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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

吉三郎の刀

作者: 小城

雨が降って来た。

「さっきまで晴れていたのに妙だな。」

越後の地下の者、吉三郎は、突如、降りかかる夕雨の下、刀を手に持ち、雨から頭を守りながら、家路を急いでいた。研ぎに出した伝来の刀を取りに行った帰りであった。やにはに天がごろごろと鳴り出し、大雨が降ってきたのである。

 吉三郎の家は山の中にある。やっとの思いで、山の入り口まで来た。吉三郎は入り口横にある鎮守のお社の脇で雨が止むのを待った。

「(雨が止まねば帰られまい。)」

吉三郎は炭焼きの山人であった。山中の道程は険しく、雨でぬかるんでいては危険であった。

「(これは村に戻って、泊めてもらうしかあるまいか。)」

呆然と立ち尽くしていると、お社の横の林から、ガサゴソという音とともに獣が現れた。

「(ヤマイヌか…!?)」

それは確かにヤマイヌの姿をしてはいるが、そうかと言われるとそうではなかった。体は白く灰がかっており、体の表面には毛がなく、皮膚がつるつるとしている。一部、背中にだけ毛があるがそれは天に向かって逆立っていた。吉三郎の姿を見ると、それはよたよたと四つ足で近づいて来た。恐ろしいことは、その獣は口から赤い血を垂らしていることであった。

「(立った…。)」

その獣が二足だけで立ったと思うと、ものすごい勢いで吉三郎に飛びかかってきた。その大きさは6尺程はあったという。

「ひやっあ!」

吉三郎は咄嗟に刀を抜いた。天には雷鳴が轟いた。吉三郎が気がつくと、雨は止み、天には青く空が広がっていた。目の前にあの獣の姿はなかった。

「(幻であったか…?)」

手には先祖伝来の刀が握られていた。見ると、その刀身にはべったりと血糊がついていた。吉三郎は血糊を拭き、刀を納めて、急いで家に戻った。

「それは雷神の化身ではないか?」

吉三郎の話を聞いた人々はそういった。

 その後、妻子らの薬代金に困り、刀の買い手を求めて山を降りた吉三郎は、村の人々の前で、その刀の切れ味を見せようと考えて、刀身の1寸上から小豆を落とすと小豆は真っ二つに切れたという。そして、それを見ていた越後の武将、竹俣慶綱の目に留まり、雷を切ったという話とともに先祖伝来の刀は買い取られたという。

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