「メ……メカクレ女子だと?」
どうやら相談者が来たようだけど、私の今の精神状態では、まともに相談に乗れない気がする。
折角のシャッターチャンスを逃すなんて、あの時の私は何をやってたんだ。
いや、美樹を撮ってたんだけど……。
あぁ……出来ることならあの時に戻りたい。早く誰かタイムマシン開発してよ。
今日はもう駄目だ。申し訳ないけど、急ぎの相談じゃないなら明日にしてもらおう。
俯いていた顔を上げて、扉の方を見る。
既にゆうちゃんが案内してくれたのか、花凛ちゃんが座ってない方のお誕生日席に座ってた。
メ……メカクレ女子だと?
うわー、リアルで初めて見たよ。
両目を長くて綺麗な真っ黒な髪で隠してる。
撮りたい。
撮影欲がムクムク湧き上がってくる。
撮れなかったフラストレーションは別のものを撮って解消するしかない。
「お名前は?」
「倉敷杏里」
「杏里ちゃん! 私にできることなら何でも言って! でもその代わりに杏里ちゃんの写真も撮らせて! お願い!」
バシッと手を合わせてお願いする。
見える。見えるよ。
ちょっとブカブカのカーディガンを羽織ってカメラに微笑む杏里ちゃんの姿が。
萌え袖&メカクレ。
スカートは少し短めがいいかな。
上は完全防備なのに下は若干ガードが緩め。
興奮するね。ギャップ萌えだよ。
そんな妄想をしてると、美樹に叩かれた。
「全く……しまりのない顔になってるわよ」
しまった。しまった。
どうしても可愛い女の子を見ると妄想が止まらない。
私の悪い癖。
「それに写真を撮るのは相談に乗って、満足してもらってからでしょ。まずは相談内容を聞かないと」
美樹に言われて先走っちゃったことに気付く。
「それで? 杏里ちゃんの相談は?」
「新入部員が居なくて困ってるの。先輩たちが卒業しちゃったから、部員はもう私しか居なくて……最低でもあと1人増やさないと廃部になっちゃう」
この学校は2人以上部員が居れば部として認められる。
部員が1人になっちゃった部は3か月の猶予期間内に部員を増やさないと廃部になる。しかも同じ部活は2度と創れないっていうおまけつき。
もしかしたら、部を創るよりも廃部にさせないようにする方が大変かもしれない。
「ちなみに杏里ちゃんはどんな部活入ってるの?」
「暗闇研究部」
「何それ」
「暗いところが大好きな人なら誰でも入れる部活。部員達で暗い場所について情報共有もしてたよ。ちなみに私のこの髪型はわざとよ。こうすることで常に暗い状態を楽しめるの」
杏里ちゃんはふふって笑う。
なかなか上級者の意見だ。
理解はできないけど、いいと思う。可愛いは正義。
女の子はファッションの為に寒いのを我慢してでも、薄着を着たりするんだからそれと同じようなものと思えばいい。
「それにしてもその部活、よく教頭先生から承認されたね」
1年生の頃、部活を創ろうとして大変だった。私的な部活は駄目だって私は言われたのに……。
「前まで部活の承認は教頭先生じゃなくって生徒会がしてたんだって……。卒業しちゃった先輩たちが、あと1年遅かったらこの部は創れなかったって言ってたし」
「ふーん。そっか。いいなぁ……」
羨ましいってちょっと思ったけど、最終的に私も部活を創れたんだからいっか。
「暗闇研究部入る?」
杏里ちゃんがちょっと嬉しそうに体を乗り出す。
杏里ちゃんには悪いけど私の心は決まってる。
「いや、私はこの部活以外考えられないから」
ドヤァッ。決まった。
これで皆、「素敵。茜、抱いてっ!」ってなるはず。
……そんなことなかった。美樹なんてジト目で私のことを見てるし。
「あんたは暗いの苦手なだけでしょ」
「ち、違うから。私、暗いとことか超余裕だし」
「じゃあ今度のお休みに皆で藤北ランドで遊びませんか? 花凛ちゃんの歓迎会ということで」
そんな恐ろしい提案をしてきたのはゆうちゃん。
いや、別に恐ろしくもないけど。
藤北ランドはおばけ屋敷が結構怖いことで有名な遊園地だ。
ゆうちゃんはおとなしそうな顔をしてるのに、結構Sなところがあったりしてゾクゾクする。
「それよりも杏里ちゃんのことだよ」
部長らしく脱線してしまった話を戻す。
決して藤北ランドの話を引っ張って欲しくなかったってわけじゃない。ないったらない。
「そうでした。すみません」
ゆうちゃんは杏里ちゃんに謝る。
「いえいえ。それよりも歓迎会って言ってたけど、新入部員確保できたの?」
「うん。こちらが新入部員の花凛ちゃん」
花凛ちゃんの肩にポンッと手を置く。
入部届を先生に提出してないからまだ厳密には部員じゃないけど、細かいことは気にしない。
「どうしてあなたはこの部活を選んだの? 何か理由があるの? 勧誘の参考までに聞きたいってだけだから、言いたくなかったらそれでもいいんだけど……」
「特には。でも強いてあげるとすれば、私にもメリットがあったってことね」
「メリット……メリットか……」
杏里ちゃんは腕を組んで考える。
「何かあるの?」
「人目のつかない所に詳しくなれる……とか?」
「何それ。凄くえっち」
「確かにそういう用途で使われる場所も知ってるけど、それがメインじゃないから」
「でもそれなら色んな人釣れるかもしれないね。ねえ遥」
「何でここで私に振ったのか問い詰めたいんだけど?」
遥が睨んでくる。
そんなの外面だけはイケメンで、女の子達に羨ましいほどモテモテだからに決まってるけど、そんなことを言ったら怒られるのは分かってるから視線を外してはぐらかす。
「そんな……他意なんてありませんよ……」
あまりの圧力に敬語になっちゃう。
「まあいいや。確かに釣れるとは思うけど、でも暗いとこが好きじゃない人が入ってきてもいいの?」
「それはちょっと嫌だな」
「なら、それを前面に出した勧誘はしない方がいいと思うよ。あくまでおまけ的な感じの方がいいと思う」
「遥の意見はもっともだね。じゃあ匂わせる程度で宣伝してこう。とりあえず明日の朝、校門前でビラ配ろっか。ビラは各自で作って、よさげなのを職員室でコピーさせてもらおう。そんな感じでいい?」
ぐるっと見回すけど、特に反対意見はなさそうだ。
「じゃあ明日から勧誘活動頑張ろう」
私のこの一言で今日のところは解散となった。
遅くなってしまい申しわけありません。
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