鬼ーBerserkerー
ルーナをアイリーンが、ジョシュをポラリスが背負い、ビルがそれを護衛するように城への道を進む。
城に近づくに連れてアンデットの数が増えてきたが猛獣ビル・ワゴンの名前は伊達ではなく軽々と蹴散らしていく。
アンデットの追撃が緩むとビルが民家での戦闘について話しかけてきた。
「それにしてもポラリス君、なかなかの腕前だったじゃないか」
「見てらっしゃたんですか?」
「ああ。君が相手の足を切りつける所からね。」
遅くなってしまって悪かったねとビルは謝罪した。
「あの狭い廊下でリーチの長い槍では不利だっただろう。でも君の横薙ぎも突きも正確だった。」
「いえ、運が良かっただけです。」
「そんなことないわよ。ポラリス君が毎日訓練を欠かさなかったからだわ。」
「ふむ。確かに戦いに運は必要だ。しかし君の動きはそれ以上に洗練されていた。兵団の中でも一目置かれていたんじゃないのかい?」
「そんな!?自分は他よりも力も体力も無くて城では雑用を任されています」
「そうねえ。確かにポラリス君は他の兵隊さんよりも細くて小さいわよね。よし!これからはご飯を大盛りにしてあげる!だからもっとお店に来てね」
ちゃっかり店の客引きをするアイリーンに場の雰囲気が少し明るくなる。いつか元どおりの日常が戻ってくるという希望を彼女は思い出させた。
「そうだな。どうかなポラリス君、この騒動が終わったら戦士ギルドに来て一緒に戦うというのは」
「えっ!?」
突然の勧誘に驚いた。
「えっと…お誘いはとても嬉しいです。本当に。…でも兵士として人々を守り、認められるのが自分の夢なんです」
酒場で宣言した英雄になりたいという夢は流石に恥かしいので言わなかった。
「そうか。それは残念だ。…しかし君は確かに体格があまり恵まれていないな。兵団の入団試験は厳しいと聞くんだが…。失礼なことを聞くようだがどうやって入団したんだい?」
「ああ、それは自分が素質持ちだからです。兵団は希少な素質持ちを積極的に手もとに置いておきたいみたいですから」
「ほう、なるほど素質持ちか。一体どんな?」
「それは…」
言いかけた所でビルが右手を上げて制した。
「…どうやら少々ヤバそうだ」
民家の屋根から何かが降ってきた。衝撃で舞った砂埃が晴れると二体のオークが立っていた。
ラウム国に住む種族は人間が一番多いがオーク族やエルフ族、獣人族なども他国家と比べても多く、それぞれ集落を形成して暮らしている。これは三英雄が建国の際に様々な種族の力を借りたからだと言われている。しかしガラクシアの住民はほとんど人間である。これはガラクシアが元々、他種族を見下して奴隷にしていたドワーフ族の国の跡地にできたからだと言われ、他種族はあまり近寄ろうとしないからである。三英雄の話については後に詳しく語ろう。
さて、オーク族は見た目の通り力強く、誤解されがちだが好戦的なだけで知能や品位も人間には劣るものの少なからずある。その体格を生かした力仕事のために出稼ぎにくるオークは少ない。
目の前に現れた二体のオークも他のアンデットと同じく血走った目と荒い息遣いでこちらを睨みつけている。
最悪なことにさらに三体、オークが騒ぎを聞きつけたのか屋根から降りてきた。
「っ!!ビルさん!!」
「ああ、こいつは手強そうだ。」
まさに危機的状況。しかしビルはまだ余裕を失っていなかった。
「みんなを守って下がっていなさい。あと子供達の目も塞いで置いてくれ。」
「でも流石に一人じゃ…」
「なに、実は私も素質持ちでね。品がないのであまり使いたくないのだが…」
一体のオークが地面を力強く蹴って距離を詰める。その身体能力は今までのアンデットとは比べものにならない。
ポラリスは驚き目を見開いた。オークの身体能力に驚いたのではない。なんとビルが飛びかかるオークの首元を掴みそのまま地面にに叩きつける。地面にめり込んだオークの頭はトマトのように潰れており、わずかにピクピクと痙攣した後に動かなくなった。
「狂戦士……発動……。猛獣と呼ばれる戦いぶり、お見せしよう…」
顔に不適な笑みを作ると大斧を手にオークの群れに飛び込んだ。