4.やっぱり人よりモンスターが怖いです
街を見て回って分かったことは、マジックアイテムが一つも売っていない事だ。
魔術ギルドにでも売っていないかと思ったが、この街には魔術ギルドは無く、魔術ギルドは王都オンディーナにしかないらしい。
そういえばさっきの四人冒険者にも前の街にも、この街の冒険者ギルドにも魔法使いっぽい人は居なかった。
魔法が強くない世界なのかな?
鍛冶ギルドの近くには鍛冶屋が多く、冒険者ギルドの近くには武器や防具、道具屋が多い。大通りには色々な店が出ている。
食い物は分からないが、とにかく武器も防具も品質が悪い。チェインメイルやレザーアーマーにしても標準か低品質な物しかない。
そりゃー俺の鎧を見て驚く訳だ。
っと、暗くなってきたな。さっさと宿を決めて飯でも食うとしよう。
街に入ってすぐに目に入った木で建てられた宿屋に入ると、五シルバー支払い部屋に荷物を置いた。
ちょっと狭いビジネスホテル、と言った感じの部屋で俺は木製のベッドに座ると、担いでいた斧を壁に立てかける。
戦闘の後で手入れをしたから血はついていないが、少々切れ味が悪くなっていた。
メニュー画面のバッグを触ると、バッグの中身が立体映像のように目の前に現れる。何度か使っているがまだ慣れない。
寝る時に邪魔だろうから鎧を外してバッグに入れ、帽子とマントも片づけた。
青いローブを脱ごうか悩んだが、トレーナーを他の人に見られても大丈夫なのか分からないので、ローブは着たままにした。俺は裸族ではないのでな。
― ― ― ― ― ―
翌朝、目が覚めると宿の一階で朝食を取り、装備を整えて冒険者ギルドへ向かう。
今日は護衛以外の仕事をしようと思っている。
受付の女の子の笑顔に癒されて一日の活力を得た俺は、手頃な依頼が無いか訊ねたのだが、なにやら悩んでいるようだ。
「ユグドラさんの場合は初心者なのですが、E・D・Dを壊滅させた実績もありますので、果たしてどれが丁度いい依頼なのか分からないんです」
「そっか、じゃあE・D・Dより賞金の高いやつはいますか?」
「いるにはいますが、アジトの場所が分からないので長期間の任務になりますが、いいですか?」
「それは難しいな……じゃあ昨日の護衛よりも難易度の高い依頼は?」
「それですと大手商会の護衛任務があります。もう少ししたら出発なので急いだほうがいいですよ」
「わっかりました! じゃあ今すぐ行ってきます!」
待ち合わせ場所に着くと大きな荷馬車が十台以上、冒険者らしいメンバーが二十人以上いた。
なるほど、これは昨日受けた午後の部の護衛とは規模が違うな。
依頼主らしい商人に話をすると、今回護衛をする冒険者のリーダーに紹介された。
「ん? ひょっとしてお前はE・D・Dを壊滅させた新人か?」
俺よりも随分と背が高く筋肉質、スキンヘッドの男だ。腰に下げられた剣は標準品、チェインメイルも標準品だ。
ちなみにこの街の鍛冶屋で手に入る物は、九割が低品質で標準品質は一割しかない。つまりこの冒険者の装備はかなり良い部類に入る。
「壊滅させたのは他にも四人居たからですが、一応私も居ました」
「ははは、冒険者の癖に腰が低いな! もっと自信を持て自信を!」
バンバン背中を叩かれて少し前によろけてしまったが、他の冒険者にも紹介してくれたし皆いい人たちだった。この世界の冒険者はいい人が多くて助かる。
荷馬車には冒険者が二~三人乗り、先頭と中央、最後尾の馬車には腕の立つ冒険者が配置された。俺は中央の馬車に乗り、熟練冒険者の庇護下でヌクヌクと街へ向かう事になった。
予想通りというか何というか、E・D・Dの事を沢山聞かれた。どうやらこの熟練冒険者(スキンヘッドリーダーほど筋肉質ではないが、もみ上げからアゴまで短いヒゲがつながっている)はE・D・Dを狙っていたらしく、この街道の護衛を繰り返し受けていたそうだ。
その他にも色々と話を聞いた。モンスターも朝は腹が減るらしく、午前中は活動が活発になり、昼から夜は寝ている。夜は夜で夜行性のモンスターが活動するので、昼間に行動するのが一番安全らしい。
ただし人間はその限りではない。E・D・Dの様に時間に関係なく襲ってくる。
「人間が一番こえーよ、ホント」
いやーホント人間は怖いですよね~などと言っていたが、嘘ですごめんなさい。目の前に広がる光景を目の当たりにしたら、やっぱりモンスターが怖いです。
遠くからゆっくりゆっくりと近づく無数の人影に囲まれ、気が付いた時には三百六十度ゾンビとスケルトンに囲まれていた。
正確な数なんて分からないが、例えるなら野球場のグラウンドと客席が満杯になるくらいのアンデッドの中心に俺達がいる? 様な状態? かな。
一匹一匹は弱いけど、これだけの数に囲まれては絶望しか見えない。アンデッドの仲間入りなんて御免だ。
そう、俺はメインヒロインに巡り合わずして死ぬつもりなど毛頭ない!
冒険者が荷馬車を囲むように円陣を組む。とにかく切って切って切りまくろう。
一時間ほどが経過しただろうか。流石に熟練冒険者だけあってまだ誰も脱落しておらず、荷馬車も襲われていない。
しかしスタミナが持たない。一時間でスタミナ切れしたわけでは無いようだが、どれだけ戦ってもゾンビが減っているようには見えない。
実際には減っているはずだ。なのだが元々の数が多すぎる。延々とアンデッドの相手をしなくてはいけないのかと不安になり弱気にもなるだろう。
このままでは埒があかない。クソッ、せめて魔法キャラだったら範囲魔法で一網打尽にできるのに。
俺のアカウントにあった他のキャラはどうなってるんだ?せめて全キャラの能力を一人にまとめてくれればゾンビくらい簡単に倒せるのに!
何か手持ちの道具で役立つものが無いか探していたが、今まで無かったはずの表示が追加されていた。
キャラクターチェンジ
これは……そういう事なのか? もしそうなら魔法キャラに変更して範囲魔法を使えば、低級アンデッド程度簡単に倒せる。
人差し指で文字を触ると六つの名前が表示される。
一つは今の俺であるユウ、そしてその下にルリ子と書かれている。魔法使いだ。
だがどうする? ここでキャラが変わったら俺が怪しまれやしないか?
なら小芝居をうつことにしよう。
「ああ! あそこに味方がいるぞ! 俺が行って呼んでくるからもう少し辛抱してくれー!」
そのままゾンビの大群の中に単身飛び込んでいく。まあゾンビの攻撃なんてダメージ通らないから実は一人なら何とかなる。
しかし今は護衛対象や冒険者を守らなくてはいけない。
よし、ここまで来たら大丈夫、俺の姿が見えないだろう。
上手くいってくれよ! ルリ子の文字をクリックした。
ユグドラ― ― ― →ルリ子
体が光る。段々と俺ではない姿に変わっていく。そう、やっとアタシの出番かい?