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3(知ってたな!)

(良いんじゃないか?)

 父は反対しなかった。

(お目付けがあれば安心ね)

 母も反対しなかった。

(小遣いにもなるし。な?)

 叔父の最後のひと押しに、あっはっは。両親揃って、あたしを売ったことになる。

 しかし、こっちは学費と家賃(とお小遣い)を握られている次第でして。けれども他人に便利に使われるのは嬉しくない。ぐぬぬ。

 キャンパスのある高台から、重力に引かれるがまま、チャリで雑木林に囲まれた坂道をすっ飛ばした。このあたりは、あまり呑気にしていると住宅街に入り込まれるゾ? 小中学生の学校が引ける時間の前で良かった。

 自転車を止めてスマホを出し、霊応アプリを確認。拡大率(ズーム)を調整し、地図(マップ)多層表示(オーバーレイ)。距離と方角の霊力(マナ)モーメントを確認──ん?

 アケビの現在位置と、目標(ターゲット)の現在位置が重なった。

 またまたあ。

 確かにGPSは便利だが、精度は数メートルから十数メートルの誤差はある。

 でも、真上。でなけりゃ真下。

 またまたあ。

 アケビはさっと自転車から降り/蹴飛ばし、横に飛んだ。

「ケエエエエ!!」

 もンのすごい鳴き声と共に、空から何かが降ってきた。倒れた自転車の前輪スポークをベキベキにへし折り、「クケー!」啼いた。

 ジンだ。逃亡者だ。その姿は伝説の怪鳥……ケツァルコアトル? ヘビのように細く長い顔、ライオンを思わせるたてがみは羽毛でふさふさ。神の(なり)を真似るとはいい度胸だ。なのに下半身は人間のままで、あちこち裂けて破れてはいるもの、濃紺のジャージを履いている。公然猥褻の境界はどこだ。靴はなく、くるぶしから下が鳥のウロコの足首になっている。見た目にも鋭利な鉤爪が凶悪だ。

 怪ジンか。それともあるいはトリ人間。

 怪鳥人(かいちょうジン)は、肩から生えた翼を横に大きく広げ(三メートルはありそう、とはアケビの目算)、「クケー!」威嚇した。

 なんかもう、めっちゃ腹が立った。羽毛のエリマキトカゲ風情に、バカにされる謂われはない。通学チャリだって安くはない。日々の足とし、便利に使っていたものだけに、とにもかくにも余計な出費、増やすなや!

 怪鳥人は、折れたスポークから足を抜こうとして引っ掛かり、「クケ?」首を傾げる。

 すっかりでき上がっている(へべれけだ)な。

 ──この状態を、意識喪失(アウト・コールド)と云う。

 わりと危険な状況だ。逃亡者は、今や自分の召喚した妖霊に呑み込まれている。この状態が長くなると、後遺症が残ることもある。精霊使いやリカーズの引退理由のひとつ。支援団体・退魔会に参加しようとも、個人の意志──悪癖を絶つこと(オン・ザ・ワゴン)──が試される。それがジンの悪意/誘惑だ。

 アケビは気を取り直し、腰の仕事ポーチから魔力封じの手錠を取り出す。無銘のジン相手に後れを取っては、向こうしばらくイジられるってなもんだ。

手を上げろ(ハラペーニョ)!!」勇ましく警告する。「動くと為にならんぞ、諦めろい!」

 ばしっ。

 翼で払われ、手錠は、ぽーんと茂みの中に飛び込んだ。

「クケケケッ」

 あいつ、笑いよった。ぐぬぬ。

 怪鳥人は、アケビの通学自転車だったものの上でステップを踏み、バキバキと破壊を楽しみ、鉄クズ(スクラップ)へと変えていく。うんち(クラップ)

「堪忍しないからね!」

 次いで、アケビは妖霊撃退スプレーを吹きつけた。怪鳥人が羽ばたいた。吹き返しをまともに喰らって、身体からマナがしゅわしゅわ漏れ溶けていくのを感じた。

「げほっ、げーっほ!」

 激しく咳き込んだ。唾に苦いものが混じった。目が痛い。涙も出る。これ、最悪だ。魔力を痛める。売ってはいけないものだった。

 クケー!!

 怪鳥人が羽ばたいた。砂ぼこりが舞う。ばさっばさっ。ぐんぐんと上昇していく。待て、賞金! アケビは焼けた咽喉で喚いた。翼があるとか、ずっこいな!

 通りかかった買い物帰りの若奥さんが悲鳴を上げる。なんでここに、しかも徒歩!! 怪鳥人が首を向ける。奥さんの肩から、長ネギとフランスパンの突き出たショッピングバッグが落ち、タマネギが転がった。

「逃げて!」アケビは咄嗟にスプレー缶を怪鳥人に向かって投げつけた。

 怪鳥人は、いちどは降下をやめた。そして、改めて高度を取ると、今度は真っ直ぐアケビを目指し、猛禽類のそれで襲いかかった。

 アケビは路面に伏せて転がった。膝を強かにぶつけて、擦った。鋭い突風が頭上数センチ上を吹き抜けた。あっぶね! 一息つく間もなく、再び襲来。アスファルト舗装の上をごろごろ道を転がって、タマネギを蹴っ飛ばし、また転がり、息が上がる。これはマズい。いつのまにやら若奥さんと並んでた。

「早く逃げて下さい」きりっと云う。プロらしく。うわあ、手のひらも傷だらけに血だらけだ。

「腰が、」と、若奥さん。

 ああ、とアケビは空を仰ぎ見た。ばっさっばさと怪鳥人が羽ばたいている。怪鳥人と視線がぶつかる。怪鳥人は狙いを定め、翼を大きく反らし──急激な降下!

「──コール!!」

 アケビは叫んでいた。指輪がないとか、マナが足りないとか、プロの自覚がないだとか、どうでもよかった。アケビは全身全霊で妖霊の、相棒の名を喚んだ。

「おっせーよ、ダボが」

 太くて鈍い音がした。コーネリアスが怪鳥人を殴り倒した。二メートルはあろうか──いつもよりも何倍も大きくした身体で、アケビと若奥さんを守るように立ちはだかった。

 ダボって。サル顔だけど身の丈ゴリラにアケビは怒った。「あんた、知ってたな!」

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