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8.み、見つけたよ!

 結局王都から調査団が来る事なく、街を出る日を迎えました。

 

 鍛冶屋の親方さんや、冒険者さんには出立日を伝えてあったのですが、当日になって私の護衛をしたい! と沢山申し出を受けました。

 

 道中も色々やりたい事があるので丁寧にお断りしましたが、場合によっては「オレも隣町に行くだけだから」と言って付いてくるかもしれません。

 

 なので色々買い物をする振りをして、街中を歩き回り皆さんを巻いてきました。

 門番をしていたゴーレムを回収し、急いで王都へと向かいましょう。




 ラマを走らせて一時間以上が経ったでしょうか。

 ここまで私を追う人影は見ませんでしたから、恐らく誰も付いて来ていません。


 一応、念のために森の中に入ってユグドラにキャラ変更をしましょう。

 鍛冶キャラで盗賊やモンスターに襲われたら、何もできませんから。


 しずか― ― ― →ユグドラ


 森から出る時は入った時と場所をずらして出てきた。

 念には念を入れておこう。

 さて三日間で次の街に着くらしいけど、途中で商人に会う事があるだろうから、話を聞きながら向かうとしよう。


 ……三日間って馬車に乗ってだよな? そういえば俺は馬持ってないぞ? 徒歩だ徒歩。


「忘れてたー! 歩きだと何日掛かるんだ!?」


 ルリ子もしずかも乗り物は標準装備だったけど、ユグドラは街を歩くときはわざわざ馬から降りて、厩舎(きゅうしゃ)に預けてたんだった。

 流石にバッグに馬入ってたりなんて……しないねうん。


「ま、いっか。急ぐ事も無いだろう」


 俺はのんびり歩きながら街を目指す事にした。




 とりあえず気が付いたこととしては、小型ながらもモンスターが多い。

 戦闘キャラに変更しておいてよかったと思う。


 そしてこの世界に来てからずっと天気がいい。

 とても気持ちいいものだ。


 一日目から商人と何回かすれ違った。

 とはいっても向きが逆だったから、挨拶だけで終わってしまった。


 なによりも驚いたのは、この体は疲れを知らない。

 試しに三十分ほど全速力で走ったが全く平気で、スタミナという概念が無いのかと疑ってしまった。

 調子に乗って走っていたら転んだ。痛かった。


「武器がある限り永遠に戦えるのか。便利なようでブラック企業体質だな」


 一人でぶらつく分には便利なのでヨシとしよう。



 夜になり道の脇でキャンプを始めた。

 夜は夜でモンスターが多い様だから、警戒をしておこう。


 そういえば夜の戦闘はしたことが無い。

 夜はどんなモンスターが出るのだろう。


 たき火を絶やさないように注意しつつ、テントを張って仮眠をとる。

 仮眠のつもりが普通に寝てしまったが、遠くで悲鳴が聞こえて目が覚めた。


 少し離れた場所でキャンプでもしているのだろうか。

 とはいえこんな時間に悲鳴が上がるなんて、ただ事じゃない。

 火を消して向かう事にしよう。

 


 走っていると道が明るくなってきた。

 たき火にしては明る過ぎるな、その予想は的中し、馬車が一台燃え上がっていた。


 何人もの人が怯えてしゃがみ込み、何人かが戦っている。相手は何だろう。

 犬? 狼の群れか? それにしては大きい。

 馬ほどではないけど、それに近い大きさをしている。


 襲われているのを放っておくわけにもいかない。

 助太刀に入ろう。


 離れていた時は気が付かなかったが、荷馬車は二十台以上ある大所帯で、護衛の冒険者も五十人近くいる。

 それだけ冒険者が居たら、大きいとはいえ犬や狼程度何とかならないのか? と思ったら巨大な人影がいくつも見えてきた。


 オーガだ。


 オーガは全長四メートル以上ある巨体で、巨大な棍棒を力任せに振り回しているので近づけず、後退するしかない。

 そこに狼が襲ってくるものだからたまったモノではない。

 意外な連携の取れ具合だ。


「助太刀するぜ!」


 やっと言えた! 異世界に来たら状況によって言うセリフを考えてあったけど、初めて言えたよ!

 と喜ぶのは後にして、冒険者達を背後から襲おうとしている狼を数匹切り倒して、オーガの前まで走り抜けた。


「助かるよ。と言いたい所だが、正直一人増えても状況が好転しそうにない」


 冒険者のリーダーらしき人物、珍しく金属鎧ではなく革鎧を装備しており、剣も細身の剣を使っている。一撃離脱タイプだろうか。


「ぱっと見た感じ、動ける冒険者は十五人ほどでしたね。残りは狼の相手も辛そうです」


「面目ない。まさかオーガが複数現れるとは想定外だった」


 いま目の前にいるオーガは五体。

 どれほどの強さなのかが分からないので、冒険者の強さも分からない。

 しかし三日間の護衛だと考えると、熟練者と呼ばれる部類のはずだ。


「燃えている馬車に人はいますか?」


「全員逃げて他の馬車に入っている」


「よかった」


 そういって俺は、オーガの目の前まで歩き出した。


「お、おい!なにやってる!」


 その言葉の途中で、オーガは俺の頭上から棍棒を振り下ろす。

 俺は両手で斧の横面で受け止めた。

 よし、ゲームの時のオーガより弱いな。


 棍棒をはじき返し、棍棒の一番太い部分に斧で斬りかかると、奇麗に斬り落とす事が出来た。

 暗くて分からなかったが、木だと思ったら石製の棍棒だった。


 とりあえず一匹目! とオーガの首を切り落とし、次は右に居るオーガの両足を切り落とした。

 勢いに乗って、その横に居た奴の鎧のような筋肉をした腹を切り裂く。

 これで一匹は終わり、二匹は戦闘不能だろう。


「狼の群れを頼みます!」


「わ、わかった」


 俺の指示に、リーダーは素早く動き狼の対応を始めた。

 今動ける冒険者なら、狼程度なら問題ない、と思いたい。


 残り二匹のオーガはかなり逃げ腰になっていたが、それでも二匹揃って俺に襲い掛かってくる。

 二本の棍棒が交互に俺に襲い掛かってくるが、動きは遅いので避けるのは問題ない。

 一発くらいなら食らってもいいかな?と思ったが怖いのでやめておく。


 避けられるのは分かったから、今度は打ち合いをした。

 基本的に、斧は両手持ちで扱うので力負けはしなかった。

 なら片腕ならどうだろう。 


 斧を右手で持ち、オーガの棍棒を受けると腕が痺れる。

 押し負けはしないがオーガ相手ではかなりキツイ。

 右手でこれなら、左手では弾かれてしまうかもしれない。


 あまり時間をかけて検証して狼に襲われて全滅、では洒落にならないので、終わらせるとしよう。

 残り二匹の首を落とし、足を斬った奴の息があったのでとどめを刺した。


 腹を切った奴は死んでいた。


 後ろを向くと、狼討伐は大体終わっていた。

 数匹残っている程度だったので、負傷者の治療に当たることにしよう。


 怪我をしているのはほとんどが冒険者だった。

 商人や旅人は、燃えた荷馬車から逃げる時に転んでしまい、その時の怪我だけだった様だ。


 治療セットを使って重傷者から順番に治していったが、残念ながら一人だけ助けられなかった。

 オーガの棍棒を受けて全身の骨が砕けており、即死に近い状態だったらしい。


 実のところ、治療スキルが高いと死者の蘇生も出来るようになる。

 俺も出来るのだが、この場でやるのはリスクが大き過ぎる。

 助けたいし、この世界でも蘇生が出来るのか試してみたいが、今はやめておこう。




 狼を倒し終わったようで、冒険者や商人が俺のそばにやってきた。


「助けてくれてありがとう。まさかオーガを一人で倒してしまうとは思わなかったよ」


「本当にありがとうございます。オーガは普段一匹現れればいい方なんですが、五匹も出てくるなんて。あなたは命の恩人です!」


 そういって商人は俺にお礼だから、と護衛より多い額を渡そうとしたが、取りあえず護衛の金額だけもらっておいた。

 それよりも、王都方面へ向かうのなら乗せてほしい、と申し出たら是非にと言ってくれた。


 まだ夜も明けない時間なので、俺と数名の冒険者が見張りをして、他の人には休んでもらう事にした。




 俺と革鎧リーダーで火の番をしながら、色々な話を聞いた。


 ここ最近は物騒になっているらしく、噂ではドラゴンがでたらしいとか、各地で大型モンスターの出現情報が相次いでいるとか。


 盗賊も活動が活発になっていて、治安が悪くなっている……などなど。

 身に覚えのある話もあったが、大型モンスターや盗賊が増えたのはなぜか聞いてみると、定期的にこういった事はあるらしい、が、普段よりも規模が大きいように感じるそうだ。

 革鎧リーダーが他の冒険者と交代して休むことになり、リーダーはテントに入った。


 あれ? そういえば俺はテントを放置したままじゃないか?

 テントを回収しに行くからと冒険者に伝えたが……俺どっちから来たっけ?


 ああリアル方向音痴。

 違うんだって、林か森か知らないけど、景色が変わらないんだから分かるわけないじゃんか!

 冒険者に王都の方向を聞いて小走りで走ったが、冒険者が笑いをこらえているのを見逃さなかった。




 テントの回収とたき火の始末をして戻ってくると、空が少し明るくなってきた。とはいえまだ夜明け前だ、静かに見張りをしよう。


 その後は何事も無く夜が明け、次々に人が起きてくる。

 商人が朝食の用意をして、簡単なテーブルと椅子が並べられ食事が並べられた。

 皆が順番に席に座るので俺も席に着く。


 そして、俺の正面に座った少女に、俺は釘付けになった。


 髪は茶色で肩より下まで伸びた軽いウェーブ、深い瑠璃色の瞳で身長は百五十センチ位の大人しそうな少女。

 衣装は薄い緑のワンピースに腰を軽く締めるベルト、ピンクで薄地の長そでを羽織り、肩から斜めに小さなバッグをかけている。


 少女と目が合った。恥ずかしそうに目を逸らす仕草もかわいい。

 俺は隣の冒険者に肘で小突かて我に返った。一体どれだけ見つめていたんだろう。


 見つけた。俺のメインヒロイン見つけた!!


 朝食が終わり街へ移動を開始した。

 なんとか彼女と同じ馬車に乗ろうとしたが,どうやら席が決まっているらしく、俺は昨日亡くなった冒険者の席に座る事になり、彼女とは別の馬車になった。


 うーん、変なことを考えてしまいそうだからやめよう。

 何とか姿が見えないかと探すが全く見えない。

 こうなったら昼食時に期待しよう。



「あんた、あの子が気になるのか?」


 一緒に座っていた少し年配の冒険者は、超能力でも使えるのだろうか。


「な、なんでです? そんなこちょないですよ?」


「へぇ~、誤魔化そうとしてもバレバレなんだけどね~」


「ば、ばればれ?」


「アンタ、朝食の時フォークを落としたのおぼえてるか?」


「え?」


「それすら気づかないくらい見つめてたからな~、全員しってるぜ?」


「ええー!」


 見つめていたのは気が付いてたけど、フォークを落としてたのか? 全然気が付かなかった。

 ヤバイ、顔が真っ赤になっているのが分かるくらいに熱い。

 なんとか話を逸らそう。


「そ、そういえば普段オーガが出た時は、どうやって対処しているんですか?」


「ん~? まあいいか、オーガ一匹なら五人ほどで囲んで、相手の死角から攻撃をするんだ。こっちの数が多い程成功しやすいな」


「じゃあ、昨日はオーガだけなら何とかなってたんですね」


「あー昨日はな、実はまだ若いやつが何人かいたから、オーガだけでも厳しかったろうな」


「じゃあさらに狼まで居るとなると……」


「ほんと、全滅を覚悟したよ」


 そう言って笑っているが、本当に危なかったんだろうな。俺が来た時はもうボロボロだったから。


「それはそうと、あんたあれだろ? E・D・Dを壊滅させた人だろ?」


 う、ここでもそれを聞かれるか。


「どうしてそう思うんですか?」


「赤青黄のピエ……目立つ格好をしているし、獲物が斧ときたもんだ。冒険者仲間では有名人だぜ、あんた」


 今ピエロって言いそうになったよね?ま、いっか。言われてみれば、斧を使う冒険者が俺だけなら目立つのも当たり前だ。

 今更誤魔化しても意味は無いな。


「そうですね、でも他に四人居たからたおせ」


「おおーい! やっぱりそうだ! この人がE・D・Dを壊滅させた人だってよー! 道理でつえー訳だぜ!!!」


 うおぃ! 最後まで聞けよ!


「オマケに謙虚なところも聞いてた通りだ!」


 なにその噂!?


「いや~、あんたと一緒に居た四人が自慢してたんだよ、とんでもない奴と一緒に仕事をしたってな!」


 噂ではなく当事者からでした! そうなると誤魔化しようがない。

 一番名前が売れてほしいのはユグドラだし、このまま広がってくれれば何をするにしても便利だろう。

 細かい諜報活動なんかは暗殺キャラでいいし。

 



 その後も何回かモンスターに襲われたが、オーガクラスは出てくる事無く、軽いけが人は出るが問題ない範囲だった。

 食事の度にあの子の横に行けと言われたり、馬車変わってやろうか? とか言われたけど彼女には顔を真っ赤にして逃げられてばかりだった。


「ありゃーあんたに惚れてるな。まだ若いから恥ずかしくて逃げてるんだよ」


 とか言われてまんざらではなかった。




 そしてやっと、というかついに街に着いてしまった。結局彼女とは一言も話せなかった。


「うぇーぃ、やっと着いたぜ。俺達はギルドへ報告に行ってくるよ。あんたはどうするんだ?」


 革鎧リーダーが街に入ってすぐに話しかけてきた。

 俺はしばらくは情報収集とギルドで依頼をこなそうかな。


「そうですね、初めての街だからしばらく散歩してます」


「そうか、冒険者ギルドにも一度は顔を出してくれよ。みんなあんたに会いたがってるぜ」


「依頼は受けますから、そのうち」


「じゃあまたな」


「はい、また」


 そういって冒険者達と別れると、ひとりこちらに駆け寄ってきた。


「あのっ! 助けていただいてありがとうございました!」


 彼女だ。


「えっと、それと、えっと、あ! 私アセリアっていいます! それじゃあまた!」


 勢いよく頭を下げた時に、服の隙間からチラリと胸が見えた。

 すこぶるボリュームがありました! そして走り去ろうとするのと何とか呼び止める。


「お、俺、いや私はユグドラっていいます!」


「はい、知っています」


 笑顔でもう一度挨拶をして走って行った。


 ああ……かわいすぎる。

 メインヒロインちゃんが“また”って言ってくれたよ。

 このフラグ、必ず回収して見せる!!

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