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5.傍若無人・ルリ子

― ― ―


 体が光る。段々と俺ではない姿に変わっていく。そう、やっとアタシの出番かい?

 首の長い大きな鳥にも見える龍に乗ったまま、アタシは魔法を使った。


「メテオ・スウォーム」


 頭ほどの大きさの無数の石が空から降り注ぐ。

 アタシの周りに居たゴミは片付いた。次はヘタレ共を助けてやろうかねぇ。

 飛龍(ひりゅう)を操り一回羽ばたくだけで、ヘタレ共の場所に飛べた。

 なんだこいつら、なんでアタシに剣を向けてんだ?まあいい、邪魔をするなら殺せばいい。


「頭抱えて地面に這いつくばってな。爆風で吹き飛ばされるよ!」


 空を指さして次の魔法を使う。


「チェイン・ライトニング!」


 あたり一帯に雷が降り注ぐ。地面がえぐれ木は吹き飛び風が吹き荒れる。

 生ゴミが消えて無くなるまで続けた。十秒程度で終わったか。生ゴミにしては時間がかかった方だ。


「生ゴミは吹き飛んだ。さ、街へ向かうよ」


 飛んでいけば直ぐに着くが、アタシが一人で行っても意味が無いしねぇ。面倒くさい連中さね。

 ん? なんで動かないんだこいつら。


「死んだか?」


「やっぱり俺達を殺すつもりなのか! お前は何者だ!」


 あん? 何者だってお前、スキンヘッドだからって記憶まで丸っと無くしたのか?

 街を出る時に挨拶してやっただろう……ああ。

 アタシの今の姿は真っ赤な魔法帽子に真っ赤なベスト、白い長そでシャツに真っ赤なミニスカート、真っ赤なヒールを履いている。


 おまけに飛龍に乗っている上に、髪も長いし性別まで変わってるんだったねぇ。

 ヘタレクズ共にもう一度説明しないといけないか。


「さっきユグドラが来てね、後はよろしくってさ」


「ユグドラはどうしたんだ!」


「だから言ってるだろう? アタシに任せて帰って行ったよ。ほらこれ」


 アタシはバッグに入っていた護衛の依頼書を見せた。任務が終わったら依頼人にサインを書かせて、ギルドにくれてやる紙屑だ。


「ほ、本物のようだな。ならその鳥は何だ!」


「鳥じゃねぇ飛龍(ひりゅう)だ!なめた事言ってるとこいつのエサにするぞ!」


 ムカついたからつるっぱげに麻痺をかけて、飛龍から飛び降りがてら蹴りを食らわせた。


「次にアタシの相棒を鳥よばわりしてみな、エサにした後で魂をシェイドにして、永遠にさまよわせるぞ!」


 倒れたハゲの胸倉をひっつかんで往復ビンタをくれてやった。これだけ喜ばせてやればもう間違えないだろう。


「それで、行くのかい行かないのかい。行かないんならサインだけ書きな。アタシの名に傷をつけるような真似するんじゃないぞ」


 アタシの言葉をやっと理解したようで、無言で首を縦に振って進みだした。家畜は家畜らしくご主人様のいう事を聞いてりゃいいのさ。

 ハゲの麻痺を解くのが面倒だから、荷台に放り込んで目的の街へ向かう。




 暇だ。暇だ暇だ暇だ暇だ。


「おいちょび髭(依頼主)、朝はモンスターが元気になるんじゃないのか?」


「は、はい! その、いつもは何回か襲われるのですが、今日はもう出ないかもしれません」


 先頭の荷馬車に座っているチョビ髭達磨(依頼主)がキョドっている。こいつが金づるのはずだがこんなんで大丈夫か?


「じゃあ寝る。着いたら起こしな」


「えええ! あのその飛龍……さんは大丈夫でしょうか」


「こいつは眠らねーよ」


「そうではなく、あの、その……襲ってきたりとか……」


「機嫌を損ねなきゃ大丈夫さ」


「わ、わかりました」


 飛龍の毛は気持ちがいい。天気もいいし絶好の朝寝びよ……り……




「お、おはようございます。おはようございます」


 うるせぇ、気持ちよく寝てんだよ起こすな。


「街に到着しました。起きてください」


 街?街って、ああ、仕事の途中だったか。

 体を起こして背伸びをする。ん~~~……はぁ、腹減ったな。


「じゃあサイン」


 飛龍から降りてちょび肉達磨に紙をわたす。


「ま、街に入ってからの決まりでして……」


「じゃあさっさと入んぞ」


 街に入ろうとするが石ころ(門番)が目の前に現れた。


「待て! それは何だ! お前は何者だ!」


 なんだ? ひき肉達磨は実は犯罪者でしたパターンか? 面白くなってきたじゃねーか。

 脂肪達磨と、麻痺が解けたハゲが石ころと話しをしている。何語で話しているのか知らないが、人様の迷惑になるようなことはするなよ?


 ギーギーとかチューチューとか言ってるけど、門の中らか砂利がザラザラと出てきた。


「今すぐ立ち去れ! さもないと攻撃を開始する!」


 最近の砂利は人語を使えるのか。いやいやアタシが天才だから理解できるんだろうなきっと。

 油とつるピカがこっちに来た。


「冒険者カードはお持ちでしょうか。あの門番が納得してくれなくて」


 あ~そういえばユグドラは持ってたけどアタシは持ってないな。流石にユグドラのを使う訳にもいかないし。


「持ってないねぇ。冒険者登録してくるからそこをどきな」


「ま、待て! 身分の分からない者を通すわけにはいかない! 立ち去れと言っているのが分からんのか!」


「だから冒険者登録してくるから通せってんだよ。バカかてめぇは」


「だ、だから身分のわから」


「うるせぇ!!」


 砂利を蹴飛ばして視界に入らないようにした。

 なにやら他の砂粒が門の前に集まっている。


「飛龍、ブレス」


 飛龍の口から炎が噴き出して、砂と門を吹き飛ばす。街の中に入ってアタシは気がついた。


「おい油ぎっしゅ、街の中に入ったんだからサインしろ」 


 アタシの優しい言葉に泣いて喜んでサインをした。さてギルドへ行くとするか。

 たしかここら辺に、おおあったあった。


「飛龍おすわり。大人しく待っていて、後でお弁当を一緒に食べよう」


 ひと鳴きして座った。本当に可愛いやつだ。

 建物の中は人で一杯だ。お、銀髪の知的なメガネっ子発見。ユグドラの時も居たから話が早いだろう。

 カウンターの前に立って早速用事を伝えた。


「金出しな」


 ん? 騒がしいな。なんでみんな武器構えてんだ?


「ぼっ、冒険者ギルドに強盗に入るとはいいいいいい度胸です。ここには腕の立つ冒険者が」


「強盗がいるのか? 物騒だな。強盗に金を払う前に、さっさと依頼の報酬を渡してくれ」


「え? 依頼?」


「護衛の仕事が終わったから金払えってんだよ」


 眼鏡っ娘に紙ぺらを見せると、納得したようなしてないような、不思議な顔をしている。


「あ、えっと冒険者カードを見せてください」


 冒険者カード? ああ、忘れてた。


「そうそう、冒険者カードを作ってくれ」


「ええっ! 冒険者登録をしてない方には、報酬をお支払いする事はできないのですが」


 少しおびえながらも懸命に対応する小娘から依頼書を取り上げ、(ほほ)を優しくなでてやった。


「ふふふ、可愛い顔をしているねぇ。カワイイ女は素直が一番さ、依頼の事は忘れてまずは冒険者カードを作ろうか」


 この小娘は落しておいた方が後々便利そうだ。優しくしてやろう。

 納得がいったのか歯向かわない方が良いと考えたのか、見覚えのある紙がでてきた。


「こ、こちらに記入をお願いします」


「少し疲れているから、そこの椅子に座って書くよ」


 待合スペースの椅子に座って、テーブルに紙を置いて書き始める。カワイイ女はアタシの横にしっかり付いてきた。


 名前:ルリ子 

 クラス:天才


「あのルリ子さん、もう少しクラスを詳しくお願いできませんか?」


 詳しくか、右手で持ったペンを回しながら、手持無沙汰(てもちぶさた)な左手で女を抱き寄せた。


「ひあああぁ!」


「お前はいい香りがするねぇ、名前はなんて言うんだい」


「わわわ私はアルシエルと申します!」


「アルシエルか、良い名前だね。アルって呼んでもいいかい?」


「かっ構いません」


「アルは、アタシが何の天才だと思う?」


「魔法、でしょうか」


「いい線行ってるね、もう一つあるんだよ」


「テイマーでしょうか」


 迷わず答えるところを見ると、アタシの事はしっかり見ているようだね。


「正解だ、賢い子は好きだよ。それで登録をたのむよ」


「分かりました。ルリ子さん、カウンターにある水晶に手をかざしていただけませんか? あれは動かせないので」


「アルにお願いされたら断れないねぇ」


 組んでいた足をほどいて立ち上がる。水晶に手をかざすとアルが手続きを始めた。アルはカウンター内には入らず、ずっとアタシの隣で作業をしている。カワイイやつだ。


「こちらがルリ子さんの冒険者カードになります。カードは街に入る時や依頼を受ける時に必要になりますから、無くさないようにお願いします」


 ユグドラの時は受け皿にカードを置いたのに、今回は手渡しで来たね。だからしっかり手を握って受け取った。ついでだから手を握ったままお話でもしようかね。


「る、ルリ子さん、たった今、受けた依頼があるはずですが」


 たった今? ああそういう事か。護衛の依頼書をアルに渡した。


「アルに会いたくて、一瞬で依頼を終わらせてきたよ」


「手続きをしますので、少しだけ、ほんのチョットだけお待ちくださいー!」


 小走りで奥に走っていき、本当にすぐに戻ってきた。


「お待たせしました、護衛達成報酬の一ゴールド五シルバーと、モンスター討伐分の七十ゴールドです」


 カウンター越しではなく、アタシの前に来て手渡しをしてきた。左手に一G五S、右手に皮袋。


「それと、依頼主の商人さんが専属契約を結びたい、と依頼書に書かれていましたが……どうされますか?」


 専属契約? 面倒くさそうな響きだねぇ。金を受け取ってアルの腰に手を回して引き寄せる。


「アタシは誰のモノにもならないよ。でもアルはアタシの専属になってくれるかい?」


 顔を真っ赤にしている、本当に可愛いやつだ。


「し、職務上専属はありませんが、お姉様の対応は必ず私がさせていただきます。それで……どうですか」


 上目遣いでお姉様と言われた。随分と理解の早い子だねぇ? まあいいだろう。


「それでいいよ。じゃあ相棒を紹介しよう」




 アルを連れて、ギルドの入り口に待たせている飛龍を見せてやった。ん? なんだいこの人だかりは。


「飛龍、この子はアルシエルだ。頻繁に会う事になるから覚えておいてくれ」


 どうやらアルシエルを気に入ったようで、口先をアルの頬に軽く当てた。


「アル、この子がアタシの相棒の一人、飛龍だ」


「よ、よろしくお願いします飛龍さん」


 飛龍は大きいから少し怖かったようだけど、しっかり挨拶をしてくれた。いい子だ。


「あれ? お姉様、相棒の一人という事は他にもいらっしゃるんですか?」


「そうだね、ドラゴンとメアがいる。うんついでだから全部紹介しようか。飛龍、街の外へ行くよ」




 そういってアタシとアルは飛龍の背中に乗り、外壁を飛び越えて門の外に出た。

 ちなみにドラゴンも飛龍も飛ぶときは翼を広げるが、羽ばたかず魔法で飛んでいる。魔法を使わずに飛ぶことも出来るが、魔法を使った方が素早く動けるらしい。

 街から少し離れてから着地して、アタシとアルは地面に降りた。


「じゃあ紹介するよ。ゲート!」


 高さ二メートル、幅一メートル程の青く光る楕円形が四つ現れて、そこから漆黒の馬ナイトメアとドラゴンが三匹現れる。

 ナイトメアは普通の馬より一回り大きい程度だが、ドラゴン三匹は三十~四十メートル程の高さがある。ゲートは大きさに関係なく転送できる便利な移動魔法だ。


「おっと大丈夫かい」


 相棒たちを見たアルが倒れそうになったので支えてやる。流石にドラゴンは早すぎたかもしれないねぇ。


「私の知っているドラゴンと違います……」


「ああこの子達はグレートドラゴンだから少し大きいね。ドラゴンもナイトメアもしっかり鍛えてあるから野生の奴らよりもさらに体が大きくなったのさ」


「野生!? ドラゴンとナイトメアが他にもいるのですか!?」


 ん~? なんかおかしいね。ああ、この世界ではドラゴンはあまりいないのかもしれないねぇ。


「最近は見ないから安心していいよ。もし現れたらアタシがアルを守る。大丈夫だ」


「お姉様……」


 不意を突かれた。アルがアタシにキスをしてきた。


「あ! すみません! 私ったらお姉様になんてことを」


 メインヒロインであるアタシの唇を奪うとはねぇ、サブヒロインとしてアルは申し分ないからいいだろう。


 今度はアタシからキスをしてやった。


「構わないよ。アタシのお姫様」

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