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私には幼馴染がいる。
イケメン、長身、優しい、気配り上手、言葉の隅々に男らしさがある、料理は上手だし帰国子女なのでレディファーストが素で身についている。性別が女に生まれたなら彼を好きにならない女性はいないというくらい完璧な男、それが幼馴染だ。私は昔からの付き合いなので慣れてしまってそういうのはないが。
ホストになったらNo.1間違いないだろうし、俳優なら超売れっ子になるに違いない。町を歩けば必ず女子から二度見をされる男。そんな彼は当然女性からモテなかったことがない。
しかしながら残念な事に、彼はお付き合いというものが長続きしない。別れる原因は100%彼にある。ここまで完璧で一体何が問題があるかというと、まあいろいろと残念なのだ。
いつものように私の家にふらっとやって来て二人で酒盛りをしている時そういえば、と私は言った。
「彼氏ができたかもしれない」
「え、その人本当に人間?」
考えるよりも体が動いた。
バヂン! とありえないくらい凄い音を立ててこぶしが止まる。私が放った正拳突きを奴は片手で受け止めていた。くそう、反射神経がいい。そもそもスポーツ万能で空手有段者であるこの男に勝てるわけもないのだが。
ギリギリと力をこめても涼しい顔で拳を握りつつどうどう、と言ってくる。
「落ち着こうか」
「落ち着いてるよ。どうやって殺そうか考えてる」
「うん、一回落ち着こう」
「でもさ、ツッコミが多すぎて頭パンクしそうだったわけよ。ウソ?、とかマジ?とか言われるのならわかる。勘違いじゃない、騙されてるよ、もまあ悔しいがわかる。彼氏歴0秒でしたから」
「秒で来たか」
「それがもうフォローも突っ込みもできない最上級な反応だったからどうにも。これで私が人間だよ!って突っ込みすると思う?ねえ思う?どう考えても人間相手に決まってるよね。私に彼氏が出来る事は地球外生命体が個人邸にコンタクトしてくるくらい、ゼロが1万桁いくくらいの小数点での確率でしかないってことですかね」
疲れたので力を抜けば向こうも力を抜いた。これで不意打ちなど仕掛けようものなら先にチョップが飛んでくるに違いないのでやらない。腕の長さも仕掛ける速さも向こうが上だ。
「あ、そっちいっちゃった?」
「どっちにいったのか説明してもらいましょうか」
「いや、ペット連れてきて私の彼氏~ってパターンもあるのかなって思って」
「あーなるほどそっちもあったね」
「まあ本音はぶっ飛ばされそうになった理由であってるんだけど」
「殺すぞこの野郎」
なんかもうおかしくて、たぶん私は今顔は怒っているけど口だけ笑っているというアカン顔になっていると思う。
「まあまあ、冷静に考えてみようか。男に正面から告白されても自分の事と思わないほど鈍感通り越して化石にでもなってるんじゃないかっていう感性の持ち主に彼氏だよ?ありえる?同じくらい化石みたいな感性してるか人間じゃないかのどっちかだよ」
「何正論言ってますみたいな顔してんだ張っ倒す。それ遠まわしに私が人間じゃないって言ってるじゃん」
「それだけ?」
「え、なにが」
まじまじと見つめて言えば彼は、本当に腹立つが物凄くかわいそうな人を見る目、憐憫という単語がピッタリな顔をして溜息をついた。イケメンがそういう顔すると絵になるな畜生。
「今他にもっと重要な事言ったんだけど気づいてすらいないとかさあ、ありえませんから。まあそれはともかくどんな経緯で何があって彼氏と思いこんだのか順番に説明してみよう」
「思い込んだってアナタ」
「早く」
「あ、はい」
早く、の時声がワントーン下がったので気がついたら返事をしていた。
「えーっとまずはその彼氏さんとやらとは会った事がないんだけど」
「はいアウト、この話は終了ですお疲れ様でした。まあ飲んで忘れよう、これ美味しいよ。この間行ったレストランで美味しかったから真似して作ってみた」
「ちょいちょーい、ちょっと待ってー」
「信じられない、何? 何ていった? 会ったことない、の前にまず彼氏さん『とやら』がついたよ。それ確実に彼氏だっていえない状況って事でしょ。確かに実在する生命体なら絶対勘違いだし実在しないなら論外だよ。脳内と画面の中の男性は彼氏とは認められないからね、これテストに出るから」
「言いたい事はわかるけど腹立つな。まず話を聞いてよお願いだから。話の腰折らないで聞いて」
「……えー……」
「えーって。聞いてよいつも話聞いてあげてるじゃん」
「わかったよ」
いかにもしぶしぶと言った様子だがいちいち突っ込みを入れてこなければよろしい。そして彼が言っているとおり新作料理はとても美味しい。
「もともとオンラインゲームでよく一緒にプレイする人なんだけど、そのゲームってキャラ同士の関係を設定できるのね」
「設定?」
「親、兄弟、友人、恋人、夫婦、みたいにさ。自分のキャラと相手のキャラがどんな関係なのかを選べて設定することができるの。例えば友人で設定すると、友人同士でしか行けないイベントが発生したりするんだよ」
「ああ、なるほど。要は大人がするごっこ遊びみたいなかんじ」
「そそ。会話も親子なら親子らしい言い回しを選んで親子を演じる。これ戦うゲームだからね。そういう遊び方するとより盛り上がるわけよ」
「突っ込みどころはいろいろあるけど今は我慢するよ、続けて」
どうせコイツのことだから何でわざわざゲームで、相手と直接会うわけでもないのにそんな事をするのか理解できないとか考えてるんだろう。彼は世間一般でいうところのリア充、私はオタクだからその辺の考えの違いは大きい。顔が見えないから後腐れなくていいのに。というか女をとっかえひっかえしてるこいつだってリアルでそれをやってるようなもんだから同じじゃないか。
「で、最初は友人設定でやってた人が、徐々に仲良くなって恋人になっていくってかんじでやりたいっていうから、いいよって言ったの。少女マンガとかでもさ、幼馴染の腐れ縁が何かをきっかけに素敵な男性に見えてドキドキしちゃう、みたいな展開あるじゃん。あんな感じでやりたいっていうから」
そう言うと彼は目を丸くした後「ぶあっふぁ!!」と謎の噴出し方をして笑い出した。悔しい事にそんな変な噴出し方をしてもイケメンなので様になっている。顔面偏差値が高いと何をしても許されるものだ。私は絶対に許さないが。
「あははははは」
「なにゆえ笑いますかね」
「いやゴメンなんでもない。とりあえず透瑠がそれ語るとかおかしすぎてもう。相手の顔面ストレートでぶん殴っておいて暴力はいけませんとか言ってる神父とか、猿が木から落ちて複雑骨折してもう俺二度と木登りしねえって呟く並に面白かった。ダメだこのネタで俺3ヶ月は笑える」
「よくわからんけど馬鹿にされてるのはわかった」
「それだけわかれば十分だよ。まあでも、なんとなくわかってきた。オチも見えたけど一応続けて」
確実に馬鹿にされたのがわかったが話の腰を折るなと言ったのはこっちなので一応反論はしないでおこう。なんかさっきからコイツの様子が微妙にいつもと違うというか、なんというかちょっと怖いし。
「だから今はその人と設定は友人のままで行く行くは恋人設定にしようってことで遊んでるんだけど、ちょっと最近あれー?って思って。見てもらったほうが早いかな」
言いながらPCを立ち上げゲームにログインする。ゲーム内のフィールドにはいかず、立ち上げたのはキャラ同士の会話ログだ。よく一緒に戦いに行くメンバーは決まっている。ログには複数の名前が表示されている。
「このトビウオっていうのが私」
「ストップ、どういうことそのハンドルネーム。女子力なさすぎるどころか人間力さえないんだけど」
「いいじゃん別に。テレビ見ながら登録してたらニュースでトビウオが謎の大量死ってやってたんだからしょうがないじゃん」
「よりにもよって何で大量死してるものから拝命するかね。まあいいや」
「この無人っていうのが彼氏(仮)。ちなみにこれナイトって読むそうだ」
「……」
「うわあ、みたいな顔しない。いいじゃんハンドルネームくらい好きにつけても。で、ルリコと灯篭さんは友人設定ね」
言いながらログを少し前まで遡って表示した。そこにはトビウオと無人の会話が表示されている。
無人:休みの日って何してる?俺はゲーム以外ならぶらっと買い物行くの好き
トビウオ:休みの日?ゲームしかしてない
無人:マジで?外出ようよ、女の子って買い物好きじゃないの?
トビウオ:別に好きでもない。必要なら買うかな。目的ないならわざわざ行かない
無人:行った先でお気に入り見つかるかもしれないじゃん
トビウオ:見つかるかどうかもわからないもの探して歩く労力と時間あるなら確実にアイテムが溜まる稼ぎイベント出た方がマシ
そのログを見て彼は大変残念なものを見る目で……例えるならラーメンに胡椒かけようとしたら内蓋ごと取れて山のように胡椒が溢れ出たときのような目で私を見る。
「女子力」
「やかましいですよ」
「ごめん、現時点では個人的に無人さんに一票」
「だからお黙りなさい。次の会話見ても同じこと言えるかねキミは」
無人:ええええwそれ勿体無いって。絶対楽しいって、いろんなお店行くの。お勧めあるから行ってみる?
トビウオ:え、新規オープンのエンペラスあったっけ?マジ?
無人:いやゲームの話じゃなくてさ。実際の話
トビウオ:なんだびっくりした。毎日欠かさずチェックしてるのに何か見逃したかと思ったよ。心臓に悪い
無人:エンペラスの情報はチェックしてるんだ?
トビウオ:あったりまえ!緋水晶手に入るのガチャ回すよりも確率高いんだよ、これを逃さない手はないでしょ。ただでさえ今ウルガドエリア罠多くてスタッグポイント減りまくるんだし、少しでも多く持っておきたいじゃん。緋水晶1個あるだけでも違うからね。絶対次のイベントはウルガドエリアで巨人族とのイベント戦闘あるよ、どんな小さなチャンスも見逃しちゃだめ!
無人:あー、それで最近ログイン長いんだ。経歴見たら半日以上やってるよね。遊びに行ったりしないの?
トビウオ:行くよ、ローランドエリアめちゃ楽しい
無人:いや外に
トビウオ:外?フィールドいったってオイシイ事なにもないじゃん。ザコばっかでさ、それならまだプチペン育てて卵産ませて料理作って売った方がお金になるよ
「とりあえずね。私のゲーム廃人っぷりはスルーでお願いします。重要なのはゲームの会話にさらっとリアルを混ぜてきてることね」
「あ、それは気がついてたんだ」
「そこまで馬鹿じゃない。私は全力でゲームを楽しみたいからリアル……プライベート話題は極力避けてるわけよ。無人もそれ知ってるよ、前はこんな事言わなかったから。でも恋人設定にしていきたいって言い始めてからなんかやたらこういう会話増えたんだよね」
その他に表示した会話はトビウオと無人の他愛ない会話。それを順に見ていた彼に聞いてみる。
「どうよこの会話」
「彼氏気取りの発言にしか見えないかな」
「私はゲームの話しかしてないのに、確実に無人はリアルの話じゃん。で、そのうち仲間内では恋人設定にしてないのにこんな話してるなら二人はリアルでお付き合いしてるんだろうって空気になっちゃってるわけよ」
「馬鹿なの?」
「やっぱそう思う?」
「透瑠が」
「私かよ!」
「なんで一言違うよって否定しないのさ。明らかに相手の思いこみじゃんこれ」
「いや、なんかこう、あれ? おかしいぞ? って思ってるうちにあっという間に拡散されたというかね」
「拡散したのも本人でしょどう考えたって。現実だったら軽く美人局に引っかかって借金地獄か血を見る泥沼になってるよ」
「やけに生々しい、怖い」
実体験済みと言われそうで怖いというかそれ以外ないというか。考えてみれば前に女性関係でもめて夜道で刺されそうになったとか言ってたな。
無人との会話は最近ではいつ会えるのかという話題のみだ。こっちは一言も会うなんて言ってないのに会えないかな、会いたいな、会おうよ、いつヒマなのと聞いて来る。
「まあ結論から言うと、なんかこの人私の彼氏になってるみたいだからもう彼氏でいいのかなって」
「アウト」
「具体的に何が」
「透瑠に彼氏という生命体が存在し得る事実そのものが」
「うわあ、どうしようこれ。まるで万有引力はニュートンの勘違いなんですけど超ウケルって言われてるみたいで複雑」
「透瑠のその、めんどくさいからもうどうでもいいや好きにしてくれっていう思考回路は昔からだからそこは別にいい」
「いいんだ」
そこは否定しろってさっき言ってたからいい、といわれた事が意外だった。しかしコイツには何言ってもダメだ的意味が入っているのはいただけない。
「その考え方はカタストロフィが起きても直らないのはよくわかってる」
「カタスト……なんだって?」
「後でググって。透瑠の考えはともかく透瑠に彼氏がいるのは大問題。神様がバグったとしか思えないくらいありえない」
「なんかさっきから酷い言われようなんだけど」
「サンタクロースを信じている子供に対して、サンタクロースは日本の文化じゃないからいるわけないだろそんなもんに浮かれてるヒマあったら大掃除に精出せって言われたとき並にありえないんだけど」
「まだ根に持ってたの。悪かったって」
「海外生活長かった子供に対して凄く酷だよね。あっちではクリスマスの気合の入れ方ハンパないんだよ? 父親がサンタの格好して夜に窓から入って来る演出までしてくれるっていうのに。あの日はショックでクリスマスディナーほとんど食べられなかったよ」
「くりすますでぃなあをネイティブに発音すんな帰国子女! 悪かったよ! ウチが貧乏でそういったイベントとかプレゼントもらえないもんで物心ついた時から親にそう説き伏せてきたんだからしょうがないじゃん!」
「まあそういった具合にありえないわけだよ」
「なんかもう何の話してたか忘れそうだけど私の彼氏の話でしたね」
ぐったり言うと奴は勝手にキーボードを叩いて何かを始めた。覗き込めば、そんなに会いたいなら今度会おうという約束をしている。
「何をしているのかねチミは」
「きりがないしこのままいくとストーカーにでもなりそうだから対処しないとでしょ」
「何するの?」
「会うしかないじゃん」
「会いたくないでござる」
「会わなくていいよ。会うのは俺」
「え」
「今までのログ見ると透瑠、トビウオは私女の子です、なんて一言も言ってないじゃん。女の子だよね、っていうフリに対して否定とも肯定ともとれる話題で切り替えしてるだけ。恋人ってのもずっとトビウオはゲームの設定上の話しかしてないだろ。だからトビウオの中の人が女性だっていう証拠はどこにもない。だったら俺でもいける」
言いながら即座に食いついてきた無人に対して次の土曜日、東京駅で会おうといった類の約束をとりつけている。どんな格好がいいかな、という問いに対して無人はノリノリで服を指定して来る。
「腰くらいの長さのチェスターコートに白のゆったりニットセーターで萌え袖、フレアスカートは寒いからやだって言っておこう、まあセーターに合うボトムでも履いてくよ、と。ヒールも寒い、ブーツってことで。ところで透瑠さん、初めて会う相手に自分好みの服まで指定してくる男はどうですか」
「キモイ」
「よかった、そこの感性はまともだった。化石っていってごめん、宇宙空間でも死なないけど仮死状態になって適切な環境になると起き出してくるクマムシくらいには生物っぽかった、良かった」
「良くねーよ張っ倒すぞ」
ガシっと後頭部を掴みぐしゃぐちゃかき混ぜると髪形崩れるからヤメテと冷静に返された。くそ、このイケメン真面目に言えば何でも許されると思いやがって。
「チェスターコートは持ってるしブーツとかもあるけど白のニットセーターはないな。買いに行かないと」
言っている内容そのまま打ち込めば無人は速攻返事をしてきた。
「そこまでするの。あ、無人大喜びじゃんほら」
「いいよどうせセーター欲しかったから。自分の為にそこまでしてくれるとか普通は嬉しいもんだよ。しかも俺色に染まってくれる女子だと思えばなおさら。男が自分好みの服指定するとか服贈るとかは自分好みに仕上げたいとか、ちょっと古い言い方すると脱がす為って相場が決まってるからね」
「アンタが言うと説得力ありすぎて逆に怖いんですがそれは」
「褒めてるのそれ ?大丈夫だよ、俺が付き合ってた子に服贈ったことなんてないから」
「あ、そうなんだ。私には服買ってきてくれるから当たり前なのかと思ってた」
「……」
黙りこんでしまったのでなんだろうと思っていたら少しこっちを振り返る。ただしその目はなんていうかこう、受験生がおみくじで大凶を引いてしまったかのようななんともいえない色が浮かんでいる。
「なに」
「もうさあ、自分で言ってて何か違和感とかあれ?って思うとかないわけ?彼氏気取りの男の違和感は気づけるのに何でそこ気づかないかな」
「??? お金使わせてごめんね? これであってる?」
「全然違います。もういいよ、わかってたからイイデスヨ」
「何拗ねてんの」
「別に」
あ、だめだこれ。久しぶりに不貞腐れモードだ。こうなると何言ってもだめだ。サンタなんていねーよって言った時もしばらくうんとううんしか口きいてくれなかった時と同じだ。
仕方ないのでもうその後のやり取りは任せて事の成り行きを見守る事にした。約束も服の指定も快くOKして無人はどんな服を着て来るのかを確認したら他愛ない話題を繰り広げたらゲームを終了した。
そして約束の日、指定どおりの服を来たアイツはいつも以上に決まっていてちょっと殴りたくなった。
「何その目、何か不満?」
「確かにメンズでも揃えられるアイテムばっかだけど。何その決まり方。何? 雑誌から飛び出してきたんですか? これからファッションショーにでも行くんですか?」
「褒められてるってことでいいんだよねとりあえず、ありがとう」
「前向きか」
「実際貶してはいないじゃん」
じゃ、と出かけていく後姿も素晴らしく決まっている。すれ違う女性がえっという顔で振り返り見とれているのがわかる。うん、さすがは私のイケメンレベルがカンストしている幼馴染。気合入れておしゃれしたら芸能人もびっくりだ。普段から凄くカッコいいけどね。
……。
うん?あれ?今何か……まあいいか。
2時間ほどで帰ってきた彼を出迎えれば手にはお土産を抱えていた。あけて見るとマフラーだ。
「いつも首が寒そうだから買って来た」
「ありがとう。で、どうだった」
「待ち合わせに先についたから待ってたら雑誌に出ませんかって声かけられて」
「いつもどおりじゃん」
「女の子が集まってきて写真撮っていいですかって囲まれて」
「いつもどおりですねハイ」
「5~6人に囲まれてわちゃわちゃしてたら無人と思われる格好の男が来たから」
「あ、嫌な予感」
「無人さああああああああん、って大声で呼んで笑顔で手振ったら相手固まる、女の子もえ?みたいなリアクション、スカウトマンも何あいつみたいな顔」
「やめて差し上げろ! 誰が必要以上に煽ってこいっつった!」
「その場にいた全員、ああ、囲んでた人たちだけじゃなく本当にその場にいた全員が無人と俺を見比べて、しかもナイトって何?みたいなひそひそ話になって、今日初めて会う大切な友達だからちょっと離れてくれますか言って無人に駆け寄って会話してみた」
「何かもう介錯してあげたい」
無人も相当気合入れてオシャレしてきたに違いない。それなのにスーパーイケメンが自分指定の服を着てきているという事実ときらっきらの笑顔で走りよってくるという事実は普通の男ならプライドが真っ二つだ。
しかも周囲の目は絶対「え、なんでこのイケメンとあのフツメンが友達?嘘でしょ、身の程って言葉調べちゃいなよ?」と訴えていただろう。何故わかるか? それは私が常に周囲の女子から言われ続けてきた言葉だからだ。
「その後も聞きたい?」
「いやもういい」
「ま、結局帰られちゃったから買い物してきた」
「ああ、そう」
物凄い疲れを感じながらゲームを立ち上げた。こりゃもう友人設定解除されてるだろうけど、ルリコや灯篭さんたちにはフォローいれとかないとトビウオはガチホモにされてしまう。いやされてもいいけどこの際だから。
すると二人はすぐに鍵付き部屋に集まってくれて、無人から騙された的話を散々されてきたと明かした。
ただし今までの私ののらりくらりとした態度や度が過ぎてきていた無人の態度から、薄々事情は察してくれていたようだ。私の事情説明もすんなり理解してくれた。
ルリコ:ま、イイ薬にはなったんじゃないかな。無人に悪気がない分ちょっと可哀想な気もするけどw
灯篭:リアルで会いたい人と、絶対会いたくない人の考えの違いってのはあるからそこは考慮しないとな。今回は無人が悪いと思うよ
トビウオ:そうかな? まさかアイツがあそこまですると思わなかったからぶっちゃけ引いたわ
「引いたは酷いな。中途半端にやるより叩きのめした方がいいよ」
「そんな事するから刺されそうになるんじゃないですかね何で時々アンタは武闘派なのかね。ああいや、空手やってたから闘争心はあるか」
灯篭:その幼馴染さんに感謝しないと。体張ってくれたんだし
トビウオ:あー、うん。わかった
ルリコ:ところでさっきの話だとその幼馴染さんってカッコいいんだよね?
トビウオ:ああ、まあ顔面偏差値は高いね
灯篭:あー
ルリコ:あー
トビウオ:なに?
灯篭:いや普通にさあ。その幼馴染さん連れてって「彼氏と来ちゃった♪」でよかったんじゃない?
トビウオ:あ
「あ」
「え?」
「その手があった」
「え、何?気がついてなかったの?」
「あ、はい」
「……」
「え、なんですかその顔。不貞腐れる寸前みたいな顔やめて、イケメンだから凄く絵になるけど」
「……どんだけそのポジションから外されてるのかな俺は」
「よくわからんけどゴメンて」
「わからないなら謝らないでもらえますか化石感性のクマムシさん」
「ちょっと酷くない?」
「は!? どっちが!?」
「え、あ、なんかすみませんでした」
「……。もういいよ。とりあえず材料買って来たから冷蔵庫入れてくる」
「あ、はい」
よくわからないけど、今奴のバックには罪のない人を100人殺した罪人を目の前にした閻魔大王がいるようなオーラを感じたのでそれ以上何も言えなくなった。久々にめっちゃ怖い。
ルリコ:おーい、どうしたの?
トビウオ:今のログ見せたら怒られたでござる
ルリコ:え、ああ、そう
灯篭:え、ああ、うん
トビウオ:え、何その察しましたみたいなリアクション
ルリコ:ところで次のイベントはウルガドエリアの小人捕獲だってさ
トビウオ:小人おおおお!?巨人族討伐じゃなく!?
灯篭:さっき発表あったよ、小人捕獲イベントの詳細。捕縛能力上げとかないとちょっと辛いね
トビウオ:うっそだろおおお!私の緋水晶集めの苦労とは一体!
ルリコ:まあまあ、幼馴染さんの苦労に比べたら微々たるもんよ
トビウオ:何それ!?
トビウオ:あ、わかってくれる?
最後のトビウオは私じゃない。いつの間に後ろにいたのか後ろからキーボードを打ってきたのは奴だ。
「さて、今から何か作るからゲームでもしてて」
「いや待てこら、何今の割り込み」
「駅で美味しそうなワイン買って来たから」
「ありがとう。で、今の何」
「小人捕獲頑張って」
「ああ、うん。いやだから今の」
「東京駅って何でもそろってていいね、チーズとかもあった」
「あ、美味しそう」
「あまり長いプレイしないでね、すぐできるから」
「はいはい」
なんだか有耶無耶になった部分があった気がしたけど、目の前の料理がおいしそうだったので脳内はすっかり食欲100%となり、その場はお開きとなった。
その後無人がゲームにログインすることはなかったけど、別に支障はないので平和なゲームライフを楽しむこととなった。男ってプライドを傷つけらた時が一番ダメージでかいのかね。
END