第1章 魔法の世界
フィアはあれから更に、3個の砂糖を追加したカプチーノを飲み終わり、満足気に頬を抑えていた。そんなフィアを見て、ロアリゼルはフィアの歯磨き強化を心に誓った。
「全く、フィアってば軽々しく能力を使いすぎですよ。もしほかの人に見られてたらどうするんですか」
『大丈夫だよ』
フィアが背中にかけている鞄の中からペンを取り出すと、すらすらと空中に文字を書いていく。
『魔法で人の存在くらい探知できるから』
この国は他国に比べ魔法を活かした職に就く人が多い。ほとんどの国民が、個人に特化した魔法を駆使して生きている。
魔法には大きく火、水、風、光、闇の属性に分けられ、そこから更に派生して細かい魔法の種類が存在する。しかし、光と闇の属性の魔法は少なく、派生もほとんど知られていない。
魔法は、親から子へ必ず同じ属性が受け継がれる訳では無い。これは各個人の適正によって得意な魔法は変わってくる。
例えば、ロアリゼルの得意な魔法は水系統。フィアの得意な魔法は風系統。だからフィアは、風魔法で周りの音を拾うのが得意なのだ。
それもそうか、と隣のロアリゼルが頷いたところで、フィアはペンに蓋をする。すると、空中に浮かんでいた文字が消えた。
「ん? フィア。そのペンってもしかして、魔法陣記入用のちょっとお高めのやつ……!? 普通の紙とペンで良いじゃないですか! 我が家は余裕なんてあんまりないんですよ!」
ロアリゼルの言葉に、フィアが僅かに眉を寄せた。言葉にせずとも、フィアがうるさがっているのがわかったロアリゼルは、フィアの肩に手を置いて、視線を合わせた。
「フィア、そのペン、幾らしたんですか?」
「……」
ロアリゼルの問いに、視線を逸らしてフィアは沈黙で返す。だが、人前で話す事が出来ないフィアには絶好の魔法アイテムなのだ。
それが例え、A級の魔物討伐一体分と同等の額であったとしても。インクは定期的に補充する必要があるとしても。そのインクがやはり僅かばかり値が張るとしても。
『買ってない。もらったの』
フィアの眼の色が揺れる。
しかし、その色はバチンという音とともに灰色に染った。
「魔法を使わないでください」
ロアリゼルは、にっこりと笑ってフィアの魔法を弾いた。その目力に負けたフィアが溜息を零すと、諦めたようにペンのキャップを外した。
『慰謝料で買ったの』
「っ!」
その文字に言葉を詰まらせたロアリゼルを見て、フィアは僅かに嫌そうな顔をした。ロアリゼルのその、辛い顔を見たくなかったから黙っていたのだ。
フィアは定期的に、自分の魔法を抑えるための道具をある筋からの慰謝料から払って購入している。しかし、同じように、同じ場所から慰謝料を貰ったロアリゼルがそのお金に手をつけていないことを知っている。
ロアリゼルがそのお金を嫌悪している事を知っていたから黙っていたのに。
フィアは、ロアリゼルの少し高い位置にある頭に手を伸ばしてその頭を撫でると、ロアリゼルは困ったように笑った。
「ありがとうございます」
ロアリゼルの笑みに、フィアも笑い返す。
そして小さい頃のように、フィアはロアリゼルの手を引いて街の中を歩き始めた。
「それで、明日例の子爵邸に様子見に行きますけど、フィアはどうしますか?」
『私は別のことする』
「そうですか。なら明日は別行動ですね。いいですね、くれぐれも変な行動をしないでくださいよ」
ロアリゼルが念押しするかのようにフィアの手を取りながら確認してくる。それに、不満そうな顔をしてフィアは何度も頷いた。




