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其の一:マサオとヨリコ

「お」

「よぉ」

 学生食堂にてその二人は偶然顔を合わせた。

「久し振り。今からメシ?」

 鞄を肩にマサオが問うと、

「うん。そっちは?直帰?」

と、トレイを支えながらヨリコ。マサオは少し考えて、

「そうだけど、…暇ならウチ寄らない?前言ってた漫画貸すから」

「ああ、サンキュ。じゃパパッと食うからさ」

「おう、通りのコンビニで待つ」

 

 十五分後。

「お待たせ」

 立ち読みしていたマサオの肩を、ヨリコが叩く。

「ん!チャリ?」

と振り向いてマサオ。

「そりゃもう」

「うし」

 コンビニからマサオのアパートまで自転車で二十分程度。

 

「おおー、ここ来るのも久々」

「っても二ヶ月ぐらいだろ」

「いやあ結構長いよ、二ヶ月は」

「あそう」

 

 ドアの鍵を開けると、散らかった部屋。

「うわっ…」

「何だよ」

「言わずもがな」

「別にいンだよ」

「つかさ、よく平気で人呼べるよね」

「この場合はセーフだろ。飲み会とか彼女来る時ならさすがに片付ける」

「えっ彼女居んの」

「…さてどうでしょう」

「あ、居ないのか」

「居たらもっと片づいてる」

「おっ大胆発言」

「は?呼ぶだろ、普通」

「って言われても」

「ああアンタは呼ばれたことないか」

「…言うね」

「言うけど?」

「……」

 

 マサオ、散乱した物をかき分けながら、やっと目的の物を引っ張り出す。

「…うん、ちゃんと揃ってるな。はい」

「何巻だっけ」

「全十七巻」

「オッケー、来週には返す」

「おう」

 

 奇妙な間。

「…何だよ?」

とマサオ。

「いや、何つうのホラ、この『用が済んだら帰れ』みたいな空気?」

「いや思ってねえし」

「でもかといって居てもやること無いけどね」

「…じゃ帰れば」

「うーん…」

 ヨリコ煩悶。

「だからそれはちょっと何か寂しいじゃんよ…」

「あっ分かった、お前ここんとこ引きこもってたな」

「ぐっ」

「んで人と会うの久々なんだろ。大人気無い」

「うぐぐぅ」

「しょうがないねえ学生ニートは。じゃここでちょっと読んでけば」

「…そうする。悪いね」

「最初の三巻までぐらいにしとけよ」

「ん?じゃ途中から三巻分にするわ」

「へ、なんで」

「ああ、途中までは読んだから」

「あ、そうなの」

「うん」

 ヨリコが漫画に目を落とす。

 

「……」

「……」

 ピィィーーーッ…。

「ん、お茶?」

「ああ。飲む?」

「折角だから頂きます」

「…べ…別にアンタのために沸かしたんじゃないんだからねっ」

「ツンデレはいい」

「…すまん」

 

 マサオがキッチンに立つ。

「麦茶でいい?」

「オッケー。つか、何気に親切だよね」

「あ?」

「アンタが。私が『居させろ』って言った直後には茶沸かしてるし」

「まあ、客だしな」

「部屋はこれだがな」

「黙れィ」

 

「…まあ、何だな」

「何だ。はい麦茶、本にこぼすなよ」

 カチャ。

「彼氏にするならアンタだろうな」

 

「……いやいや」

「……ん?」

「いやいやいや。…ははっ、あっはっはっはっ」

「…あ、そんな面白かった?光栄です」

「はっはっは…はぁ。動揺さすな」

「ん」

「この寂しい男を、お前な…」

「あらゴメン、傷口抉ったかしら」

「…ギャグか…」

「まぁね。残念がることじゃないっしょ、相手が相手だし」

「アナタノコトハ、トモダチ、トシカ、ミラレナイノゥ、って?」

「似てない」

「…誰に」

「私に」

「…ん?」

「…何」

「いや、おかしくないか」

「え」

「今のがお前の真似だとすると、俺が告って振られるシチュエーションだ」

「…あ。そうかゴメン、間違えた」

「……」

「告るわけないもんな」

「失礼だな。やるときはやる」

「まぁっイヤらしい!ヤるときはヤるですって」

「…おい」

「今のは冗談だリューク」

 茶をすするヨリコ。

 

「ん」

「……」

 なにやら納得の行かない表情のマサオ。

「わかってるって、『告るわけない』はアンタが私にって意味で言ったの」

「それは知ってる」

「…へえ」

 

 再び奇妙な沈黙。

 マサオが口を開く。

「…いや、だからって『やるときはやる』は…」

「私に対してのことじゃないと。分かってるってぇ、そんな間を溜めて言わなくても」

「あそう」

 

「…仮に」

「ん」

「俺が告ったらどうする」

「…それギャグ?」

「仮にだ、仮に」

「…どうするったって、まあ付き合うんじゃないの」

「ほお」

「私流され体質だからさあ」

「いい加減だな」

「そうだよ。…てか、何のシミュレーション?」

「いや、身近な人の意見を参考に」

「はあ。…あ、好きな人居るのか」

「居る居ないは別でな」

「意外」

「あ?」

「アンタ自分に自信ないキャラだったんだ」

「…これに自信あったらお前…」

「あァ、あはは、ナルシストだ」

「おう」

 

「で、何か?女性の目線を知りたいの」

「まあ」

「ふうん。まあ大丈夫なんじゃないですか」

「適当だなオイ」

「だって容姿とか性格とか、別に酷いって程のこともないし」

「…お前は?」

「私的には?…まあ、いいんでない」

「チラ見すんなチラ見」

「だから普段見てるし」

「二ヶ月ぶりだろ。正視しろ正視」

「ッ、こうか!」

 

 

「……」

「……」

「無駄に照れるな」

「そうだな」

「だめだこりゃ。人と目合わせるの苦手」

「見つめ合〜うと〜」

「言うと思った」

「暗いと大丈夫だな」

「それは完全にアレだね、寝る感じのノリだね」

「…いやでも正直、どうだ」

「何が」

「寝るとなったら」

「ああ、暗い方が…」

「じゃなくて、俺と」

 

「……うわぁ」

「ちょっ、『うわぁ』って!『うわぁ』はないわ!だから仮にだってんだろ」

「…それをさあ、仮にも女に聞くか普通」

「…女だからだろ」

「まあ男に聞いたらソッチ方向だしな」

「そういう意味じゃなく!」

「…じゃどういう意味」

「……あ」

 マサオ、絶句。

「…いや、『そういう意味』だった」

「そりゃそうでしょ、別に私を女として選んでって意味じゃないなら」

「…何言ってんだ」

「…何言ってんだろね」

 

 三度、奇妙な沈黙。

「……まあ私見だけど、大丈夫だろアンタは結構イケてんじゃないかと思うよ、あとはこの部屋の散らかり具合とその口の無遠慮なところを直せばいいんじゃないかなちょっと長居しすぎたみたいだから帰るわ、お世話になりました」

 ゴクゴクと麦茶を飲み干し、タァン!と音高くコップを置いてヨリコは立ち上がる。

 マサオが慌てて、

「言っとくけどこんなこと誰にでも言うわけじゃ…」

「ああそうだそういう女を勘違いさせるような発言も控えた方が身のためじゃないかねそれでは!」

 バタァンッ。

 

 

 直後、双方ともほぼ同時に顔に熱を昇らせて溜息をついたのだが、互いに知るはずもなかった。


読んで下さり本当にありがとうございました。会話文メインは楽しい一方難しいと知りました。頻繁には更新できないと思いますが、のんびり続けていきたいと思います。ご意見ご感想、宜しくお願い致します。

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