「イケメンキャラにクラスチェンジして女の子にモテモテになろう大作戦」
「暗闇研究部。部員募集中でーす!」
杏里ちゃんから相談を受けた翌日の朝。
私達は校門前で登校してくる子たちにビラを配っていた。
ちなみにメンバーは写真部だけだ。
杏里ちゃんも最初は配ってたんだけど、太陽は天敵って吸血鬼みたいなことを言って倒れちゃったから保健室で休んでもらってる。
皆、思ったよりも受け取ってくれてる。それもこれも花凛ちゃんが作ってくれたビラがとても素敵だからだ。
実は花凛ちゃん結構絵が上手で満場一致で花凛ちゃんが書いたビラを配ることにした。
「やっぱり花凛ちゃんのビラにして正解だったよ。凄いね。流石だよ」
「凄いのはどっちかっていうとあれでしょ」
花凛ちゃんは玄関前の開けた場所を見る。
そこには某夏と冬にあるイベントの壁サーに出来る行列のようなグネグネした列が出来ていた。
頒布物は薄い本じゃなくて花凛ちゃんが作ったビラ。サークル主は遥。
最初は無秩序に並んでたけど、人が多くなって通行の邪魔になり始めたのを見たゆうちゃんが頑張って列整理してくれた。
遥はとっても顔がいい。学年を問わずにファンが沢山居る。だから皆、遥から貰いたいらしくて気付いたらこの有り様だ。
羨ましい。
私もモテモテになりたい!
イケメンキャラに変身すればモテモテになれるんじゃ……。
丁度1人女の子が来た。
よし。チャンスだ。
早速メロメロにしちゃうぞ。
「そこの可愛いお嬢さん。君に渡したいものがあるんだ。受け取ってくれるかい?」
気持ち低めの声を出す。そして最後に、昔鏡を見ながら一生懸命練習して習得したウインクをつければ完璧だ。
「いりません!」
女の子はそう言って、ダッシュで玄関に逃げてしまった。
あれぇ? おかしい。
私は間違いなくイケメンキャラになれてたはずだ。
なのに逃げられるなんて……そうか! あの子はきっとイケメンキャラが嫌いなんだ。
うんうん。それならしょうがない。好みは人それぞれだもん。
なら遥の列に並んでる子に声かけてみよう。
遥の列に並んでるってことはイケメンキャラ好きなんだろうし。
イケる!
いざ列に突撃しようとしたら美樹に声をかけられた。
「あんたの突然の奇行は今に始まったことじゃないけど、何やってんのよ」
「イケメンキャラにクラスチェンジして女の子にモテモテになろう大作戦」
美樹は大きな、大きな溜め息を吐いた。
「ふざけてないで真面目にしなさいよ」
「失礼な……私は真面目だよ。だってほら遥を見てよ。イケメンならあんなに受け取ってもらえるんだよ」
HRまでにさばけるのか不安になってくるほどの人が並んでる。
「本音は?」
「遥が羨ましい。私も沢山の女の子にモテモテになりたい」
「そんなことだろうと思った。諦めなさいよ。茜には無理」
「そんなことないし! 美樹も見てたでしょ? 私の完璧なイケメンキャラ」
「あれを完璧って言っちゃう時点で無理」
「そこまで言うなら美樹がお手本見せてよ」
「えっ?」
私は、想定外な流れなのかあわあわしてる美樹の手を問答無用でひっぱって列につっこむ。
最後尾付近にクラスメイトの玲奈が居た。
玲奈は明るくて、髪も茶髪に染めてるギャルって感じの子だ。
玲奈も私達に気付いたのか話しかけてきた。
「茜と美樹じゃん。手を繋いでるなんて相変わらず仲良いね」
「まさか玲奈も遥ファンなの?」
そんな感じは今までなかったから驚きだ。
遥ファンなら私に遥との間を取り持ってほしいって言ってくる人が結構多いから。
「ファンってほどじゃないけど……受け取るならイケメンがいいよね」
「私は?」
「茜は可愛い系だからちょっと違うかなぁ」
ふむふむ。
イケメンは好きだけど、特に遥じゃなくてもいいってことだね。
「チャンスだよ美樹! 遥から玲奈を奪っちゃお」
「どういうこと?」
「今から美樹がイケメンに変身するから、イケメンだったら私達からビラ受け取って」
「美樹がやるの? わかった。いいよ」
美樹がやるってことにちょっと驚いていた。
美樹はそういうことやらない子だから意外だったんだろう。
「別に私達から受け取らなくたって遥から受け取るならいいんじゃないの?」
美樹は踏ん切りがつかないのかそんなことを言う。
「駄目。部内のヒエラルキーの問題だよ。このままじゃ私が部長なのに威厳が保てないよ」
「元々そんなものないでしょ」
美樹は私が引く気はないことを知ると、溜息を一つ吐いて玲奈に体に触れる距離まで近づいた。
「……顎触るけどいい?」
「どうぞ」
美樹は顔を真っ赤にしながら玲奈の顎をクイっと上げた。
あ……顎クイ!!
イケメンにしか許されない行為の1つの顎クイ!
もう一生こんな画は見れないだろう。
だから私は美樹にバレないように記念に1枚写真を撮っておいた。
「あんな女のより私のビラ受け取れよ」
そして命令口調!
決まった。これなら玲奈も受け取ってくれるよ。
「うーん……盛りに盛って30点!」
現実は甘くなかった。
「何で? 美樹が顎クイしたんだよ!? あの美樹が!」
「うわー! やめて! 言わないで!」
美樹はそう言ってしゃがみこんでしまった。
「傷口に塩塗り込むとか……茜は鬼畜だね」
「どこ? どこが悪かったの?」
「どこっていうかもう全体的に? まず顎触る前に許可取ったのが駄目だね」
「何でさ! 急に顎触られるなんて気持ち悪いだけでしょ」
「いや、そうだけど……」
「ほら! むしろ美樹は紳士的ですらあったよ」
「顎クイに紳士さは求めてない!」
ハッ。
仰天。目からうろこだ。
「顎クイは自信満々な俺様イケメンがやるからこそ破壊力があるの! だから美樹みたいに照れて顔真っ赤っ赤にしたり、目線を合わせないでキョロキョロするなんて以ての外だから! 今度顎クイをする時は許可取らない・照れない・キョロキョロしない。この3点に気を付けること! 美樹分かった?」
まさか顎クイがそこまでイケメン力が高くないと出来ないものだったとは……。
「もうやる機会ないし」
「分かった?」
「わ、分かった」
返事をする気は無かったんだろうけど、玲奈の威圧感に負けたのか美樹はそう返した。
私もちょっとビビっちゃった。もしかしたら玲奈は顎クイが好きな女の子だったのかもしれない。
「よし。じゃあビラ1枚貰うね」
玲奈は私が持っていたビラを1枚取った。
「何で? イケメンじゃなかったんでしょ?」
「良いもの見せてくれたお礼だよ」
玲奈はそう言って玄関に向かった。
カッ……カッコイイ……。
イケメンだよ。
イケメンについて色々学べたビラ配りだった。
やっぱりHRまでに列をさばききれなかったので私達は仲良く遅刻した。
多分全学年合わせて50人くらいは遅刻しちゃったんじゃないかな。
この大量に遅刻者が居た今日は後々伝説として語り継がれるようになる。
と面白そうだけど、そんなことは多分ない。多分ね。
遅くなってすみません。
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