「自慢じゃないけど私は謝るの得意だから。絶対許してもらえるよ」
「ごめんね。そんなに痛かった?」
手を離してもらって、膝を着いてさちちゃんの目線に合わせる。
さちちゃんは首を横に振るだけで何も喋ってくれない。
「どうしたの?」
さちちゃんが自分から話してくれるのを待つ。
「ママがどこにも居ないの。さちが悪い子だからママに置いてかれちゃった」
さちちゃんは大声で泣く。
私はそんなさちちゃんを落ち着かせる為に抱きしめた。
「ゆっくりでいいから、お姉ちゃんに何があったか教えて?」
さちちゃんの話を聞くと、どうやら私達と別れたあと、もう離れちゃ駄目だよって叱られちゃったらしい。そしてもう勝手に離れないって約束したらしい。
でも、お母さんが買い物してる時間が長すぎて退屈だったさちちゃんは、1人で勝手に探検に出ちゃったみたい。それでしばらくして戻ったらお母さんが居なくなってたらしい。
「さちが、ママとの約束破ったから、ママ怒って居なくなっちゃったんだ」
「お姉ちゃんと一緒にお母さん捜そ? そして謝ろ? 大丈夫だよ。私も一緒に謝るから。自慢じゃないけど私は謝るの得意だから。絶対許してもらえるよ」
「……うん」
「よし! じゃあそうと決まれば捜そうか! ……と、その前に」
私はポケットからハンカチを出してさちちゃんの涙やら鼻水やらを拭いてあげる。
「うん。綺麗になった。それとこれもあげる」
ハンカチを出す時に入れてたのを思い出した飴をさちちゃんにあげる。
「ありがとう」
「お礼を言えるなんてさちちゃんは良い子だね! これならさちちゃんのお母さんも絶対許してくれるよ」
さちちゃんに少し笑顔が戻った。
さて、この無駄に広くて人が多い所でどうやって捜そうか。
困ったときの美樹頼み。美樹ならいい方法を教えてくれるはず。
そう思って美樹の方を見る。すると、何も言ってないのに私の思いが通じたらしい。
「ひとまず、そのお母さんが居た場所にでも行ってみる? もしかしたらそこに戻ってきてるかもしれないし」
流石、美樹だ。頼りになる。
「さちちゃん。お母さんが居なくなっちゃった場所ってどこ?」
「あっち」
さちちゃんは斜め上に指を差す。
うん。私の聞き方が悪かった。
「お姉ちゃんにお母さんが居なくなった場所案内してくれる?」
「いいよ」
「じゃあおんぶしてあげる」
ショルダーバッグをお腹側に回して背中を向ける。
そして、さちちゃんがきちんと私におぶさったのを確認してから立ち上がる。
「茜号は突然揺れたりするから、落ちたりしないようにしっかり掴まっててね」
ちょっとだけ体を左右に揺すってみる。
さちちゃんは「キャーキャー」言って、私にしがみつく。首が絞まってちょっと苦しいけど、これくらい許容範囲だ。
「茜号に搭乗ありがとう。茜号はさちちゃんの指示で動くから、さちちゃんがしっかり指示してくれないとゴールに辿り着けないの。出来る?」
「任せて!」
さちちゃんは元気よく答えてくれた。
良かった。元気になったみたい。
女の子は元気が1番だからね。
「ここで合ってる?」
「うん」
さちちゃんの案内で着いたのは婦人服売り場。
ざっと見た感じさちちゃんのお母さんは見当たらない。
店員さんに聞いてみることにした。
「すみません。ここに子供を捜してるお母さん来ませんでしたか? ここではぐれちゃったらしいんですけど」
「いえ。そう言った人は来てませんけど」
「そうですか。ありがとうございます」
いきなり当てが外れてしまった。
「どうする? とりあえずこのフロアは一通り捜してみる?」
「でも、ここって広いから現実的じゃないわ」
「確かに……」
私と美樹でどうしようか悩んでたら、店員さんが助け船を出してくれた。
「あのー。迷子センターに行けばいいのでは?」
ハッとなった。
普段、全く使わないからすっかり忘れてた。そうだよ初めから迷子センターに行っておけば良かった。
美樹もそれに気づいてなかったのかハッとした表情をしていた。
私達、ダメダメだね。
「ありがとうございます。行ってみます」
いざ迷子センターへ!
と、売り場を飛び出したのはいいものの、迷子センターの場所が分からないことに気付いて、もう一度店員さんの所へ聞きに戻ったのは内緒だ。
迷子センターに着いた私達は、さちちゃんのお母さんを館内放送で呼び出してもらった。
どうやら近くに居たらしく、想像よりもすぐにさちちゃんのお母さんは来た。
息がとっても乱れてて、必死に捜し回ってたのが想像できる。
「さち! もうどこ行ってたのよ! 心配したのよ!」
「ママ……勝手に離れちゃってごめんなさい」
さちちゃんのお母さんはさちちゃんを抱きしめる。
「ママこそ買い物に夢中でさちのこと気にしてあげられなくてごめんね」
さちちゃんはそれで安心したのか、うわんうわん泣いてた。そんなさちちゃんをお母さんがヨシヨシして慰めてる。
丸く収まって良かった。
私は美樹に目配せして、気付かれないように無言で退散することにする。
「あ、ありがとうございました」
どうやら気付かれてしまった。
「いえ、気にしないでください」
今度こそ私は退散しようとする。
でも、出来なかった。さちちゃんが抱き着いてきたからだ。
「お姉ちゃん。ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言ってくれた。
その瞬間、フラッシュバックした。
『茜、ありがとう』
どうして写真を撮るようになったかを思い出した。
忘れてたわけじゃないけど、初めての時の想いとかをブワーって思い出した。
「こちらこそ。ありがとうだよ」
私はさちちゃんの頭を撫でる。
さちちゃんは分からなそうにしてた。
帰宅した私はすぐに部屋の押し入れに大事に仕舞ってあるアルバムを取り出す。
そのアルバムには1枚の写真しかない。でもとっても大事な写真。
私が可愛い女の子写真集を作ろうと思ったきっかけの写真。
昨日から悩んでた部活の活動目的も解決できそうだった。
月曜日。
放課後にまた教頭先生の所へ行く。
これで無理だったら、部活は諦めるつもりだ。
「この土日でじっくり考えましたか?」
「はい。これで無理だったら諦めます。私がやりたいことを曲げてまで部活を創っても意味ないと思いますから」
教頭先生は私の覚悟を本気と受け取ったらしく、真剣な顔になってくれた。
「じゃあ見せてください」
私は教頭先生に創部届を提出する。
自信はあるけど、正直不安だ。
「学生相談部?」
教頭先生は写真部じゃないことに困惑している。
「そうです。私はただ可愛い女の子の写真が撮りたいんじゃない。可愛い女の子が笑ってくれるのが見たい。撮りたい。だから女の子が困って、笑顔じゃなくなってるんだったら私が助けてあげたい。相談に乗ってあげたい。それで私に笑顔を見せてほしい」
胸にある想いを何も考えずに口にする。だから言葉がちょっと変かもしれないけど、これが私のありのままの想いだ。
「写真はいいんですか?」
「写真も勿論撮りたいです。でもそれは相談者の人に任せます。相談して良かったって満足してくれて、写真を撮ってもいいと思ってくれた人の写真は撮ります。でも強制はしません。私が見たいのは本当の笑顔だから」
「成程。じゃあ最初の可愛い女の子の写真集を作るというのと、目的自体は変わってないってことですね」
そう言われるとそうだ。
「もしかしてこれも駄目ですか?」
「そうですね……いいでしょう。認めます」
そうですねって言われたときは焦ったけど、後に続く言葉で安心した。
それにしたってそうですねからの間が長すぎる。絶対わざとだ。
教頭先生は悪魔の生まれ変わりかもしれない。
「ありがとうございます」
「ふふっここまで熱意を持ってる子は初めてかもしれないわね……少しいじめすぎたかしら?」
訂正。悪魔の生まれ変わりかもしれないじゃない。悪魔の生まれ変わりだ。
「そんな顔しないでちょうだい。これでもあなたに期待しているのよ。頑張ってね」
「はい」
私はそう言って職員室を出る。
これからだ。これから私の夢を叶える為に頑張ろう。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
これで過去編は終了です。次回からは現代へ戻ります。