「東条家の家宝として代々受け継いでいくよ」
「み、美樹様? コーラをお持ちしました」
私は美樹の前にコーラを置く。美樹は私のことをチラッと見たけど、何も言わないで黙々と頼んでたパフェを食べてる。
テーブルには、パフェが入ってた空き容器が2つ。全部美樹が食べたものだ。
美樹は甘い物好きだけど、それにしたって食べ過ぎだと思う。
美樹が不機嫌だ。
ずっと無言でパフェを食べてるから、私も無言になって、コーラをチビチビ飲む。
空気が痛い。
ドリンクバーから戻ってきたばかりだけど、また行きたい気分だ。
いや、私が悪いんだから謝って許してもらわなきゃ。
「調子に乗りすぎました。ごめんなさい」
美樹は食べるのを止めて私を見る。
「こんなこと私が言うことじゃないけど、私だけじゃなくて美樹にも楽しんでほしい。……デートなんだし。駄目?」
私は美樹を見つめる。私にとっては長いような、でも現実では短い間沈黙が流れる。
美樹は溜め息を吐くと、ぼそっと呟いた。
「甘いなぁ……」
「え?」
「パフェ。流石に3つは食べきれないから茜が食べてよ」
美樹は私の前に器をスッと押し出す。
「だよね! 流石にそんなに食べたら太っちゃうし。2つでも多いと思うけど」
「一言多い」
そう言って美樹は私にデコピンをする。
「痛っ」
どちらからともなく私達は笑い合った。
安心したら小腹が空いた。
ありがたく美樹の食べかけのパフェをいただくとしよう。
パフェを食べ終えた私達はファミレスを出て、ゲーセンに来た。
ちなみにお会計は約束通り全部私が払った。パフェ3つとドリンクバー2つでとても高くついちゃった。
「何やる?」
周りの色々なゲームの音でうるさいから、大声で話す。
私達は今ゲーセンに入って中をグルグル回って、やるゲームを物色中だ。
「太鼓の名人やろ」
音ゲーコーナーに差し掛かった辺りで美樹はそう言った。
太鼓の名人というのは、音楽に合わせて太鼓の形をしたコントローラを2本の鉢で叩くというゲームだ。曲種もアニソンやらJ−POPやら色々あって色々な人でも楽しめるゲームだ。
運よく誰もプレイしてなかったから、早速お金を入れる。
「太鼓の名人やるの久々かも」
「食後の運動には丁度いいでしょ。体動かすし」
美樹はそう言うけど、動かすのは腕くらいであんまり大した運動になるとは思えないんだけど。
「何の曲やる?」
「1プレイで2回遊べるんだし、それぞれの好きな曲選べばいいんじゃない?」
「そだね。じゃあ美樹から選んでいいよ」
「うーん……。これといってやりたいのがないな……」
美樹はカーソルを右へ左へ行ったり来たりさせる。
「ランダムでいいんじゃない?」
「それはそれで勿体ない気がするんだけど、別にいっか」
ランダムボタンにカーソルを合わせて、決定ボタンを押す。
私は知らない曲だった。
「美樹はこの曲知ってる?」
「まあね。ちょっと聞いたことがある程度だけど、昔のドラマの主題歌でしょ」
私は全然ドラマ見ないからな……。美樹にオススメされたやつをちょっと見る程度だ。
知らない曲ということもあって私はノーマルモードを選ぶ。でも、美樹はスペシャルモードを選んだ。
スペシャルモードはトリッキーな譜面が多くて、曲によっては結構難しい曲もある。
「大丈夫なの?」
「平気平気。私、太鼓の名人結構得意だし」
私の心配をよそに美樹はそのまま最終確認画面でOKを押して、曲が始まった。
自分で結構得意と言ったのは本当だったらしく、フルコンボとはいかなかったけど、ノーマルモードの私よりも全然スコアが高かった。
「ノーマルモードでこのスコアって」
美樹が笑ってくるのでムッとなった。
「知らない曲だったからだし。次の曲では私の知ってる曲だから美樹よりスコア取れるし」
「へー……じゃあ次は勝負しない? 負けたら勝った方にジュース奢る」
さっきのファミレス代が結構痛いけど、でも、挑まれた勝負からは逃げない。
「いいよ。その勝負乗った」
「よし。じゃあ好きな曲選びなよ。私に遠慮はいらないよ」
その言葉、後悔させてやろう。
私が選んだのは深夜アニメのOP。絶対美樹が知らないであろう曲だ。
これなら私が完全に有利だ。
「それでいいの?」
「いいよ。美樹はジュース代を用意しておいた方がいいよ」
難易度は公平を期すために、2人ともノーマルモードにする。
曲が始まる前の10カウントが始まった。
負けられない戦いがここにある。
なんと信じられないことに結果は私の負けだった。私が5、6回ミスったのに対して、美樹はフルコンボ。
おかしい。こんなはずじゃなかった。
「ゴチになりまーす」
「もう1回! 次は負けないから!」
「駄目」
「何で? 勝ち逃げは許さないよ!」
「後ろ見なさいよ。待ってる人いるでしょ?」
後ろを向くと、小学生くらいの男の子2人が並んでた。
仕方なく私は再戦を諦めて、場所を譲る。
自販機と木製のベンチが置かれている場所で、ベンチに座って休憩を取る。
美樹の手には500mlのお茶のペットボトル。私が奢ったやつ。
ちなみに私は何も飲んでない。所持金が心許なくなってきたから。
「美樹はあの曲知ってたの?」
「いや、知らないよ。でもノーマルモードだったらどんな曲でもフルコンボいける」
「悔しいな……。自信あったのに」
「私に太鼓の名人で勝とうなんて100年早い」
美樹はそう言って笑った。
そういえば、私はとても楽しいけど、美樹はどうなんだろ。楽しんでくれてるとは思うけど、ゲーセンよりももっと行きたいとこあったんじゃないかな。
「美樹はゲーセンで良かったの? 服とか見たかったんじゃないの?」
「何で?」
「買い物に付き合ってって言ってたし、何か買いたい服でもあるのかなって思ってた」
「今日誘ったのはお疲れ様会というかお祝い会みたいな感じ。茜が青陵に入学できたから」
美樹はちょっと顔を赤くしながらそう言った。
「じゃあもういい時間だし、今日の本命に行こうか」
美樹は残ってたお茶を一気飲みする。
空になったペットボトルをごみ箱に捨てて、私の手を引く。
手を引かれるままやってきたのはプリクラコーナーだった。
「茜はいっつも自分で写真撮ってばっかだから、茜が写ってる写真ってないじゃない? だからプリクラはどうかなって思ったの」
美樹は照れ臭いのか早口に言い切った。
私はまさかこんなサプライズがあるなんて思ってみなくて呆然としちゃう。
こんなことが現実に起きていいのか。
私に都合良すぎるんじゃない?
これは夢かもしれない。
私は頬を抓ってみた。
痛かった。
「何してんの?」
「いや、夢なんじゃないかと思って」
「バカ言ってないでさっさと撮るよ」
変な笑いが止まらない。
さっき美樹と撮ったプリを見ながら、出口に向かって歩いてる。
「まだ人多いんだし、危ないから後にしなさいよ」
「……もうちょっと」
実はさっきから何回も同じやり取りをしている。美樹もいい加減諦めたのか溜め息を吐いた。
「そんなに喜んでもらえたならこっちとしても嬉しいけどさ」
「ありがと。すんごい嬉しいよ。東条家の家宝として代々受け継いでいくよ」
「はいはい」
美樹は本気にしてないのか返事がおざなりだ。
私は本気だ。
物の価値は値段だけで決まるものじゃない。撮るのに400円しかかかってないけど、それでも私にとっては400円以上の価値があるかけがえのない物だ。
でも、美樹の注意もしっかり聞いとくべきだった。
腰あたりにドンっていう衝撃。
誰かにぶつかったみたいだ。
か細い腕がギュッと私に回される。
「さちちゃん!?」
何事かと振り返ったら、ぶつかった相手はさちちゃん。
お昼前にファミレス前で会った女の子。しかも泣いていた。
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