白銀ーAngelー1
元々鍛え抜かれていたビルの筋肉は更に肥大化し、血管が浮き出る。瞳は妖しく紅く光り、まるで飢えた獣のように目は見開かれ、呼吸の音も激しい。熱を持っているのか体からは蒸気を発していた。
「ゔおおおおおおおおおお!!!」
おおよそ人間が発したとは思えない雄叫びをあげると先程のお返しと言わんばかりに地面を力強く蹴り4体のオーク達との距離を詰める。
蹴られた地面を見てポラリスは息を呑んだ。踏み込んだ地面は深い穴が開けられており、その周囲1mの道に敷かれた石レンガは粉々に砕けていた。
飛び込んだビルは勢いそのままに大斧を軽々とオークの一体にに振り下ろすと後には肉塊しか残らなかった。それでもなお残りのオークが掴みかかろうとしてきた。一体は片手で持った大斧での横薙ぎで両断し、もう片方の手で一体のオークを掴むと残されたもう一体に向けてぶん投げた。ビルと同じ位の背丈のオークは軽々と吹き飛び、二体のオークが重なって倒れる。
「ぐおおおおおおおお!!」
再び雄叫びを上げると二体のオークに向かって大斧を振りかざす。舞った土煙が晴れるとオークは跡形もなく消え、衝撃による大穴のみが残されていた。
ビルの豹変ぶりと戦いぶりにポラリスは声をかけることを戸惑い、理性を失った彼がこちらに襲いかかることを恐れた。
「いやあ、終わった終わった。それにしてもこの姿は醜くてこまる。それに少し疲れるしね」
いつもの優しい顔に戻り、肥大した肉体も徐々に元に戻っていくビルにポラリスはホッとした。
「っ!!ポラリス君!!上だ!!」
ポラリスは確かに油断していた。ビルの圧倒的な強さを前に呆気にとられていたのである。
突如、さらに3体のオークが屋根から飛び降り、アイリーンに向かって襲い掛かった。
寸前、ポラリスは子供達を抱えたアイリーンを押し除け、オークの前に割って入る。力に任せて放たれたオークの拳を何とか槍の柄で防いだ筈だったが槍は折れ、そのまま民家の壁に吹き飛ばされてしまった。
頭を打ったのか意識が朦朧とする。
アイリーンが駆け寄り何かを泣き叫んでいるがなにも聞こえない。
その後ろからオークがゆっくりと近寄ってくる。
ビルも何かを叫んで駆け寄るが距離が遠すぎて間に合いそうにもない。
腕と足に力を込めようとするもまるで感覚がない。
アイリーン達に逃げるように伝えようとするも声も出せない。
意識が薄れていく。
白くぼやけた視界に不意に銀色の天使が舞い降りた。