「幽霊になれば覗きし放題じゃない?」
土曜日の午前9時。
いつもなら夢の中で可愛い女子たちと戯れている時間。
だけど、私が今居るのは夢の中じゃない。藤北ランドの入場ゲート前に美樹と一緒に立っている。
開園時間はもう過ぎてて、土曜日だからそれなりの人が入っていくのを見た。
なんと今日は花凛ちゃんの歓迎会をする為に、皆で藤北ランドで遊ぶのだ。
皆の住んでいる場所が結構バラバラだから集合は藤北ランドの入場ゲート前だ。
今日がとても楽しみすぎて早起きしちゃった私は、美樹を叩き起こして集合時間の1時間前にここに着いていた。案の定、誰もまだ居なくて待ちぼうけをくらってる。
ただ待ってるだけじゃ落ち着かなくって同じところを行ったり来たり。ウロウロする。
「チョロチョロ鬱陶しい。落ち着きなさいよ」
「ぐえっ」
急に美樹に首根っこを掴まれて、カエルが潰れたような声を出しちゃった。
服で首が絞まって苦しい。
「ギブギブ! 首! 首キマっちゃってるから!」
美樹が放してくれた瞬間に、美樹から距離を取って大きく深呼吸をする。
危ない。危ない。
せっかくの花凛ちゃんとの遊園地デートを前に死んじゃうところだったよ。
「全く……花凛ちゃんとのデート前に死んじゃったらどうしてくれるのさ。死んでも死にきれなくて化けて出るよ」
言って私は気付いた。気付いてしまった。
世紀の大発見だ。
「幽霊になれば覗きし放題じゃない?」
「覗きって……あんた一応女でしょ。合法的に覗けるじゃない。……合法的って変だけど」
「分かってないな〜。見てるのに気付かれないのがいいんでしょ」
美樹はまだ分かってないようだ。
仕方ない。不出来な教え子をもった先生の気分で優しく教えてあげるとしよう。
「いい? 美樹も覚えがあると思うけど、人に見られていると思うと、つい構えちゃわない? でも見られていないと思うと油断する。つまり、幽霊ならありのままの姿を見れるってことさ!」
我ながら恐ろしいことに気付いてしまったものだ……。
美樹はため息を吐いて何も言わないで、スマホをいじりだした。
優しく教えてあげたのにスルーされちゃった。
「スルーしないでよ。どう? どう? 世紀の大発見じゃない?」
美樹の肩を揺するけど、一向に私を見ようとしない。そっちがその気なら私にも考えがある。
揺する力を目一杯強くする。
「あぁもう! スマホいじれないでしょうが」
美樹のチョップが私の頭に当たる。
「痛っ。美樹が私のことスルーしたのがいけないんだからね」
「じゃあ言うけど、幽霊になったら女の子にかまってもらえなくなるよ。茜、かまってちゃんなのに耐えられるの?」
盲点だった。
たしかに目の前に居るのに会話ができない、居ないもの扱いされちゃうのはとても辛い。
「幽霊になる案はなしだね」
私は悔いが残らないように、きちんと残りの人生を女の子とイチャイチャして過ごすことに決めた。
「皆、まだ来ないわね……。私達が早く着きすぎたんだけど」
「まだ、集合時間まで30分以上あるからね。皆、気合が足りないなぁ……」
「茜がはりきりすぎなんだって。7時起きで良かったのに6時に起こしに来やがって……」
「大丈夫! 寝顔可愛かったよ」
美樹の寝顔はしっかり撮ってある。
バレたら消されちゃうからバレないようにしないと。
しりとりしたりして時間を潰してたら、残りの皆がやっと来た。
「茜たち早いね」
「茜の暴走のせいでね」
「やっぱり? 茜ははりきって1時間前には来てるんじゃないかってゆうと話してたんだよ」
「正解。1時間前にはここに着いてた」
「茜ちゃんは分かりやすくて可愛いですよね」
美樹たちが失礼なことを言ってる。ゆうちゃんは褒めてくれたから許す。
あとゆうちゃんの方が可愛いよ。
「花凛ちゃん、おはよう。今日も素敵だね。可愛いよ」
「おはよう。ねえ、やっぱり遊園地に制服って変じゃない?」
花凛ちゃんは少しキョロキョロしている。
周りの目が気になるのかな?
制服姿なんてほとんど学校でしか見れないから、特別感があって私はとても良いと思う。
「遊園地に制服で行くのは割とやられてることだし大丈夫だよ。周りの人も遊ぶのに夢中になれば私達の事なんて気にしないだろうし。それよりも今日は花凛ちゃんの歓迎会なんだから目一杯楽しんじゃお」
「そうそう。茜の言うとおりだよ。休みの日に出かけて嫌な思いするのも損じゃん? 楽しまないと」
遥もたまには良いこと言う。
「じゃあ時間ももったいないし、早速中へ入ろっか」
私が先頭になって入る。
花凛ちゃん歓迎会もとい、遊園地デートの始まりだ。
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