22.オーパーツ
「無事、依頼完了しました」
「あらお疲れ様。じゃあ今報酬を渡すわね」
オネエから手渡しで報酬を受け取り、そのまま質問をした。
「いくつか聞きたい事があるんですが」
「どうぞ」
「しずかの噂ってどんな噂なんですか?」
まずはこれから聞かないといけない。
腕のいい鍛冶職人ってだけでこんなに偽物が出るはずがない。
「そうねぇ、私が聞いた噂だとと、てつもなく腕がいい」
うんうん、行列が出来るくらいだからね。
「騎士団員を倒すほど強い」
……ん? 転ばせただけなんだけど?
「生産系の技術全てに優れている」
まて、鍛冶以外は精々裁縫と大工の技術しか見せていないはずだ。
「ドラゴンを召喚する」
「はぁ!?」
「あん、何よいきなり大声出して」
「す、すみません」
どこからドラゴンが出てきたんだ?まさかゴーレムとドラゴンを勘違いした?? いやいや、何もかもが違いすぎるだろう。
情報を聞けば聞くほど混乱してきた。
じゃあルリ子の噂はどうなっているんだ。
「じゃあ次の質問ですが、ルリ子という魔法使」
いきなりオネエに口をおさえられ耳元でささやかれた。
「シッ! その名前はご法度よ」
一体どういう事になっているんだ。
オネエを無理やり二階の部屋に連れて行った。
リアにも付いてくるように言った。俺に関わる以上は知っていた方が良いだろう。
「ちょっと何よ強引ねぇ」
「ルリ子の噂はどんなものですか?」
「さぁ? ワタシには何の事だか」
「あなたは賢い人です。だから私が今から言う事がどれだけ大変な事か分かるはずです」
オネエが生唾を飲んだ。
「私とルリ子としずかは友人なんですよ」
オネエがソファーに座って頭を抱えている。
「ルリ子はギルドに登録していますよね?」
「しているわね」
「王宮から身柄の引き渡しを要求されませんでしたか?」
「されて……いるわね」
カマを掛けたがやっぱりそうか。ギルドはオープンだ、身内の恥を隠さない。
なのにあれだけ焦ったという事は、かなり上からの圧力があると思った。
「その話はどこまで知られていますか?」
「ギルドの職員は……全員しっているわ」
「冒険者には知られていないんですね?」
「言える訳ないじゃない。冒険者ギルドに所属している人が、王族から呼び出しされているなんて」
「しかし妙ですね、ルリ子は粗暴ではありますが悪人ではありません。それどころかアグレスの街を救ったとまで言われているはずです」
「それがいけなかったのよ」
「え?」
「あそこの田舎貴族、バカなくせに王族のお気に入りで、ルリ子ちゃんに屋敷を乗っ取られたって王族に話したのよ」
「乗っ取った? あいつが?」
「実際は違うわよ、住民を敷地内に避難させた時に、ルリ子ちゃんが召喚したドラゴンを見て逃げたのよ。でも逃げたなんて言うわけ無いじゃない? だから乗っ取られたって言いふらしたのよ」
「じゃあ逆恨みでルリ子を?」
「マツモンジ男爵はプライドだけは高いからね」
俺はてっきりドラゴンを危険視してルリ子を探しているのかと思ったら、貴族の下らないプライドの為だったのか……
「それと、しずかがドラゴンを召喚するというのはどこから?」
「多分だけど……ルリ子ちゃんと同じ魔法を使ったらしいから、ドラゴンも召喚するんじゃないかって」
魔法? しずかで魔法なんて使ったかな。あ。
「魔法って、まさかゲートですか?」
「ゲート? 青い楕円形の中からドラゴンや色んなものが出てきたらしいのよ」
一般には使われていないだけで、魔法使いなら使える魔法だと思っていたけど、ひょっとしたら移動魔法自体が存在しないのか?
もしそうだとしたら俺の認識が更に甘かったことになる。
ひょっとしなくても、俺の知識やアイテムがオーパーツになりかねない。
「ちなみに確認ですが、王都の魔法使いは移動系の魔法を使えますか?」
「移動……魔法? 重たい物を軽くするなら出来るはずよ」
各街に魔法ギルドが無い時点で魔法が遅れているのは分かっていたけど、有る所には有ると思っていた……でも初級魔法しか無いんじゃないか?
場合によっては俺が使える魔法ですら古文書レベルなのかもしれない。
「魔法の書とか……呪文の一覧表みたいな物はありますか?」
「ええ、確かこの棚に……これよ」
分厚い本を受け取りページをめくる。
ゲーム内ではルーン文字を組み合わせる事で力の言葉を作り、魔法が発動する。
この分厚い本に書かれている内容は薄い。
少なくとも、ゲームを始めて一日で使えるようになる魔法が最高位呪文になっている。
ゲートどころかリコールもライトニングも無い……ああそうか、今まで会った魔法使いが弱いんじゃない、ここまでしか知らないんだ。
俺は……俺達は完全に時代錯誤の遺物だ。
どのアイテムがヤバイとか魔法がマズイとかではなく、俺のすべてがダメなんだ。
そう考えたら納得できることが沢山ある。
アグレスの街が襲われたのも大型モンスターが沢山いるのも、俺の周辺でばかり起こっている。
つまり俺に差し向けられているんだ。他の人は巻き込まれただけだ!
でもなぜだ? 強キャラにペナルティーを課すシステムでも有るっていうのか? いやシステムならもっと正確に俺を狙ってくるはずだ、つまり人為的に狙われている?
仮に人為的なモノとして考えよう。いつ、俺に気が付いた?
E・D・D? いやただの盗賊だ。
ゾンビの群れ? 可能性はある。しかもドラゴンを見せたのも同じ日だ。
鍛冶で行列ができた? ありえる。
そうか、今から考えたら、しずかを連れて行こうとした田舎騎士は、先走ったのかもしれないな。
ああ……ほぼ初動で失敗していたのか、俺は。
情報収集をして、王都に情報が流れるように仕組んでいたつもりだったけど、実際にはこっちが観察されていた。
でも納得がいかない。圧倒的な力を持つ者に対してやる事ではない。
少なくとも近い能力を持つものが必要だ。
……そういえばいたな、黒い鎧の騎士・ブラスティー。
あいつは俺と同じ転生者だろう。
あいつが手引きしているのなら俺よりも手際が良いか、俺より先にこの世界に来ていたか、両方か、だな。
「……さん」
しかし他の転生者に狙われたのか。
「ユー……」
可能性は考えていたけど、実際に居ると恐ろしいもんだな。
「ユーさん!」
「うわっ! え? リア?」
「大丈夫なの? 怖い顔して、顔色も悪いよ?」
「え? ああすまない。ちょっと考え込んでしまって……」
「どうやらアナタ達は色々と事情があるみたいね」
「そうですね、思っていた以上に面倒な事になりそうです」
「でも何とかなりそうなんでしょ?」
「何とかするしかありませんね。考えるのが嫌になるくらいに大変ですが」
「あら? まるで相手が分かっているような言い方ね」
「まだ仮定ですが、集団……いや個人ですか」
「個人!? アナタどこまで分かっているの?」
「あくまで仮定ですよ」
「ワタシ達に出来る事があれば言ってちょうだい」
「ええ、その時はお願いします」
実際問題としてアイツが動いたらギルドでは対応できないだろう。
先手を打つにしても情報が少なすぎる。
今晩あたりにでも城に偵察に入ってみよう。
「ねえユーさん」
「なに?」
ギルドを出て暫く、ずっと考え事をしていたリアがやっと口を開いた。
「私は何かお手伝いできることない?」
「リアはいつも通りでいて欲しい。特別じゃない、当たり前の時間でいたいんだ」
「でも、それじゃあ私……」
「当たり前の時間、当たり前の場所だからこそ、必ず戻ってくるよ。それが当たり前だから」
「……うん、わかった」
そういってリアは俺の手を握った。
「じゃあいつも通りお昼を食べに行こ」
「そうだね、何を食べよっか。うわっ失礼」
リアの方を見ていたから前から人か来ているのに気づかず、ぶつかってしまった。
「いえ、こちらもよそ見をしていたので」
いかんいかん、ボーっとしてたらダメ……え?
「リア?リアどこ?」
たった今まで手を繋いでいたリアがいない。
「リア! リアー!」
人をかき分けて探したが見つからない。
何度も名前を呼ぶが返事が無い。どこだ!どこに居るんだ!
まさか、まさかこんなに早く相手が動いたのか? 後手後手に回っていると理解していながら更に後手に回ってしまった。
しかも一番してはいけないミスを!!!
焦りから汗が流れる。首筋の汗を拭うと、手に何かが当たった。
いつの間にか胸元に手紙が入っていた。ぶつかった時だろうか。
手紙にはリアを預かった事、そして今晩王宮の騎士団訓練施設に来るようにと書かれている。
どうやら相手は身分を隠すつもりが無いらしい。
ここまで全て相手のペースで進んでいる。それにしても手際が良すぎる、転生者ではないのか?
いや今はどちらでもいい。何としても相手を倒してリアを助けるんだ!




