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ゾンビ転生〜パンデミック〜  作者: 不死隊見習い
Season1
6/101

決意ーWillー

「っ!!ビルさん!!」

「ああ、わかっているがこちらもヤバそうだ」


 悲鳴に引き寄せられるように、今まで隠れていたのか5体のアンデットが物陰からのそっと現れこっちに向かってくる。


「ここは私が引き受ける。ポラリス君とアイリーンちゃんは家の中へ」

「そんな!ビルさん一人で!?」

「私を誰だと思っている……ふんっ!!」


 アイリーンの不安を消し去るように最初に飛びかかってきたアンデットに斧を振るうとアンデットは人の形すら保たず切り裂かれた。


「いいか、絶対に噛まれるなよ。私もすぐに向かう」

「はい!ビルさんもお気をつけて!」


 表はビルに任せ、玄関から民家の中に入る。家に入ると荒らされた台所が目に入った。武器を握る手にさらに力を込めながら注意深くアンデットの気配を辿る。

 ギイ…ギイ…

 何かを引っ掻く音が二階から聞こえてきた。アイリーンをその場で待たせ、静かにかつ急いで階段を登る。上り終えるところで身を低くし階段に隠れながら様子を伺う。音の正体は女性が扉を引っ掻く音であった。

 おそらく一家の母親なのだろう。女性はエプロンを着用していた。しかし白いエプロンは血で真っ赤に染まっておりどう見ても異常である。女性の血に塗れた顔を見た瞬間、ポラリスの血の気は一気に引き、つい、階段を一歩後退してしまった。


 ギイイ


「っ!しまった!!」


 階段の軋む音にアンデットをこちらを向き、ポラリスの存在に気付くと襲いかかってきた。


「くっ!!」


 掴みかかろうとする腕を槍で何とか防ぐとそのまま押し返す。ポラリスは兵士の中では全く力のない方だが相手がひ弱な女性だからだろう。それでも何とか槍の間合いが活きる距離を取れた。

 相手はよろめき、絶好の攻撃の機会であるがポラリスは一瞬躊躇した。普段、城の雑務をこなすポラリスにとって人に武器を向けるのは初めてだったのだ。

 しかし誰かの助けを待つ者の存在を思いだし、意を決し槍を持つ腕と脚に力を込めて心臓に向かって突きを繰り出した。


「っ!!」


 ポラリスの決意は確かに本物であった。しかしアンデットの意外な行動が槍を途中で止めてしまった。

 

 アンデットは槍が突き刺さる寸前、自身よりもお腹を庇うように体を丸めた。まるで子供でも身篭っているように。


「な、なんで……!?」


 戸惑い硬直した彼をアンデットは見逃さず再び飛び掛かった。不意を突かれたポラリスは足の踏ん張りが効かず、押し倒されてしまう。アンデットは馬乗りになってポラリスの首元に噛みつこうとした。


「こ…の…」


 アンデットと自分の間に槍の柄を挟むことで何とか噛みつきは回避できた。しかし、アンデットの力は意外に強く、このままではこちらの体力が尽きてしまう。

 何か打開策はないかと辺りを見渡すと隣のチェストの上に置かれた花瓶が目についた。

 アンデットごと体を揺らし、チェストに叩きつける。花瓶は揺れるだけでなかなか落下しないため何度も叩きつけた。


 数回目の試行でようやく花瓶をアンデットの頭めがけて落下させることに成功した。アンデットは頭への強烈な衝撃にポラリスから離れよろよろと後退する。その隙を彼は見逃さず小さな横薙ぎで両足の肉を裂いた。

 支えを失ったようにアンデットは尻もちをついて倒れ、ポラリスは腕だけで起き上がろうとするアンデットの胸を足で押さえつけ制圧した。

 しかし胸に向かって槍を突き刺そうとするも変な汗と呼吸が荒くなるだけで動けなかった。


「何をやっているポラリス君……早くとどめをさせ」


 話しかけられながら後ろからポンと手を肩に置かれた。表を片付け終わったのだろうビルとアイリーンがいつのまにか後ろに立っていた。


「このアンデットは…いやこの人は自分の身よりもまるでお腹の子供を守ろうとしていました…」

「……ポラリス君…」


 ポラリスの言葉にアイリーンが戸惑う。


「……彼女はもうアンデットだ。死んでるんだ。もう元には戻らない…残念だがね…」

「自分の仕事は市民を守ることです。殺すことじゃない!」

「ポラリス君!!」


 ビルは大声で怒鳴りつけたがすぐにいつもの優しい紳士然な態度に戻って諭す。


「君の守りたい市民とは死者のことなのか。それとも生者のことなのか。どっちなんだ」

「っ!!」

「彼女はもうどうしたって助からない。だがまだ助けられる命があるはずだ」

「……はい……」


 アイリーンと扉の向こうの存在を思い出し、答える。


「…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 誰に向かって謝ったのか彼自身でもよくわからなかった。自然に口から声が出てきたのだ。

 出来るだけ苦しまぬよう、正確に心臓を貫いた。

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