画だが、ビルの真下から見上げたアングルのせいで逆光に晒されていた。

 そこに映っていたのは空から落ちる影と空を跳ぶ影ーーー二つの影だ。


「ビルの屋上を臆することなく跳び回る仮面をかぶった人物……お前も聞いたことくらいあるだろう?」

「仮面人族のことか。そう言えば、鬼俵の奴が調査しろとか命令していたな」

「鬼俵ってあの外務大臣のことか?」


 竜が漏らした外務大臣の名前に伊勢は目を細めた。外務省に仮面人族の調査話が通っていることに疑問を抱いたが、考える間もなく竜が尋ねてきた。


「空を飛んでいるのは本当に人なのか?鳥じゃないのか?」

「よく見ろ。翼がない」


 伊勢に言われて竜は何度も再生した。

 影しか見えていないものの正体を探り当てようと頑なになる竜に伊勢はため息をついた。


「捜一は仮面人族を重要参考人として捜査するつもりだ」


 爪を噛む竜を見て、それから玄関に集まる報道陣に目を向けると、伊勢は愚痴をこぼした。


「不法侵入の容疑で警察が捜査していた異世界人が人間を突き落とした。俺たち警察の初動が遅いと非難されるか、ダークヒーローと崇められた異世界人が起こした殺人事件と騒がれるか……どっちだろうな」

「警察の落ち度は俺には関係ない。だが……」

 

 伊勢の愚痴を否定し、竜は伊勢のスマフォを返した。


「仮面人族が突き落とした瞬間は映っていない。確たる証拠もないのに、異世界人が突き落としたと思われるのは心外だ」

「男が飛び降りた時刻、飛び降りが起きたビルの屋上から向かい側のビルへ飛び移るもう一人の影が映し出されている。これをどう捉え、どう伝えるか……アイツらに聞いてみたらどうだ?」


 伊勢は報道陣の方を指さすと、そのまま階段を上がって警察署の奥へ姿を消した。

 玄関に残されたななみは竜の方を見やった。視線に気づいた竜が振り返ると、ななみは目を細めてじっと竜を見つめ返していた。説教モードのスイッチが入ったなと勘づいた竜の顔に陰鬱な色が帯び始めた。


「分かっているでしょうけど、報道陣が来ても無言で通り過ぎるのよ」

「どうして俺のところにあいつらが来るんだ?」


 ため息をつくななみに竜は首をかしげた。ななみの意図を図り損ねる竜にななみが尋ねる。


「異世界人であるあなたが警察署から出てきたらどう思うかしら?」

「どうって……俺は悪いことは何もしていない。堂々と話せば良いだろう」

「あなたはそうでも、世間の目は違うのよ」

「また俺たちに対する偏見か?いい加減、うんざりだ」


 不貞腐れた顔を浮かべる竜を無視して、ななみは婦警に声をかける。婦警と交渉するななみを余所に竜は玄関にたむろする報道陣を忌々しげに睨みつけた。出入りする人物に一々反応を示すマスコミの姿に「熱心なことで」と愚痴を呟いた。


「裏口から出るわよ」


 ななみの言葉に竜は床を強く蹴った。その音に婦警は一瞬肩を震わせたが、すぐに毅然とした態度を取り戻し「こちらへ」と二人を裏口へ案内した。生活課のデスクの間を縫うように突き進む婦警の後ろをななみと竜が付いて行くと、すぐに非常口と書かれた扉へたどり着いた。


「ありがとうございます」


 婦警に礼を告げてななみは非常口の扉を押し開けた。

 警察署の建屋によって真夏の日差しが遮られた駐車場に二人は出た。辺りを警戒しながら進むななみの前に、パトカーの物陰から一人の女性が飛び出してきた。ボーイッシュな出で立ちの短髪女性のエメラルド色の瞳が二人を捉えた。


「週刊万人(ばんにん)の春波あすかと申します。取材、よろしいでしょうか?」


 裏口に待ち構えていた記者にななみは一瞬眉をひそめて、竜に目配せする。先程のななみからの忠告を思い起こし、竜は無言のまま記者の横を通り過ぎようとした。


「あなたが噂に聞く異世界出身のたった一人の公務員ですね?」


 思わずななみの足が止まる。突然立ち止まった彼女に竜がぶつかった。


「火のないところに煙は立たぬですよ。世間にあなたのことを隠そうと思ってもどこかから情報は漏れるものですよ?」


 したり顔を浮かべる春波に「何が言いたい?」と竜がぽつりとつぶやいた。呆気にとられたような竜の言葉に、「さては、自覚がない?」と春波は呟き、手帳に書き記した。


「国家公務員の採用試験は日本国籍を持つ者しか受けれません。ですが、あなたは日本国籍を持っていない。違いますか?」

「そんなことを聞きにわざわざ待ち伏せしたのか?」

「いえいえ、事件のことを聞きたいだけですよ」


 春波はスマフォを取り出すと、SNSサイトを竜に見せつけた。そこにはパトカーに乗り込む竜の姿が投稿されていた。渋い顔を浮かべる竜に春波が取材を続ける。


「釈放されたようですが、取り調べ室の居心地はどうでしたか?」

「それを知って記事が書けるのか?」

「警戒しないでください。ただの雑談ですよ」


 春波は余裕の笑みを浮かべてスマフォをいじると、小さなアラームが鳴った。「録音しているだけですので、気にしないでください」と軽く添えると、春波は更に語り始めた。


「異邦禄ができてから異世界人による犯罪は減りました。国民が異世界人に安心感を抱きつつあった矢先に起きた今回の異世界人による凶行です。世間の関心も高いですし、それに応えるのが私たちメディアの役目です」

「世間ねぇ……」と呟く竜に向かって春波はマイク代わりのスマフォを向けた。


「今回の事件について何か一言いただけますか?」

「話すことはありません」

「あら?あなたには聞いていないわ。こちらの殿方に聞いているの」


 割って入るななみの言葉を春波は軽くあしらうと、再び竜を見上げた。レコーダーを回している以上、迂闊に口を割るまいと竜は腕を組んで沈黙を貫いた。


「では、()()の者が事件を起こしたことはどう思いますか?」

()()?異世界人が犯人と決まったわけではないが?」


 竜の眉が微かに揺れる。

 その様子を春波は目を細めて見上げると、微かに口角を吊り上げて言葉を続けた。


「まだご存じでなかったですか?SNS(世間)ではその声が圧倒的ですよ」

「随分と狭い世間だな」

「どの放映局も異世界人犯人説を地上波で放送するつもりですよ?明日にでも私の言う世間は広くなるでしょう」

「何だと……!」


 声を荒げる竜の前にななみが立ちはだかる。

 ななみは竜から言葉を引き出そうと煽り続ける春波を睨んで、次に竜を見上げた。ななみの釘を刺すかのような視線に竜は思わず口をつぐんだ。

 その時、駐車場に一台のパトカーが軋むようなブレーキ音を鳴らして横付けされた。


「二人とも!迎えに来たっすよ!」


 パトカーから顔を出した伊勢の部下の広大(ひろまさ)が無邪気な声を上げた。突然現れたのんきな広大の姿に「はい?」と春波が間の抜けた声を上げた。

 その隙をついて、ななみは竜の腕を掴むと一気にパトカーの方へ引き寄せた。


「あっ!」


 春波が気づいた時には二人はすでにパトカーに乗り込んだ後だ。


「広大君!異世界課まで飛ばしてちょうだい!」

「は……はぁ……」


 指示を飛ばすななみに困惑しながら広大はエンジンキーを回すと、エンジン音を鳴らしながらパトカーは走り出した。その後を慌てて追いかける春波だが、追いつけるはずもなく駐車場の出口にしゃがみこんだ。


「逃げられたぁぁぁ!」


 無念の叫びを上げる春波が映るバックミラーを見つめ、広大は顔を引きつらせながらハンドルを握りしめた。後部座席のななみは「ありがとう」と広大に告げると、広大はヘラヘラと笑いながら答えた。


「お二人を迎えに行けと指示を出したのは伊勢先輩ですよ。その言葉を聞いたら、きっと喜ぶっすよ」

「……分かったわ。後で伝えとく」


 そつなく答えたななみはバックミラーに映る広大の含み笑いに気づいて、ふいと顔を反らした。竜は変わらず不貞腐れた様子で車窓を流れるオフィス街を眺めていた。

 代り映えのしないオフィス街をパトカーは走り続けた。やがて日も天辺へ登り始めた頃、フロントガラスに見覚えのある建物が見えた。


「あのビルから飛び降りたんだよな……」


 事件現場となった三橋銀行を見て、竜がポツリと呟いた。「そうっすね」と軽い相槌を打つと、広大は右ウィンカーを出した。


「おい。広大」

「何でしょう?」

「あそこに行ってくれ」


 そう言って竜は事件現場のビルを指さした。

 竜の突拍子もない言葉にななみが間髪入れずに止めに入った。


「ちょっと、竜!何を考えているの?」

「ななみ」


竜はしかめ面を浮かべるななみに向き直った。


「俺は異世界人……俺の同胞が疑われることに納得がいかない」


 左ウィンカーを明滅させながらパトカーが路肩に停まった。ななみは鋭い眼差しを竜に向けながら、「どうして?」と尋ねた。


「俺たちは故郷には二度と帰れない。故郷の家族や友に会うことは叶わない」


 竜は言葉を続けた。


「確かに俺がこっちへ来た事情は他の奴らとは違うかもしれないが、他の皆は相応の覚悟を背負ってこっちに来たし、死に物狂いで生活している。その覚悟と努力が何の根拠もないのに潰されるのはどうにも納得がいかない!」

「ですが、竜さん。それが人っすよ」


 声を荒げる竜に割って入ったのは運転していた広大だった。思わぬ横槍に顔をしかめる竜に広大はいつものひょうきんな態度と打って変わって淡々と語り始めた。


「人間は社会的な生き物っす。たった一人が悪いことしてしまうと、その一人を含む同族や仲間も皆、同じ悪い奴に違いないと無意識の内に分類するっす」


 神妙な面持ちで聴き入る竜をちらりと見て広大は言葉を続けた。


「竜さんが地球に来る前から異世界人の犯罪は悪目立ちしてました。だから、今回も真っ先に異世界人が疑われるのは仕方がないっす」

「だが、まだ異世界人の仕業と決まったわけじゃないだろ?濡れ衣も甘んじて受け入れろと?」

「でも、竜さんもあの動画を見たでしょ?」


 広大の指摘に竜は言葉を詰まらせた。言い返す言葉を失った竜に広大は世間のイメージを告げた。


「身体能力が高い人間なら跳び越せるかもしれないけど、普通の人間にあの高さを命綱なしで跳ぶことはできないっすよ」

「だから、それを確認するために現場を見せてくれないか?」


 竜は後部座席を揺らしながら立ち上がり、広大の両肩に手をかけた。熱のこもった竜の言葉に広大は思わず困惑の表情を浮かべていた。


「竜!いい加減にしなさい!」


 窮屈な車内にななみの甲高い叱責が響いた。


「私たちは警察でも何でもないのよ!」


 二人は外務省の入国管理局の所属だ。広大も警察ではあるが、外国人を取り締まる生活保安課であってテレビドラマの殺人事件を捜査する刑事ではない。

 車内にいる誰もが捜査権を持っていないと言うななみの指摘は正論だった。

 だが、竜は不満げな視線をななみに向けた。


「上から仮面人族の調査を頼まれただろ!」


 だが、その命令は他所の大臣の私的な事情(おねがい)に過ぎない。

 捜査権が認められるほどの力は何一つない。

 ななみは天井を見上げて、その黒髪をかき乱した。

 

()()()()の調査まで言われていないわよ!」


 ななみの言葉に車内が静まり返る。

 ななみは目を丸くして口元を手で押さえたが、手遅れだった。

 竜は怨色を露わにしてななみを強く睨んだ。


「お前も異世界人の犯行と思っているのか?」


 ななみは無意識の内に竜から顔を反らした。もの悲し気な視線がななみに向けられた。


「広大君」


 ななみがポツリと広大の名前を呟いた。「はぁ……」と気まずそうに尋ね返す広大にななみは指示を出した。


「異世界課に向かってくれる?」


 広大は「了解っす」と呟くと、右ウィンカーを点けてパトカーを動かした。

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