表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/71

7.鍛冶は好きですがメインでは無いので次の段階へ移りたいのですが?

 次々と修理や軽い改善をしていると、すっかり日が暮れてしまいました。



「お嬢ちゃん、残念だがそれで最後だ。日が沈んだら鍛冶仕事は禁止されているんだ」


「分かりました。これを仕上げておいとまします」


 えーっ、という声がする方を見ますが、ギャラリーが減っていません。

 なんだか凄い数の人たちが並んでいます。


「えーじゃねぇ! 鍛冶ギルドの取り決めなんだから諦めろ! ほら帰れ帰れ」


「じゃあ明日朝一番に来るよ!」


「バカ野郎俺が最初だ!」


「何言ってんだ、今並んでる順番に決まってるだろうが」


 なにやら騒がしくなってきましたが……私は明日もここで修理をするのが確定しているようです。

 

 鍛冶屋さんを出る時に、親方さんから報酬をいただきました。

 いつもは無料でやっていたので申し訳ない気分です。


 さて、こちらの街で泊まるのは初めてですが、確か街の入り口近くに6シルバーの宿があったので、そこに泊まる事にしましょう。

 

 入口に近づくにつれて、とても騒がしくなっていきます。

 街の中心部から離れているのに、何かあったのでしょうか。


 騒ぎに近づいてみると理由が分かりました。

 ルリ子の時に壊した門が直し終わらず、門番さんや大工さんがずっと働いているのです。


「これは……放っておくわけにはいきませんね。私がしたことですから」


 メニューのバッグ内から大工関係の道具を取り出し、ラマの道具入れに移動させ、お手伝いに向かいます。

 しかし残念ながら大工ギルドがあるらしく、ギルド所属ではない私は門の修理にはたずさわれない決まりなのだそうです。


 ですがここで引き下がっては女が(すた)ります。直接木の加工ができないのならと、蝶番(ちょうつがい)や他の金属部品の修理に無理やり入り込みました。

 本来なら金属加工の鍛冶関係は夜は禁止ですが、緊急事態のため特例が出ているそうです。


 とその前に、門番さんたちは数が少ないらしく、交代の人員が不足しているそうなので、ゴーレムを出す事にしました。


「ゲート。ゴーレム、来て」


 私の呼び声で二体のゴーレムが、ゲートからゆっくり現れました。


 このゴーレムは二メートル程の高さで、細工師のスキルで作成ができるいわゆるロボットの様なもので、所々歯車が見えます。細工師のゴーレム大会で優勝したこともあるので、戦闘スキルは問題ないはずです。

 実際ワイバーンクラスなら倒したこともありますし。


 二体を門の外に配備して、簡単な指令を与えます。

 “侵入者を防いで門番さんに連絡!”と。

 決められた範囲を二体が歩きながら、警備を開始します。


 門番さんは役に立つのか? と不安がっていましたが、正体の分からない物が門の外をうろついていれば、侵入しようとしても警戒して入ってこない、と説明したら納得してくれました。

 

 門番さんの見張り人員も確保したところで、やっと仕事にかかれます。

 蝶番(ちょうつがい)や門の鍵である(かんぬき)はきちんと設計図があったので、それに従って製作していきます。


 あまり私の好きなように作ってしまうと、後々のメンテナンスが出来なくなっても困るので、少しだけ強度を上げたり、動きが良くなる程度にしておきましょう。

 製作を終え、監督さんに確認をしたら大丈夫だとお墨付きを頂いたので、残念ですが今日は宿で休むことにします。


 ゴーレムには門番さんの指示に従うように、と言っておきましたから問題はないでしょう。




 翌朝、思わぬところで問題が発生していました。

 昨日の深夜、ゴーレムが小さなネズミを侵入者として捕まえたのです。

 門番さんは、なんだネズミか、と踏みつぶしたそうなのですが、なんとネズミは人間になったそうです。

 どうやら魔法でネズミに化けていたようで、一体だれが何のために侵入しようとしたのか問題になっていたのです。


 何でもない犬猫は素通りさせていたようなので、しばらく貸してくれと懇願(こんがん)されてしまいました。

 私はゴーレムの力を実証出来て嬉しいですが、どうしましょう。


 あ、門は問題なく完成していました。

 ルリ子がかけた迷惑が一つ減ってほっとしました。


 街にいる間だけ、という条件でゴーレムを一体貸し出す事にして、私は鍛冶屋さんへと向かいます。



 まだお店が開く時間ではないので街は静かです。静かな街並みというのも中々いい物ですね。

 ですが段々と賑やかになっていきます。商人さんが荷物を運び込んでいるのでしょうか。


 いやひょっとしてと思い、目的の鍛冶屋さんが見える手前の角から、こっそり覗いてみました。

 予想通りです、鍛冶屋さんの前には、沢山の冒険者さんが行列を作っています。

 今日は一日鍛冶仕事で終わりそうです。


 お待たせするわけにもいかないので、気合いを入れて鍛冶屋さんへ向かいましょう。


 修理をして、修理をして、ちょっと改良して修理をする。

 そういえばゲーム時代でも、鍛冶屋さんの前には修理を待つ冒険者さんで一杯でしたが、リアルで経験するとは思っていませんでした。


 でも皆さんとてもいい方ばかりなので、お力になれるのは嬉しいですね。

 そんな中で不穏な言葉が耳に入りました。


「いや~しずかちゃんは俺達のアイドルだよ」


 私の心に稲妻が走ります。


「ホントホント、かわいい鍛冶屋が居てくれると、安心して旅ができるよ」


 さらに稲妻が走ります。


「バカ野郎! しずちゃんを口説く順番は俺が先なんだぞ!」


 特大の稲妻が走りました。


 おかしいですね、確かに初期段階では情報収集のため、いくつかの街に滞在して住民と友好を築く、と計画を立ててありました。

 でもそれはメインヒロインを探すためとか、国王様の耳に入るくらい有名になって、お姫様とハッピーエンドを迎えるためなのです。


 言うまでもないですが、私の中身は男です。

 日本でも普通のゲーマーで、二次元の嫁も沢山いました。

 なのにどうした事でしょう、私がメインヒロインとしてルートを攻略されている気がします!


 ロールプレイをやり過ぎたのでしょうか。ゲーム時代も口説かれたことはありますが……今の言葉は聞かなかったことにしましょう。

 幸い、私が集中すると周りの声が聞こえなくなる、というのは皆さん分かっているようなので、華麗にスルーを決め込みます。


 武器や防具を受け渡しする時にいろいろ口説かれましたが、天然ボケを最大限利用して乗り越える事に成功しました。



 お昼になり、親方さんが群がる冒険者さんたちを帰らせてくれました。

 お昼はゆっくりしたいですしね。

 ただ今日はあまりゆっくりはできません。

 自分に関係があるギルドに登録をしたいのです。

 

 親方さんに聞いたところ、職業の数だけギルドがあるらしく、本当に組合的なモノなのだなと実感しました。

 なのでとりあえず大工、裁縫、細工、錬金術あたりに登録しに行きましょう。

 親方さんに聞いたところ、この街には錬金術ギルドは無いそうです、残念。




 大工ギルドに到着しました。受付のお姉さんはとても疲れているようです。


「ああいらっしゃーい。家の修理か何かの依頼?」


 なるほど、ここではそういった依頼も受けているようですね。

 大工ギルドへの登録をお願いすると、他のギルドと同じ書類に名前を書いて、水晶に手をかざしたら完了です。


 裁縫、細工も同じように登録が終わりました。

 これで昨日の様に、門の修理などの公共事業に参加できるようになったのでしょう。

 さあ、お昼からもお仕事を頑張りましょう。




 一週間が経ちました。

 私は相変わらず鍛冶屋さんで修理の毎日です。

 少し変わったことといえば、革鎧の修理もするようになった事と、依頼人が料理人さんや裁縫屋さんにまで広がった事でしょうか。


 刃物を扱うお仕事なら、切れ味の良し悪しは直接影響があるからでしょうね。

 そして少し広い範囲の地図ができました。

 どうもこの世界には世界地図といったものが存在せず、道を歩いていたら街に着くさ、という考えの様です。


 とはいえ、それぞれの街には街周辺の地図があるらしいので、色々な街から来られたお客さんから地図を譲ってもらいました。

 でも大きさはバラバラで、大体の場所がわかる程度の代物です。そのうちトレジャーハントキャラで地図を作製した方がよさそうです。


 悲しいお知らせもありました。

 一週間修理を続けた結果、百ゴールド稼ぎました。

 一週間で百万円……年収に直すと四千八百万円です。


 日本に居た時の十倍以上稼いじゃってます! 私とても悲しいです。嬉しいけど。

 明日も鍛冶屋さんで仕事が待っています。今日はもう寝ることにしましょう。




 翌朝、いつものように鍛冶屋さんへ向かいます。

 ですが今日は随分と静かです。

 いつもなら、少し離れた場所からでも冒険者さんたちの元気な声が聞こえてくるのですが、今日は聞こえてきません。

 今日は少ないのかな? と思いましたが、沢山いました。昨日と同じく行列ができています。


「皆さんおはようございます。今日は随分と静かですね」


「あ! おはようしずかさん!」


 皆さん一斉に挨拶を返してくれます。やっぱり挨拶って大事ですね。

 その中で数名、列をかき分けて私の前に現れました。


「お前がここの鍛冶屋か?」


 立派な鎧を身にまとった騎士さん達です。顔が完全に兜で隠れているので表情はわかりません。


「私は旅途中の鍛冶職人です。こちらの親方さんはお店の中だと思います」


 騎士さん達で何か話をしたと思うと、肩を掴まれました。


「ではこっちへ来い」


 肩を引っ張られ、倒れそうになりましたがなんとか(こら)え、肩から手を振りほどきます。


「いきなり何をされるんですか? 私は皆さんの装備を修理をしないといけません。用事なら順番に並んでください」


「いいから来いと言っているんだ!」


 無理やり腕を掴まれましたが、今度は逆に私が腕をつかみ返し、引っ張りました。大きな鎧を着ている人はバランスが悪くなるので、簡単に転んでしまいました。


「貴様なにをするか!」


 他の騎士さんが私に襲い掛かりますが、流石に(らち)が明かないので大剣を抜きました。自分でもいい出来だと思う、お気に入りの一品です。


「なにをするか、は私のセリフです。用事があるのなら並んでください。緊急の用だとしても、話しかたというモノがあるでしょう?」


 剣を構えはしましたが私は剣を扱えません。ただ見た目にも大きな剣を片手で持っているので、相手を威圧することができます。

 戦士並みのSTR100は伊達ではありません。


 ここにきてようやく、冒険者さんから私に賛同する声があがります。

 そして騎士さん達を非難する声も。

 徐々に帰れコールが沸き起こり、騎士さん達はどこかへ行ってしまいました。


「すまねぇなお嬢ちゃん。あいつら王国の騎士でな、強く言えなかったんだ」


 親方さんが気になる事を言いました。王国の騎士? 王国はこの街から馬車で十日以上の距離だと聞いています。私の噂が届くには早すぎます。


「とはいっても、あいつらは中規模の街に駐屯している出張騎士だから、大した力もないんだけどな」


 なるほど納得しました。

 どうやらこの街の近くにある中規模の街には、私の噂が届く程度には有名になっていた、という事でしょうか。

 このキャラで有名になる気はありませんので、そろそろ潮時かもしれません。


「それではこのまま私が街に居ると、皆さんにご迷惑をおかけしてしまうのですね……残念ですが私は街をさり」


「大丈夫だしずかさん! 俺達が守って見せる!」


「そうだ! あんな田舎騎士に負けるわけがねぇ!」


「しずかちゃんの身は俺達が守って見せるよ!」


 街を去りま……す? あれ? 実はそろそろ次の段階に移りたかったのですが……困りましたね。


 とはいえ、今並んでいる冒険者さんの分は修理したいので、もうしばらくは滞在する事にしました。

 こうなったらしずかのまま情報を集めて、ルリ子に対する王国の反応を待ちます。


 この街から王都までは馬車で片道十日程、ルリ子で騒動を起こしたのが9日前ですが、流石に早馬を使えばとっくに王都に情報が行っているはずです。

 王都から調査団が来るのは早くても後数日は掛かるでしょうから、どういった対応をするのか見たい所です。

 幸い門番をしているゴーレムから情報が来るので、見逃しも無いはずですから。

 



 そんな計画をしてから五日が経ちました。

 流石に何もないのが逆に不安になってきます。

 実はグレートドラゴンなんて大したモンスターではなく、王都では当たり前に見かける、とかなら是非王都へ行ってみたいですが、もしかしたら王都の政治体制が腐敗してる可能性や、とんでもなく平和ボケしている可能性もあります。


 この街でこれ以上情報を得るのは難しそうなので、明後日には街を出ましょう。

 王都方向の隣町は馬車で三日らしいので、一人で馬に乗って行けばもっと早くつくでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ