70.元気のいい奴は面白うのぅ!
アズベルに剣の師匠を紹介する事をすっかり忘れていたユグドラ。
自宅に招いて自身のキャクターチェンジの話しをするが……どうやら杞憂だったようだ。
番長にキャラクターチェンジだ。
キャラクターチェンジ
ユグドラ
ルリ子
しずか
⇒番長
ディータ
メイア
◆ ユグドラ ⇒ 番長 ◆
体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。
黒い長ランの背中には喧嘩上等、右胸には悪鬼羅刹、左胸には魑魅魍魎、後ろが破れた学生帽をかぶったこのワシ、番長様の登場じゃい!
「ワシとは初めて会うのうアズベルよ。ワシが番長じゃ」
少し前にしずかに長ランを仕立て直してもらったからのう、男に磨きがかかっておるわい。
「初めましてアズベルだ。あなたが俺の師匠になってくれるのくをあああ!」
握手を求めるアズベルの手を掴んで投げ飛ばした。もう修業は始まっとるぞい!
「バカもんがー! 初対面のどこの誰とも知らん男に油断しすぎじゃ!」
「番長さんはアズベルさんの事を知っていますし、アズベルさんにも番長さんの事はお話ししてあるので、知らない仲じゃありませんよ?」
「む? 言われてみればそうじゃのう。がっはっはスマンスマン、ワシの早とちりじゃ」
テーブルの横で倒れているアズベルがゆっくりと立ち上がってきた。うむうむ、これ位ではダメージは無いようじゃ、関心関心。
「こんの、ふざけんなー!」
今度は殴り掛かってきおった!威勢がいいのう!
「ふざけてなどおらぬわ! ワシはいつでも本気じゃ!」
カウンターで顔面を殴りつけると床を転がって壁に激突した。
「あー! ダメですってば、折角の新居が壊れちゃいますから!」
「お、おおイカンイカン、ついつい元気な奴を見ると嬉しくなってしもうてな」
「メッ! アズベルさん大丈夫ですか? 今ヒールをかけますね」
リアがアズベルの治療をして、肩を貸してアズベルを立ち上がらせた。
「いってぇ……なんだよこの強さは」
「アズベルさんも油断しすぎです。番長さんは近接戦闘の達人で、ユーさんですら正面から戦っても勝てないって言うくらいなんですからね」
「マジかよ」
「そのかわり、ワシもユグドラには勝てんがな」
「?」
「近接戦闘に特化し過ぎて治療も魔法も一切使えないそうです。1対1ならいいですが、1対多数だったり、攻撃手段を幾つも持っている相手だと危ないそうです」
「ならパーティーで攻撃したら勝てるのか?」
「パーティーメンバーが全員ユグドラやルリ子並みに強ければな」
「そういうレベルの話しかよ」
「実際には、トロール数十匹をワシ1人で軽くあしらえる、程度の腕しかないからのう」
「結局ユグドラ並みにつえーじゃねえか!」
「ガーッハッハッハー」
うむうむ、殴られても気落ちしておらんな。シゴキ甲斐があるわい!
「それで、いつから訓練を付けてくれるんだ?」
「うむ、それじゃがのう」
今一度ソファーに座って1口コーヒーを飲む。アズベルとリアも座った。
「実はお主よりも先客がおるのじゃ。そちらを先に教えて、ある程度落ち着いてからになる」
「なんならソイツと一緒でもいいぞ」
「いや魔法の方なんじゃ」
「じゃあ時間が掛かるのか?」
「付きっ切りになるわけではないが多少かかるのう。魔法を教えている間は、お主には剣の訓練内容を伝えておく。しばらくは1人で練習をしていてくれんか」
「訓練が出来るならそれでいい」
「うむ、では表へ来てくれ」
家を出て森を少し歩くと手ごろな木を見つけた。
「うむ、これ位が丁度いいじゃろう。このくらいの木を剣を使って倒すのじゃ」
木の直径は30センチくらいかのう、まずはこれを倒せないと始まらんのわい。
「一撃で倒すのか!?」
「いや、何回突いてもいいぞ」
「突く? 突きだけで倒すのかよ!」
「そうじゃ、これをこうやって、こうじゃ!」
細身の剣をフェンシングの様に構え突きを放つ。木が揺れる事なく剣が貫通しすぐさま抜いて構えに戻る。
「これを何回も繰り返して木を倒すのじゃ」
「お、オイちょっと待て、その剣は凄くいい剣なんだよな? 業物だよな!」
「いいや? 王都の武器屋に売っていた普通の剣じゃ」
「折れるだろ普通」
「それは腕が無いからじゃ。真っ直ぐ刺して真っ直ぐ抜く、これを高速・高精度・高出力で行えばできる。ほれ、一度やってみい」
剣を渡して木を指差す。恐る恐る構えているがこれはダメじゃ、へっぴりごしも良いとこじゃ。これでは剣が折れてしまうわい。
案の定剣が折れ、折れた剣がアズベルの顔に向けて飛んで行ったので左手の人差し指と中指で止めた。
「なんじゃあそのへっぴり腰は。やる気が無いなら教えんぞ」
「いや、いや待ってくれ。もう一度やらせてくれ」
今度はアズベルが以前使っていた細身の剣を構えた。うむうむ、構えは普通になったのう。
突きを放ち木を貫通した。が、そこまでの様じゃ。抜けなくなってしもうたな。
「あれ、ん、んーーー!抜けなくなっちまった」
「突くときに軸がブレたんじゃ。だから木に刺さる時に剣が波打ってしまったんじゃのう。高精度の部分が足らんのじゃ」
「そうなのか?普段戦っている時はブレていないと思っていたんだが」
「人間サイズのモンスターを倒す程度ならば問題はないわい。しかし大型はそうはいかん」
どうやら30センチでも太いみたいじゃな、仕方が無い15センチくらいの木にしよう。
木から剣を抜いてアズベルに渡し、細い木をゆびさす。
「ではこれならどうじゃ? やってみい」
細い木の前で構え、突きを放つ。どうやら抜きまで成功した様じゃ。
「あ、できた!」
「当たり前じゃアホウが。まあいい、このサイズの木を何も考えずに倒せるようになるのが第一段階としよう。第二段階は30センチの木じゃ。まだまだ先は長いぞ!」
「おうさ! 任せとけ!」
細い木を何度も突き刺しているが中々倒れない。そりゃそうじゃ、少しでも高さがズレたら倒れんからのぅ。
「ここで続けても構わんが、ワシは出かけて暫くは帰ってこん。ひと段落着いたらエリクセンに戻って続けるんじゃ」
「そうなのか?あー、一つ頼みがある。ゲートでエリクセンに送ってくれないか?馬に乗って一人で来たが、3日かけて戻る時間が勿体ないんだ」
「そう言う事ならいいぞ。ワシらはアグレスにおるから用事があったら来ると良いじゃろ」
「おう、わかった」




