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「東条茜、17歳。オトナの階段を駆け上がります!」

 ビラ配りをして2日が経った。

 でも未だに暗闇研究部の新入部員は0だった。


 今日も杏里ちゃんに部室に来てもらって作戦会議だ。


「ビラ配り以外で何かいいアイディアある人居る?」


「ビラ配りをまたするってのは駄目なの? 色んな人に貰ってもらえたんでしょ? 私は保健室居て役立たずだったけど……」


「杏里ちゃんには悪いけど、ビラ配りはあんまり意味ないかな……」


 色んな人に貰ってもらったと言っても、遥目当ての人がほとんどで、暗闇研究部に興味があって貰ってくれた人は少ないんじゃないかな。


「……そっか。ビラ配りのせいで遅刻しちゃった人も結構居たし、しないほうがいいかも」


「いや、遅刻した人がいっぱい出たのは遥が悪い」


「私?」


「遥がモテモテなのが悪い。でもそうやってモテモテなのは今のうちだから! 玲奈に教えてもらったイケメンテクニックで私もイケメンになってモテモテになるし!」


 そして色んな女の子とイチャイチャしたり、写真撮ったりで素敵なハーレム生活を……。


 ぐふふ……。


「にやけてる。何か変なこと考えてるな……。茜がイケメンになるのはずっと先の話になりそう」


 遥がそんなことを言う。


「それが茜ちゃんのいいところでもありますし」


 ゆうちゃんがフォローになってるようでなってないことを言う。


「花凛ちゃーん。みんなして私のことをいじめるよ」


 花凛ちゃんに慰めてもらうべく、抱き着こうとしたんだけど、腕を前に出して防がれちゃった。


「人は所詮独りなんだね」


「そんなことよりどうするの? これから」


 花凛ちゃんは何事もなかったように言う。


「放置はイヤだよ」


 放置プレイは寂しいからダメ。

 寂しいのが1番こたえる。


「ほら、今後のこと考えなきゃでしょ」


 花凛ちゃんに言われ姿勢を元に戻す。


「そういえば、後輩ちゃんから暗闇研究部にピッタリの子が居るって聞いたよ」


「誰?」


 遥の言葉に、杏里ちゃんが勢いよく立ち上がるから椅子がガタッって大きな音を出した。


 その音にビックリしたのか美樹の肩がピクッてなって可愛かった。そしてそのことに気付かれないように何事もなかったように振る舞ってるんだけど、ちょっと恥ずかしいのか耳が赤くなってるのが更に可愛い。


「1年3組の加藤忍ちゃんって子」


「じゃあ会いに行こ」


 おお……。杏里ちゃんが凄いアクティブだ。


 それだけ暗闇研究部が大事なんだろう。

 一生懸命な子を見てると応援したくなる。


「善は急げだね。1年3組の教室に行ってみよ。もう帰っちゃったかもしれないけど」


「それには及ばないッスよ。先輩方」


 どこからは分からないけど、くぐもった可愛い声が聞こえてきた。


 そして、ガタッガタガタッという音も。


「あっあれ? 開かない。何で? 嘘でしょ?」


 掃除用具入れから扉が開かなくてパニックになっちゃったのか、暴れてる物凄い音と悲痛な声が聞こえてくる。


 ここの掃除用具入れの扉は建付けが悪くて、開くのにコツがいる。

 外からだったら取っ手の所を若干持ち上げながら開けば意外とすんなり開くんだけど……。中から開けようと思ったことないから中からの開け方は分からない。


「ぐすっ。どうして私はいっつも上手くいかないの?」


 暴れてる音が消えたと思ったら、嗚咽混じりの声が聞こえてきた。


 もしかして泣いちゃってる?


「皆と仲良くなれるキャラ……頑張って勉強したのに……友達1人もできないし……ビックリさせようと思って掃除用具入れに入ったら出られなくなっちゃったし……もうヤダ……」


 聞いてたら悲しくなってきた。

 早く助けてあげないと。


 掃除用具入れに駆け寄ろうとしたら、ゆうちゃんに手を握られた。


 えっ?


 まさかいきなりゆうちゃんルートのフラグ立っちゃった?


 どうしよう。どういう行動がベスト?


 ゲームだったら選択肢を選ぶだけだし、なんだったらセーブすれば間違った選択しても戻れるから問題ないのに……。現実だったらそうはいかない。


 本当に現実はクソゲーだね。


 迷ったら自分の好きにするべきだよね。


 やってする後悔よりもやらないでする後悔のほうが引きずるものだし。


 東条茜、17歳。オトナの階段を駆け上がります!


「茜ちゃんは開けちゃ駄目ですよ。もっと適任の人がいるじゃないですか」


 …………。


 そういうことね。いや、もちろん分かってたよ。


 ゆうちゃんは杏里ちゃんに小声で何か話してる。

 きっと開けるコツを教えてるんだろう。


 杏里ちゃんは掃除用具入れを開けて手を差し出す。


「大丈夫?」


「はい……ありがとうざいます。先輩は恩人です」


 杏里ちゃんの手に引かれて出てきたのは、この時期には似合わない長くて黒いマフラーを首に巻いた女の子。


 見覚えがあるような……?


 女の子には、ゆうちゃんがいつの間にか用意していた椅子に座ってもらう。


「えーっと……一応、名前教えてもらってもいい?」


 まだちょっと涙目だけど、さっきよりは落ち着いたであろうタイミングで切り出してみる。


 第一声と声をかけてきたタイミングでこの子が誰なのか想像できるけど、念の為だ。


「1年3組の加藤忍です」


「言いたくなかったら言わなくていいけど、忍ちゃんはどうして掃除用具入れに入ってたの?」


「今日の休み時間に偶々、クラスの子が遥先輩に私のことを話してたの聞いちゃって。遥先輩が部活の時に私の話をするって言ってたから、どこか部活に入らきゃいけないし、話だけでも聞いてみようかなって」


「よく遥の部活知ってたね」


「遥先輩は有名人だから」


 ぐぬぬ……。

 イケメンキャラはやっぱり後輩に人気なんだよな。


「それで、部室に来ても誰も居なくて、最初は普通に待ってたんですけど、キャラ的にどこか隠れてた方がいいなって思って。丁度、掃除用具が出しっぱなしになってたので掃除用具入れに隠れるのがベストかなって……」


 掃除用具入れが開きにくいから掃除用具は常に出しっぱなしにしてたのがあだになったみたい。


 それにしてもやっぱり何か覚えがある。


 何だったかなぁ……。


 思い出せなくてすっごくモヤモヤする。


「ねぇ美樹。忍ちゃんなんだけど、会ったことあるかな?」


 小声で美樹に相談してみる。

 幼なじみだし、私の知り合いは美樹の知り合いでもある可能性が高い。


「私は会ったことないと思うけど……。会ったことあるの?」


「分かんない。でも何か見覚えがあるような気がするんだよ」


「同じ学校なんだしすれ違ったりしたのを覚えてたんじゃないの? ほら黒いマフラーなんて目立つし」


「そんな最近のことじゃない。もっと昔の話だよ」


「ニンニン」


 花凛ちゃんがボソッと言った言葉で私に電流が走る。


「それ!! ニンニンの忍ちゃん!!」


 あまりの感動に、つい大声を出しちゃった。


 そうだ。思い出した。

 ニンニンとは忍☆忍伝という漫画の略称。加藤忍っていう黒いマフラーを首に巻いた女の子が主人公が出てくる。


「ニンニン知ってる人がやっと現れた……」


 忍ちゃんもちょっと嬉しそうだった。


 知ってる人が居なくても無理ないかもしれない。

 私が小さい頃に連載してた漫画だし、アニメ化もしてない。

 お母さんが単行本を集めてなかったら、私だって分からなかった。


 そういえば第一声も語尾にッスって付けてた。


 どうやら忍ちゃんは同姓同名のキャラのマネをしてるみたい。


 驚かそうと思って入った掃除用具入れに閉じ込められちゃうっていう、ちょっと残念なところもニンニンの忍ちゃんを見てるようで私としてはとてもポイントが高い。


 ニンニンを知ってる同士がまさかこんなところに居たなんて……ぜひともニンニン話で盛り上がりたいところだけど、それは後にしよう。


「それで、暗闇研究部の話を聞こうとしてくれたってことは、ある程度入部してもいいとは思ってくれてるってことだよね?」


「最初はそのつもりだったけど、でもさっきみっともないところ見せちゃったのでどうしようかなって」


「私は全然気にしないよ!」


 杏里ちゃんが力強く言うけど、忍ちゃんはうつむいちゃった。


 自分の意志で入部は決めてもらわなきゃいれないことだし、厳しいかな。


「ニンニンの魅力は、忍がどんなことがあってもへこたれないで、自分の夢を叶えたことにあると思う」


 ちょっと空気が重くなっちゃった部屋に花凛ちゃんのキレイな声がスゥーッと響く。


「だからさ、そのあんまり上手く言えないけど頑張ってみるのもありだと私は思う」


 おお……花凛ちゃんがそんなこと言ってくれるなんて。


「それに、忍者と暗闇なんて相性バッチリ!」


 花凛ちゃんがいいこと言ってくれたし、私も何か言おうと思って頑張ってひねり出したのがこれ。


 忍ちゃんはアハハと大きな声で笑った。


「そうですね。いや、そうッスね。じゃあ頑張ってみるッス!」


 忍ちゃんが元気になって語尾も戻った。


「私は、2年2組の倉敷杏里。これからよろしく」


「さっきも言ったッスけど1年3組の加藤忍ッス。杏里先輩」


 杏里ちゃんがカバンから取り出した入部届に忍ちゃんが必要事項を書いた。


「ありがとう。あなた達のおかげで新しい仲間が見つかった」


「先輩方、今度ニンニンの話しましょ」


 そう言って杏里ちゃん達は荷物を持って仲良く出ていった。


 2人きりの暗闇研究部なんだから仲良しにこしたことはない。


 いやー、一時はどうなることかと思ったけど、依頼達成できて良かった。良かった。


「……って良くないよ! 写真! 写真撮れてない!!」


 メカクレ女子の写真!


 仲良しの2人の雰囲気に流されて忘れる所だった。


 急げばまだ間に合う?


 でもあの2人の良い雰囲気をぶち壊すような野暮なことはしたくない。


 うーん……。


「残念だけど今回は諦めようか」


「珍しく諦めが早い。追いかけるぐらいはするのかと思った」


 美樹が感心した風に言った。


「失礼な。私はこれでも空気が読める女だし」


 全員からジト目で見つめられる。


 私にとってはご褒美だ。


 全員からのジト目とこの前の美樹の顎クイ写真が撮れたのが今回の依頼の私の成果ということにしておくよ。

ブクマや評価、感想などとても励みになります。

ありがとうございます。

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