6.鉄を叩いていると落ち着きますね
相棒たちのお披露目をアルに済ませ、街に戻ることにした。
飛龍でひとっ飛びしてギルド前に帰ってくると、まだ人だかりがあった。
まったく五月蠅いったらありゃしない。
「アル、アタシは旅に出る。戻ってきたら真っ先に会いに来るよ」
「お姉様……お気をつけて」
アルに別れを告げて街の外に出る。
今回の事で色々分かったことがあるから、近くの山まで飛んで今後の対策を考えよう。
山の奥深くに入りバッグの中身を整理する。
どうやらアイテムはキャラ変更しても共通で使えるようだ。依頼書が入っていたしユグドラの冒険者カードも入っている。
ならキャラごとに小袋を用意した方が良いねぇ。
今回はゴリ押しして、アルを口説き落として何とかなったが、多分受けたヤツ以外では依頼達成にならない。
どのキャラで何の依頼を受けたかが分からなくなったら困るな。
街にはロクな入れ物が売っていなかったから、生産キャラに変更して一式作ってしまおう。
ユグドラの鎧や武器の修理もしたいからなぇ。
さてと、まずはユグドラにキャラ変更しようかね。
体が光り、ゆっくりと姿がユグドラに切り替わっていく。
ルリ子― ― ― →ユグドラ
「ふぅ、やっぱり役になり切るのは楽しいな。受付の女の子の名前も分かったし、今後はメインヒロインとして……あれ? ルリ子で口説き落としちゃったら俺の攻略キャラから外れちゃうんじゃないか?? しくったーーーー!」
しまった~、勢いでやった事とはいえ百合方面にルートを進めてしまった。
くぅ、こうなったらもう片方の街の受付の女の子を攻略対象にしてやる!
と後悔するのは後にして、防具と斧をバッグに放り込む。
お、そろそろ立体映像のバッグにも慣れてきたぞ。
よし、じゃあ生産キャラに変更だ。メニュー画面からキャラクターチェンジを選択、しずかっと。
ユグドラ― ― ― →しずか
流石に何回もやっていると慣れてきますね。
生産キャラしずかに変更し、革の手袋と厚手の前掛け、服装も汚れが目立たない様に茶色を基調としたものに変わりました。ピンク色のベレー帽がアクセントです。
髪が短いキャラなのでルリ子の時と比べて首がスースーします。女性キャラなのに女性らしくない格好ですが……生産命なのでいいのです。
そういえばラマに乗っていたはずですが居ないのでしょうか。あの子には荷物を載せていたはずですが……いたいた、少し離れた所で草を食べていました。
さあ、街の鍛冶場で修理をしましょう。
三回目のギルド登録です。ですが今回は冒険者ではなく鍛冶ギルドですから場所が分かりません。
門番さんにお話を聞くと冒険者ギルドのもう少し奥の左手にあるそうですから、早速向かいましょう。
ああここですね、金床とハンマーが書かれた看板があります。
石造りの建物に入ると冒険者ギルドとは違って狭くて人が全然いません。カウンターらしき物はありますが誰も居ません。
「こんにちは、誰かいませんか? こんにちはー」
カウンターの奥の部屋から物が沢山落ちる音と悲鳴がします。大丈夫でしょうか。
部屋から顔を出したのは、ヒゲが長く、髪がボサボサな小柄な男性です。
「誰じゃな? こんな時間に」
面倒くさそうに出てきた男性はお昼寝でもしていたのでしょうか、少し眠たそうです。
「お休みの所すみませんが、ギルドに登録をしたいのです」
「え? お嬢ちゃんみたいな若い子がか?」
「はい、こう見えても鍛冶や服作りは得意なんです」
とても不思議がられましたが、書類に名前を書いて水晶に手をかざして終わりました。
「これで鍛冶仕事を受けることができるが、師匠はだれだ?」
師匠……NPCに基本スキルを教わって、後は独学でしたから師匠と言える人はいません。
そのまま言う訳にもいかないので、少し誤魔化しましょう。
「鍛冶が好きでしたので、小さなころからずっと一人でやっていました」
ここで男性の顔が歪みました。
「はぁ!? 師匠も無しに鍛冶屋を名乗るのか? チッ登録させるんじゃなかった。もういい帰んな」
背中を押されてギルドから追い出されてしまいました。
やはり師匠が居ない事がいけなかったのでしょうか。
とはいえ目的は果たせました。後は鍛冶屋さんで金床と炉を借りて修理をしましょう。
数件鍛冶屋さんを見てまわり、丁度いい金床と炉を見つけました。
鍛冶屋の皆さんはお店の戸を開放していて誰でも入れるようになっていました。
どうやら自分の腕を見てもらうためのようです。
仕事中のようですが、少しお邪魔して借りられないかお願いをしましょう。
「ああん? そっちの炉は長い間使っていない。俺の邪魔をしないのなら勝手に使え」
ヒゲはありませんがホリが深く、金槌をたたき続けた腕がとても逞しいおじさまは、渋い声で答えてくれました。
お許しが出ましたので、早速ラマに積んである道具を運び込みました。
各種金槌、火ばさみ多数、一応鍛接材も用意しました。どうやらこちらの炉は少々埃がかぶっているので、石炭を全部出して掃除をしましょう。不純物は少ない方が強度が上がりますから。
金床はツノ付きのものですが少々へこみがあります。ですが許容範囲内ですね。
私は木炭派なので、鍛冶屋さん探しをしている途中で買ってきた木炭を炉に入れ、ふいごで火を起こして温度を上げます。
改めて修理する斧と鎧を確認します。斧は研げば大丈夫ですが鎧には小さな亀裂が入っていました。
アンデッドの中に飛び込んだ際に出来たのでしょう。
材料袋から鎧と同じ種類の金属板を取り出し、鎧の亀裂部分と金属板を炉で熱します。真っ赤になったところで金床に移し、鍛接材を沢山亀裂に振りかけて、金属板を当てて金槌で打ち込みます。
鎧の内側と外側から丁寧に打ち続け、金属の厚さを他の部分と均等にそろえ、何度も熱しながら調整を続けます。
金属板と鎧が完全に一体化したので表面を磨き、施されていた彫刻を再現して鎧の修理は完了。
次は斧ですが、研ぎだけで大丈夫なので砥石を濡らし、丁寧に研いでいきます。両刃を磨いて顔が映るくらい奇麗になったので最終確認をしましょう。
小さな紙を道具袋から取り出し、軽く刃に当てます。紙を下に滑らせると紙は半分に切れました。これなら大丈夫でしょう、完了です。
斧を台に置いた瞬間歓声が上がります。
ビックリして顔を上げると、いつの間にか沢山の人が私の作業を見ていたようです。ここの鍛冶屋さんもほとんど真横で見ていました。いつのまに……集中すると周りが見えなくなるのは早く直さないといけませんね。
「お嬢ちゃん凄いな、あんなに手際がよくて速い上に仕上がりは新品同様じゃないか」
「あ、ありがとうございます」
実際の所は私にはこんな知識はありません。ゲーム内のスキルが勝手に作業をしてくれたのでしょう。ゲーム内ではこんな事をやっていたんですね~。
「この粉はなんだ?」
「それは鍛接材といって、金属同士を鍛接する時に使うとキレイにくっつくんです」
へー、そうだったんですか。勉強になりますね私。
「この石はなんだ?」
「これは砥石といって、刃物を鋭利にするときに使う物です」
「ヤスリじゃいかんのか?」
「途中までならヤスリでもいいのですが、仕上げは砥石を使っています」
知らない言葉や知識が次々に口から出てきます。鍛冶屋さんって色々覚えることが多かったんですね。
「ね、ねえお姉さん、俺の剣を見てくれないか」
一番前で見ていた冒険者風の人が剣を差し出しました。鞘から抜くと、正直に言いますとあまりにも品質が悪い上に刃がザラザラでした。
今すぐにでも直したい衝動にかられますが、ここは私のお店ではありません。
「あの、親方さんに聞いてみないと。私は場所をお借りしただけですので」
ゲームの時は修理は無料で行っていました。修理で名前を売って自分のお店の宣伝をするためです。修理は何も消耗しませんでしたから。
この世界ではお店を持っていませんし、この鍛冶屋さんのルールに従わないといけません。
「かまうこたーねぇよ修理してやってくれ。ただし修理代はウチの金額でたのむぜ」
「はい、それでしたら喜んでお受けします」
と同時にオレもオレも、と山の様に武器や防具が差し出されました。これは……やりがいがありますね!