プロローグ②
「こっちですわよ」
早朝の森の中をドレスを着た少女が駆けていく。
「お待ち下さいエレナ様!」
後ろから護衛と思われる軽装の鎧を纏った2人組がついていく。背が高い方がチャック、低い方をヤンといった。
「たっくエレナ嬢も困ったものだぜこんな早朝に」
「こら聞こえるぞ」
眠そうなヤンをチャックがたしなめる。エレナはというと2人よりもずっと先で辺りをキョロキョロとしている。
ことは明朝、屋敷の窓から森で怪しい光が発せられたのをエレナが見たことから始まった。好奇心旺盛なエレナは居てもたってもおられず、護衛の2人を叩き起こして森へ向かった。
「この辺りだと思うんだけど…あっ!!」
小池のほとりで座り込む少女を見つけた。
「ちょっとあなた大丈夫!?」
心配そうにエレナは少女の顔を覗き込むとギョッとした。
少女の肌は死人のそれであり、瞳は冷たく灰色に色を失い、血の涙を流していた。
エレナがよろよろと後ずさると少女のようなものは立ち上がる反動で飛びかかった。歯をむき出しにして襲い来る怪物にエレナはどうすることもできず首元を噛みつかれた。
「きゃああああああ!!」
「お嬢様!!」
「この野郎、離しやがれ!!」
異変を察知した2人が引き離そうとするが怪物はエレナにギュッと抱きつきびくともしない。そうしている間にも傷口からは鮮血が舞う。
「くそっ、仕方ない…」
チャックが剣を抜く。
「おいっ!殺すのかよ。まだ子供だぞ」
「この顔色…おそらくアンデットだ…」
自分に言い聞かせるように話すチャックを察し、ヤンも短剣を抜く。
一拍置くとヤンが怪物の両腕を切り落とし、エレナから投げ飛ばして引き離す。腕を失ってもなおよろよろと立ち上がる怪物の頭をチャックが両断した。
「お嬢様は”回復“持ちだ、必ず助かる!」
チャックがエレナを止血しているヤンに叫ぶと、抱えて屋敷に急いで帰った。
エレナが行方不明になったことが報じられたのはこの数日後であった。