「私は可愛い女の子を堪能する時に限って、身体能力が格段に上昇するのである」
ビクビクしながら美樹についていくと、美樹はファミレスの前で立ち止まる。
「ここにしよっか」
「美樹大好き!」
私は美樹に抱きつく。
さっき、本当に回転寿司屋の前で立ち止まった時は、どうしようかと思った。
「ちょっと! 人が見てる!」
この階には食べ物屋しかなくって、ごはんを食べる目的以外で客はほぼ来ないけど、土曜日のこの時間だ。ピークではないだろうけど、それなりに人の往来がある。
「茜、もう離れてよ」
「いや、やわっこいしいい匂いするしで離れたくない」
そういえば、駅前で抱きついた時は全然堪能できなかった。
美樹は私を引き離そうとしてくるけど、私はあらん限りの力を振り絞って抵抗する。
「力強っ! どこにそんな力があるのよ!」
「私は可愛い女の子を堪能する時に限って、身体能力が格段に上昇するのである」
どっかの解説者っぽく言う。
「女の子の嫌がることはやらない主義なんじゃないの?」
「そうだけど。美樹は何か、嫌よ嫌よも……的な気がするし」
「違う! 本当に離れな……」
美樹の言葉が途中で切れる。どうしたのかなって美樹の視線の先を見ると、4、5歳くらいの幼女が立ち止まって私達のことをガン見してた。
「こんにちは」
目が合ったので挨拶をする。
挨拶は大事だ。コミュニケーションを円滑にする。
「こんにちは。おねえちゃんたちはどうしてギュッてしてるの?」
「そこに美樹が居るからかな」
そこに山があるからを真似て言ってみたギャグだったんだけど、理解できなかったのか幼女はポカンとしている。
ボケが滑ってしまったから何事もなかったように気になってたことを聞く。
「1人? お母さんは?」
「どっか行っちゃった」
「迷子?」
「さちが迷子じゃなくって、ママが迷子なの」
どうやら迷子で困ってるようだ。
女の子が困ってるなら助けないと。そうじゃなければ私じゃない。
美樹に小声で話しかける。
「ごはんは後でいい? お母さん捜してあげないと」
美樹が頷いてくれた。断られると思わなかったけど、良かった。
「私は茜。で、こっちは美樹。あなたの名前は?」
「さちはさちって言うの」
「さちちゃん。迷子のママを一緒に捜そっか」
「うん」
私はさちちゃんママの捜索の為に、名残惜しいけど、美樹から離れることに。
離れる前に充電として更に力を込めて抱きしめてると、女性がこっちに向かって走ってきた。
「さちー!」
女性はさちちゃんを抱きしめる。
「ママ」
「目を離したらすぐ居なくなるんだから」
「良かったね、さちちゃん。もうママと離れちゃ駄目だよ」
「うん。おねえちゃんたちもね」
「さちがご迷惑かけました。それじゃあ、その……ごゆっくり」
さちちゃんのお母さんは気まずそうにさちちゃんを連れて去ってく。
気持ち早足だった。
「いやーお母さんが見つかってよかったね。美樹」
美樹が何故かプルプルしてるのに気づく。
「美樹?」
「いい加減離れなさい!」
頭に拳骨が降ってきた。痛い。
私が頭を押さえた隙に美樹は1人でお店に入っちゃったので後を追う。
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