47.あ、ブラスティーがいる。ふんっだ。ふーんだ!
軍との合同依頼のためエル・ド・ランへ向かうユグドラとアセリア。
駐屯地に集まった沢山の冒険者に驚きながらも、人気者のアセリアとボッチのユグドラ。
そんな時、現れた軍の一人に剣を渡されて、いきなり決闘を申し込まれる。
使えない剣での決闘を。
「ちょっと待って! 私は斧をつか」
「行くぞ!」
問答無用で襲い掛かってくる黒い騎士。あ、見覚えがあるはずだ、ブラスティーとそっくりな黒い鎧だ。という事はこの人はブラスティーの部下なのか?
とのんびり考えている暇はなく、俺はひたすら剣で斬られまくっている。
模造刀でなきゃ死んでたね。
「うわ、ちょっと、イテ! まって」
「そら見ろ! やはり卑怯な手を使ったんだな!これが貴様の実力だ!」
そしてタメを作ってフェンシングの様な突きの構えを取った。
「貫きの型!」
剣で捌こうとしたが想像以上に剣は早く、俺の剣は空を切って胸に剣を受けた。防御出来ないと言っても鎧があるからそれほどダメージは……体を貫かれる痛みが走る。え? まさか防御無視攻撃なのか!?
直撃した剣に弾き飛ばされて無様に地面を転がった。
なんだこいつ、ブラスティー程じゃないけどかなりのダメージが入った。
咳をしたいのに息が苦しくてできない。四つん這いになって無様にヨダレを垂らしている。
「ふん、お前のような奴は必要ない、さっさと帰るがいい。他の者は集会場に集まれ!」
そう言い捨てて行ってしまった。なんでだ、なんでこんな事されなきゃならないんだ?
まさかブラスティーの奴が仕向けたのか? 仕返しか? 仕返しを他の奴に、部下か何かにやらせたのか? それとも単純に俺が嫌われてるのか? そりゃ知り合いも少ないけど。
体の痛さもプラスされてマイナス思考になっていく。
「ユーさん大丈夫? ヒールかけるね」
「ありがと。でももういい、帰る」
半分泣いてると思う俺。いや泣いてるか。
「アホか、お前が来なくてどうする。ほら立て、わざわざ相手のルールに合わせなくても斧を使えばいいのに、お前は変なところで真面目だな」
アズベルに手を引っ張られて立ち上がる。リアはヒールと服に付いた埃を掃ってくれている。
「だって、剣でって言われたし」
「向こうは問答無用で仕掛けてきたんだ、こっちだって問答無用で斧を使えよ」
「……次はそうする」
涙を拭いて集会場に行くとすでに全員が集まっていて、俺達、いやアズベルとリアを待っている状態だった。
集会場の正面には黒い鎧を着た軍が座っており、向かい合う形で冒険者が座っている。
よく見ると軍の一番前にはブラスティーが座っている。
「よし、全員揃ったようなのでミーティングを始める。今回の合同調査を統括するブラスティーだ。冒険者側からも代表を一人出してもらう、誰かいないか」
冒険者の数名が立ち上がった。ブラスティーが指名した順番に名乗っていくが、どうやら全員却下された様だ。
「後ろに座っている二人、なぜ立たない」
俺とアズベルを指さしている。アズベルは分かるけどなんで俺なんだ?
「問答無用で仕掛けてくる奴らとは話したくありませーん」
ああ格好悪い。俺超かっこわるい。こんな事やってたらリアに嫌われてしまうんじゃないかと後悔したけど、リアも怒ってた。
「いきなり襲い掛かってくるなんて卑怯者のする事です!」
「俺も親友がいきなり襲われて、はいそうですかと言う事を聞けるほど大人じゃないんでね」
今度は別の意味で涙が出そうになった。
怪訝そうな顔をするブラスティー。どうやらこいつは関わっていない様だ。
「貴様ら何を言っている! 剣を渡して正々堂々と戦ったではないか! いまさら負け惜しみとは見苦しいぞ!」
どうやら俺を襲った騎士の言葉で、ブラスティーも理解したらしい。
「負けて拗ねたのか。もっと大人になれよお前たち」
「拗ねて悪いか。代表はやりたい奴がやればいいだろ」
「最低限の条件はクリアしてもらわないと、代表になっても冒険者達が危険な目に合うだけだぞ。そんな事は言わなくても分かっているだろう」
分かっている。分かっているから俺では無理なのも分かっている。だからアズベルが一番いいのだが、アズベルも俺と一緒に拗ねている。
「はぁ、まあ分かっていない者も居るようだから言っておこう。ひとつ、十人以上の合同パーティーでリーダー経験がある者。これはさっき立候補した者は問題ない。ふたつ、討伐などで対象の正体が分からない依頼を達成した者。これは四人しか当てはまらない。みっつ、不測の事態に対して冷静で、指揮系統が入れ替わっても対応できる者。二人しか該当しない。お前たち二人は全てクリアしているんだ」
条件はわかったが、ひょっとしてブラスティーはここに居る冒険者全員の経歴を知っているのか? そうでなければ名前だけで条件をクリアしているかなんて分からない。
「俺は十人以上の合同パーティーのリーダー経験はないぞ?」
「オーガ討伐の時は五十人ほど居たはずだ」
「え? あれもリーダーに入るのか?」
「お前の指揮で難を逃れたんだ、十分。もちろんアズベルも指揮がユグドラに替わっても問題なく対応できていた」
アズベルはその後のネイル・ライオン討伐の時には百人の部隊を指揮している。アズベルなら問題ないのは俺でも理解できる。
「じゃあアズベルたのむよ。俺は冒険者との繋がりが薄いからな。遊撃ならいいが直接の指揮は無理だ」
「ヘイヘイ、そうなると思ってたよ。そのかわりお前が副官でいいかい?」
「ん、いいよ」
「話しがまとまったな。よし、ではこっちへ来てくれ」
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次回は、大量の冒険者が移動を開始し、それぞれの目的地へと向かう途中、それを狙うモンスター軍団との戦いが始まります。
次の更新は水曜日の予定です。




