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3.強盗団E・D・D


 馬車を降りて前に行くと盗賊らしき男が十人ほどいた。恐らく他にも隠れている盗賊がいるはずだ。きっと木の上で弓を構えているはずさ。これもお決まりだ。


「お前たちのような賊に渡すものなど何もない! 大人しく引き下がるならよし、さもなくば痛い目を見るぞ!」


 冒険者のリーダーらしき人物が剣を抜いて盗賊に言い放つ。

 ああ定型文。


 つまり定型文通りならばこれで引き下がるはずもなく、次に訪れる定型文は状況によって変わってくる。

 1、実は四人の冒険者は超強くて軽く盗賊を撃退する。

 2、盗賊は高額の賞金首で俺達を皆殺しにしてさらに賞金が上がる。

 3、通りすがりの勇者様が助けてくれる。


 お願いだから1か3であってください冒険者様。という願いも空しく、やはりこの依頼を受けたのは初心者だった。

 人数でも腕でも場数でも負けており、四人とも手も足もでない。俺はというと、剣の扱い方が分からずに護衛対象の商人並みに役立っていない。


「へっへっへ、やっぱりこの時間の馬車を襲って正解だぜ。護衛なんてあって無いのと同じだ!」


「お頭ぁ! あのピエロもどき貰ってもいいですかい?」


 一人のモヒカン盗賊が俺を指さし、首領らしき人物に話しかけている。


「かまわねぇが、お前そっちの趣味があったのか?」


「違いますよ、わざわざ金払ってサーカス見に行ったのに、ピエロがとんでもなくつまらなかったから腹いせでさぁ」


 とんだとばっちりだ!


「なら好きにしろ。あのピエロはオレも嫌いだ」


 他の人を不幸にするなよピエロ!


「へっへっへ、とりあえず下手なジャグリングが出来ない様に腕を……あん? ぷっ、くわっはっはっは! こいつ斧なんて持ってやがるぜ! 木こりちゃ~ん、あの世で思う存分木をきっ」


 木こりちゃ~ん、あたりでキレた。

 モヒカン盗賊が縦に真っ二つになった。いや斧で真っ二つにしてやった。ついでに青いローブも着てやった。


「なんなんだよこの世界は……俺は斧が好きだしピエロでもない! このシグナルスタイルも俺がオリジナルだ!!」


 剣を盗賊に向けて投げ捨てて一人二人と順番に斧で切り殺す。


「な、なんだこいつギャッ」


 多分今切った奴は剣でガードしたつもりだったろうが、剣ごと切ってやった。

 全員が俺に襲い掛かってきたが、距離がバラバラなため近いやつから順番に倒していく。

 そして予想通り矢が飛んで来た。真後ろから一本、左から二本、三人潜んでいたのか。だが巨大な斧は盾にも使える、三本とも斧で弾いた。


 完全に頭に血が昇っていたせいか何人盗賊を倒したか覚えていない、とりあえず目の前に立っている盗賊の姿は無くなった。なので矢を撃ってきた三人を始末しようと振り向くと、慌てて木から降りて逃げようとしていた。


 かなり離れていたので瞬間移動をして真後ろに居た一人を、もう一度瞬間移動をして二人を斬った。

 最初のモヒカン盗賊を斬ってから十分も経っていないだろうか、他に気配がないようなので盗賊の鎮圧を完了した。


「斧は強いんだぞ……バカにすんなよ」


 初陣を勝利で飾った時の決めゼリフを考えてあったのだが、いまは本当に素直な感情が出てしまった。


「す、すげぇ……あんたなにもんだよ」


 冒険者のリーダーが最初に声をだした。

 それからは商人も含めて質問攻めだ。


「一瞬で離れた場所に行ったように見えたけどあれはなんですか!」


「あ、あれはアイテムに瞬間移動の魔法が掛かってて」


「でっかい斧を片手で振り回してたけどひょっとして軽いのかアレ!」


「えと、持ってみます?」


 手渡すと肩が抜けそうな勢いで地面に落とした。


「名のある冒険者なんだろう?本名を教えてくれよ!」


「いや本当にユグドラっていうんですけど」


「じゃあ百戦錬磨の傭兵か!?」


「今日が初陣です」


 その後も馬車の中で質問攻めにあった。嬉しさもあったがゲームのスキルやステータスが役に立った事に一番安堵していた。

 必殺技も無い、ただ斧の扱いがうまく、戦い方を考える力がある。そういったスキルはきちんと機能していたという事は、プレイヤーによってさらに強くなることが出来るからだ。

 この世界の戦いに慣れる。それが死なないための近道なのかもしれない。


 そろそろ目的の街が見えてきたころ、寝ていた冒険者リーダーがうめき声をあげた。

 他の三人はかすり傷程度だが、リーダーは深手を負ってしまったのだ。


 三人が応急処置をしたが容態はよくない。あれ、そういえば俺治療のスキルもってるな。

 ゲームでは包帯を巻くだけだったが、ここではどうなんだろう。バッグの中を探してみると見慣れないアイテムがあった。


 治療セット。まんまな名前だが、使い方はどうするんだ? ゲームではアイテムをダブルクリックしてカーソルを治療対象に左クリックだったけど……。

 とりあえず治療セットをダブルクリックした。対象を選択してくださいと表示がでて右手に丸いカーソルがくっついてきたからリーダーの傷口に手を当てた。

 すると二秒からカウントダウンが始まり0になって治療が終わったらしい。見た目では……リーダーの顔色が良くなっている。


「なんだ、なにをしたんだ? 全然痛くなくなったぞ」


 リーダーは何があったのか理解できず、傷口があった付近をなでている。まだ乾いていない血をふき取ると完全に傷口が無くなっていた。塞がっているわけではなく、傷そのものが無くなっていた。


「あなたは医療の心得もあったのね。ありがとう、本当にありがとう」


 そういって女性冒険者は涙を流しながらリーダーに抱き付いている。

 ちょっと可愛いなと思っていたけど、リア充爆発しろ。

 あ、治療セットが百十個から百九個になってた。一個の消費で済むのか。


 街に到着し、護衛依頼の紙に商人のサインをもらって四人の冒険者と一緒にギルドへ向かった。

 ついでに途中で倒した盗賊の身元が分かる様に生首を二つ持っている。ひょっとしたら賞金が掛かっているかもしれないらしい。


「これはE・D・Dの首領ではありませんか!」


 こっちの街のギルドで護衛完了の報告をした後で盗賊の首領とモヒカンの首を見せると、受付の女性にとてつもなく驚かれた。

 ちなみに腰まである金髪でかわいらしい系の女の子だ。衣装は前の街の受付と同じだった。ギルドの制服なのかな?


 モヒカンは首の付け根から股まで真っ二つにしたので首が残っていてよかった。

 どうやらここらでは有名な盗賊団らしく、アジトをころころ変えるために足取りが掴めなかったのだとか。

 十~十三人ほど倒したと言ったら


「それって壊滅したんじゃぁ……」


 そういって受付の子はどこかに連絡を始めると、別の受付の男性に盗賊を倒した正確な場所を聞かれた。俺には分からなかったから、一緒に居た冒険者が答えてくれた。

 しばらく待っていてくれと言われギルド内でお茶していると、受付が騒がしくなってきた。

 なにやら荷物が運び込まれているようだが、箱が沢山あるな……備品の搬入か?


「ユグドラさんと四人の冒険者さん、二階に来てください」


 そう女性に言われて二階へと案内された。

 案内された部屋に入ると中には白いあごひげの小さい爺さんが机の向こうで椅子に座り、その横に革鎧を着たごついおっさんが立っていた。


「君たちがE・D・Dを壊滅させた冒険者ですか」


 俺達がソファーに座ると同時に革鎧のおっさんが聞いてきた。


「私達が、ではなくユグドラさんが、ですね」


 リーダーの返答に三人はウンウンとうなずいている。


「ユグドラ君、君はついさっきギルドに登録したばかりじゃが、今までは何をやっていたのじゃ?」


 あごひげ爺さんがひげを撫でながら聞いてきた。

 ただの流れの旅人ですよ。あちこちでトラブルに巻き込まれましたがね、クックック。

 という答えを用意していたのだが、いざ言おうとすると恥ずかしくてとても言えない。


「あの、ただの旅人です。田舎では木こりをしていました」


 うわー!木こりって認めちゃったよ俺!


「ふむ、ピエロではないのか」


 くたばれクソジジイ。


「君が瞬間移動をしたと商人が言っておったのじゃが本当かね?」


 ああ商人にも話を聞いたのか。なんだか随分と大ごとになってしまったな。適当に誤魔化しておいた方が良かったかな。


「はい、この指輪に瞬間移動の魔法が掛けられています。あと一~二回で使えなくなりますが」


 多用はできない事をアピールしておこう。本当はバッグに沢山入っているけど。


「見せてもらってもいいかな」


「指から外さない状態でなら、どうぞ」


 ジジイとオッサンは差し出した俺の左手の指輪を凝視している。こんなオッサンとジジイじゃなく受付の女の子に見つめられたい。


「これが……古文書に書いてあったテレポートリング……」


「まさか現存しているとは思いませんでした」


 古文書? えっと、マジでやばい代物だったのかな。ちなみにゲームでは程々のモンスターがドロップして、テレポート回数によって金額が変わるが一回百GPが相場だった。

 一番弱いゾンビを倒して十~二十GPドロップする事を考えると百GPが大したことない額だとわかる。


「その指輪、五千ゴールドで売ってはくれんか?」


「五千ゴールド!!」


 なぜか四人の冒険者が驚いた。ギルドに来る途中で宿一泊の値段を見てきたが、素泊まり四シルバーほどで、朝晩の飯付きで五~六シルバーだった。

 多分一シルバーが千円ほどで、武器屋で買った剣のお釣りで考えると一ゴールドは一万円だろう。

 つまり五千万円で売ってくれと言っているわけだ。高いのか安いのか分からない。古文書レベルはこれ位なのか?


「ダメかな」


「マスター、彼が悩むのも仕方ありません。モノがモノですから」


「すみませんが、これは祖父の形見でもありますので」


 はいでまかせです、売らない方がいいと判断しました! 金には多分困らないし、金を払えば古文書レベルが手に入ると思われたら困るからね。

 手持ちのアイテムがどれほどの価値があるのか分かるまでは売買禁止にしよう。

 できれば今日は護衛の金をもらって街を見て回りたい。できればマジックアイテムの価格を知りたい。


「ふむそうじゃな、すまんかった」


「では今日は護衛任務の報酬を渡そう」


 うし、どこを見て回ろうかな。


「E・D・Dを壊滅させた分の達成額と賞金首の分を上乗せし、少し色を付けておいた」


 そういえばそんな話もありましたねぇすっかり忘れてた。

 革鎧のおっさんは革袋を机の上に、重そうな音を立てて置いた。


「しめて五十ゴールドだ。これからも頼むよ」


 たしか護衛の任務が一人五シルバーだったはず、五十ゴールド? 五十万円?

 精々十ゴールド位かと思っていたが随分多いな。

 五人居るから一人十ゴールドでいいのかな。


「じゃあ五人で山分けして一人十ゴールドですね」


 そう提案すると四人は首を大きく横に振った。


「?」


「ユグドラさん流石に勘弁してくれ。俺たちは何もしてない上に怪我まで治してもらったんだぜ。護衛任務四人分の二ゴールドだけでいい」


 そういう物なのかな。でも女冒険者ちゃんはカワイイし道中も楽しかったんだよな~……よく見ると四人の鎧が少し傷んでるみたいだし修理代も必要だろう。


「じゃあ私の初任務成功のお祝いとして四十ゴールド貰っておきます。十ゴールドは受け取ってくれませんか」


「しかし……」


「道中で色々教えてもらいましたしね。情報料とでも思って下さい」


「ありがとう。俺達にできる事があったら何でも言ってくれ、すぐに手伝いに行くよ」


 そうして俺達は別れ、街の観光をする事にした。

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