59.廃虚の花
新しい武器と防具をアズベル達に渡し、手入れの方法や必要なアイテムを渡したしずか。
魔法使いの2人にもルーンストーンを渡し、アセリアにも冒険用の衣装を渡したので、強化の第1段階は終了した。
質問も無くなりましたし、こんな所でしょうか。そろそろユグドラに交代したいですね。
「ああ、ルーンストーンは何度でも上書きが出来ますので、間違えたり必要なくなった場所は心配せずに消して大丈夫です」
魔法系の二人が少し安心しています。失敗して無駄にしたらどうしようと心配していたのでしょう。
簡単に出来る装備の手入れ方法なども教えましたから、これで完了ですね。
「それでは私は戻ります。暫くしたらユグドラが合流すると思いますが、待ち合わせ場所などは決まっていますか?」
「いや特に決めていない。そうだな、マイネの村の狩人組織にしよう。色々と確認をしないといけないからな」
「分かりました伝えておきます。それではみなさん、冒険の無事をお祈りしています」
お辞儀をした後でリアに手を振り、リコールで王都の家に戻りました。
「ふぅ、流石に疲れましたね。4人分の装備新調と手入れ、なによりリアの服に力を入れすぎました」
リアには言いませんでしたが、あの服には対物理・対魔法防御の効果を付けてあります。
ユグドラのマジック・アローやファイヤー・ボールならほぼダメージは通らないでしょう。
さあ、荷物を整理してユグドラに替わるとしましょう。
しずか― ― ― →ユグドラ
「結局装備を新調しちゃったな。修理だけのつもりだったけど、傷んだ装備を見てたらウズウズしてしまったというかなんというか? まあ喜んでくれたからいいか」
俺の装備もメンテするつもりだったけど、アダマタイトのお陰か全く傷んでいなかった。
いい鉄だ。
治療キットやポーションなどの補充をしてマイネの村へ向かうとしよう。
マイネ近くの森の中にリコールでやってきた。
ここから村までは馬で10分程度の距離だから急ぐ必要も無いが、リアの服を見たいから急いで向かうことにしよう。
村に入り狩人組織の建物へ向かうと丁度アズベル達が出てきた。
「やあ、おはようみんな」
「ユーさんおはよう!」
「いよう、おはようさん」
みんなと挨拶をしてリアの服を改めてみる。
さっきはカーテンを閉めた薄暗い部屋だったけど、太陽の下で見る新衣装は光り輝いて見えた。ああっ! 女神さまがいる!
「どう? かわいいでしょ?」
リアをグルリと1回転する。前横背中横前。可愛くない所が無い! 死角ゼロ!
「どこから見てもカワイイ! こんな女神さまと一緒に居られるなんてぼかー幸せ者だ!」
「もう、また大げさなこと言って」
「このユグドラ、女神さまに一生付いて行きます」
「おいバカップル、早く来ないと置いて行くぞ」
慌ててアズベルの後を追いかけて馬に乗った。
今から向かう廃虚はふもと付近にあり、そう時間はかからないようだ。
廃虚は狩りを生業とする人たちが随分昔に住んでいた場所らしいが、もう10年以上使われていない。狩りをするには山の中の方が便利ではあるが、危険もあるからだろう。
村から近い事もありモンスターや獣は住んでいない様だ。
「じゃあ特に注意すべき点はないのかな?」
「そうだな、狩りや薬草を採る時に通るらしいが、特におかしな事はない様だ」
「そっか、まあ油断せずにやれば問題ないか」
あまり急ぐ事も無く、森も深くないのでしゃべりながら馬を走らせていたら到着した。
木製の家が10軒ほどあり、すべて朽ち果てている。
馬を降りて周囲を警戒しているが、物音ひとつしない。建物一つずつ調べていくが、獣やモンスターが住んでいた気配すらなく、ただ荒れていた。
「魔法を試せない。つまんない」
「私も使いたいけど、そんな事言わないの。安全に終わるのならそれが一番よ」
「新装備を試せると思ったのになぁ。短剣で壁に何か彫ろうかなぁ」
「初陣がそれでいいのかお前は」
「ア・ズ・ベ・ル・は・ジ・ジ・イ。っと」
「ほぉう、ババアの分際で器用に彫るじゃないか。年の功か?」
「レディに年の話をするなんてね、アニタにチクろー」
アズベルとケンタウリがにらみ合っている。この二人の定番の遊びだ。
暫く周辺を調査したが気になる点は無かった。これ以上は収穫がなさそうだ。
「これ以上は時間の無駄だな。そろそろ撤収するとしよう」
アズベルもこれ以上は何も見つからないと判断したようだ。
馬を置いてある場所に向かう途中、リアが立ち止まってどこかを凝視している。
「どうしたの? リア」
声を掛けると朽ち果てた建物の中に入っていく。中にある草むらの前でしゃがんで何かを見つめている様だ。
何かあったのかと後を付いて行き草むらの前でしゃがむと、草むらの中に数本の花が咲いていた。ん? 同じ花だと思うけど1本だけ花びらの色が違うな。
「1本だけ色が違うね」
「うん。この花はビジランティって言うんだけど、こんな色は見た事が無くて」
「みんなはこの花の事を知らないか?」
アズべル達も何かあったのかと近くに来ていた。だが花の事は知らないようだ。
「アセリアは花にくわしいのかしら?」
「昔薬屋で働いていたので、薬草に詳しくなったんです。ビジランティには毒があるから覚えていました」
なるほど、薬になる植物と毒になる植物は覚えるだろうな。毒も場合によっては薬になるみたいだし。
「怪しいなら持っていきたいけど、出来れば専門家に来てもらった方が良いかもしれないね」
「そうだな、これが今回の件と関係があるか分からないが、知らない事には下手に手を出さない方が良いだろう」
専門家が来た時に分かるように草むらを簡単な柵で囲った。建物にも目印を付けたから迷うことは無いと思う。
村に帰り狩人組織のリーダーに話しをした。
リーダーもビジランティの色違いは聞いたことが無いらしく、明日にでも調べに行くと言っていた。かなり興味深そうに話しを聞いていたから本当に珍しいのだろう。
この村での調査はこんなものだろう。そろそろ夕方だから宿をとって、次の村へは明日の朝にでも向かうとしよう。
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