そんな場合の彼女
ふと思いついた2ページの短編です。
途中からオチが予想できる方も多くいるかと思いますが、ある意味典型ですかね。
私は斎藤理名。高校三年生。二年生の時に同じクラスの松田颯太に告白された。元々私の方も少し良いなという感じで思っていたので、お願いしますと返事をして付き合うことになった。彼は優しく一途に私だけのことを思ってくれた。こんな素敵な人に出会えて最高の人生だと思っている。
そんなある日の授業中、スーツ姿の男達が大勢やってきた。すべての高校の中からうちのクラスが選ばれたとのこと。
デスゲーム・ミリオンチャンス
専用の巨大施設に移動させられクラスメートで殺し合いをさせられるが、最後まで生き残れば孫の世代まで何不自由なく遊んで暮らせる富を得ることができる。
殺し合いというのは文字通り手段問わず殺し合いもしたり、指定されるゲームで勝負をして負けた人が死んでしまうなどの特殊ルールもあった。
参加することになった私は颯太と常に行動を共にし、生き残るため、時にはクラスメートを刺し殺したり、時には上手く立ち回って裏切りを繰り返したりした。
二人が最後まで生き残った場合はどうなるか、そんな怖いことは考えないようにしていたが、とうとうその状況が来てしまった。
クラスメート32人中、生き残ってるのは私と颯太の二人だけになった。
「きっと最後の特殊ルールがアナウンスされるんだろうな……」
颯太がそう言うとすぐに予想通りのアナウンスが流れた。
『松田颯太君、斎藤理名さん、おめでとうございます。あと一歩で遊んで暮らせる人生が待ってます。では最後の殺し合いルールをお知らせします。最後はじゃんけんです。あいこならもう一度、負けた人は死亡、勝った人は生き残りです。遅出しなどは無効となり仕切り直しです』
アナウンスが終わるとあたりには静寂が包まれた。
「じゃんけんか……平和的なやつでよかったぜ……」
颯太がつぶやいた。
「なぁ、理名。 ……俺はパーを出すから、チョキを出してくれ」
「……えっ!? そんなのできないよ!」
「俺の分まで生き残ってくれ、頼む。ただし、死ぬまで俺のこと忘れないでおいてくれよな」
私が大好きだった颯太の優しい表情だ。
「さあ、やろうぜ。今までありがとう」
「いや! そんなのいや!」
『それでは準備が整ったようなので始めます』
私は決心した。こんなに優しい人をここで死なせるわけにはいかない。
私はグーをだして負ける、そう決めた。
あれ、本当に大丈夫だろうか。彼は私のことはなんでもお見通しだ。私がわざと負けようとしてることは容易に想像がつくだろう。
ということは私がグーを出すと想定して彼はきっとチョキをだす。ということはパーをだせばいい。うん、これで大丈夫だ。彼の本心を読めるようになった私は彼女として成長したものだ。
いや、違う。危ない。サプライズプレゼントなどなど、常に私の先を行動することが多かった彼がこれぐらいの読みは当然するだろう。先ほどの読みから私がパーをだしてわざと負けようとするからチョキをだす、というところまでを私が予想する、というところも彼は当然行き着く答えだろう。となると、彼は負けるためにグーをだすから、それに負けるにはチョキ。
そうだ、私はチョキを出せば彼を勝たせることができる。よかった、ここまで彼のことが理解できて。
『それでは始めます。最初はグー、じゃんけん……』
ポンで同時に二人の手が出揃った。
私はチョキ、彼はパーだった。
「そ、そんな……」
絶望する私に彼が微笑みかけてきた。死の恐怖からなのか少し震えているような気がする。
「理名、ありがとう……。さようなら」
その言葉と同時に彼の体は弾け飛んだ。崩れ落ちていく彼を見ながら、最後まで彼の優しさには勝てないやと思いながら気付けば自然と涙が頬を伝っていた。