19.誰?え、俺?
いい朝だ。
ベッドは温かいし天気もいいし小鳥の鳴き声もバッチリだ。
なにより隣でリアが俺を見つめて指で顔をツンツンしている。
「ユーさん」
「はーい」
「ユーさん」
「はーい」
これはラノベですらない!異世界に転生したつもりが実はエロゲの世界に転生していた件。
「何だこの無意味な時間はー、コチョコチョコチョ」
「きゃっ、ちょっとまってくすぐったいアハハハお腹ダメお腹はダメ~~」
リアの弱点見つけたり。
などとやっているとリアの腹が鳴った。
「ぐぅぐぅ」
「顔を真っ赤にして誤魔化そうとしても聞こえたからね?」
「女の子はお腹なんてなりません!」
「じゃあお腹空いてないの?」
「……すいてる」
「じゃあ食べに行こう」
「うん」
宿の小さな食堂で朝食を取り街で散歩をすることにした。
「これからどうしようか?王都に行ってみる?」
「ん~、王都に行くのはユーさんから逃げるためだったから、逃げる必要が無くなったら行く理由も無くなっちゃったし」
「じゃあこの街で暮らす?」
「観光には行ってみたいな、王都」
「じゃあしばらくは二人で色んな街に行ってみようか」
「うん、それ楽しそう」
この街、ジョザ・マルーザはエリクセンよりも少し大きな街だが貴族が住んでいない。
貴族の屋敷はあるが貴族はめったに来ることは無く、代理人が街を治めているとか。
そのせいか衛兵が少しだけダラケているように見える。
ん?そういえば黒い鎧の騎士は、どうして貴族も居ない街にいたんだろう。
どこかへ行く途中でこの街に寄ったのかな。
街には活気があり治安もいい。
俺達の痴話喧嘩が目立つくらいなので、スラムにでも行かない限りは危険は無いだろう。
何件か店を見て回ったが武器や防具の出来はあまり良くない。
エリクセンやアグレスとも変わらない出来栄えだ。
店を数軒回り観光名所らしい所を歩いて回り、名物といわれるものを食べ、夜には二人で一緒のベッドで眠る。
明日の朝は馬車で王都へ向かおう。
ベッドで横になって思い出す。
あの黒い鎧の騎士、ブラスティーといったか。あいつが使った技はこの世界の物ではない。
俺はあの技を知っている。
ウィズダム・オンライン、通称ウィズオン。
そのゲームの中で侍が使うスキル攻撃だ。
俺も数年前までやっていて、当時クリアできるダンジョンはすべてクリアしている。
ウィズオンだとすると一対一の勝負は不利だ。
防御無視の攻撃や範囲攻撃、攻撃力アップスキルの重ね掛けなどで、対人戦では攻撃力に差があり過ぎて勝負にならない。
俺が底上げするにしてもSTRポーションと、魔法のブレスで数秒間一~二割程度上げるのがやっとだ。
魔法スキルは高いが魔法の効果や威力を上げるスキルは0なので、回復魔法と移動魔法のために魔法スキルを上げただけだ。
対策が出来るまで会わないことを祈るしかない。
横で寝ているリアを見る。
リアの前であんな姿を見せるわけにはいかない。
もっと強くならないと。
朝になり王都行の荷馬車に乗る。
王都へは四~五日かかるので食料はどうするのかと思ったが、寝食は馬車を持っている商会が用意してくれるようだ。助かる。
王都行の馬車は流石に数が多く、三十~四十台はあるだろうか。
護衛する冒険者の数も大変な人数がいる。
出発して間もなく、一台の馬車の車輪が壊れてしまった。
どうやら車輪を固定する金具が壊れてしまったらしい。
こういう時しずかでいたら便利だけど、これだけ大きな集団なら修理できる人を雇っているだろう。
と思っていたが誰も居ないらしい、マジかよ。
「私が修理します」
声がする方を見ると、茶色を基調とした服装でピンクのベレー帽、革の手袋を付けた女性が壊れた馬車を見ている。
あれ?どこかで見た事あるな。
「こう見えても修理は得意なんです」
何やら商人とやり取りをして、バッグから金属板を取り出して金槌で形を整え、車軸を修理したようだ。
「これで完了です」
「おお、ありがとうございます。お客さんがいてくれて助かりました。お名前をお聞きしても?」
「私はしずかといいます」
……は?




