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18.リアを訪ねて馬で二日

 エリクセンに到着しギルドへ報告に向かう。


 ギルドマスターと話しをして足跡・足の大きさなどから、街道で見つかった足跡はネイル・ライオンで間違いないだろうと結論が出た。

 報酬は山分けだが、国からも資金が出ているので結構な額になる。


 さて、アニタさんにリアの様子を聞こう。流石に釈放されているはずだからな。


「アセリアさんはジョザ・マルーザへ向かっています。皆さんが出発した日の昼に釈放されたので、まだ道中だと思います」


 あー当日に釈放されたのか。なんてタイミングの悪い。


「ところでジョザ・マルーザってどこですか?」


「エル・ド・ランとは別のルートで王都へと繋がる街です。湖に行く途中で道が分かれていた先ですね」


 そういえば分かれ道があったな。エル・ド・ランの近くには山があるらしいから、湖と山を迂回して王都へ向かう道かな。


「ジョザ・マルーザへは馬車で何日ですか?」


「四日~五日です。今から追いかけてもすでに街へ入っているでしょう。冒険者に追跡をさせていますから、居場所は直ぐにわかると思います」


「流石アニタさん。出来る女は違いますね」


「もっと褒めてもいいですよ。とはいえお願いしたのはこちらですし、今回もユグドラさんがいないと危なかったらしいですから。これ位はね?」


「では早速行ってきます」


「お気をつけて」



 

 食料だけ買い足してリアの後を追う。

 すでに昼を回っているので、二泊はしないとダメかもしれないな。

 途中何回かモンスターに襲われたが特に問題なく、二日後の朝早くにジョザ・マルーザへと到着した。

 エリクセンと同じか少し大きい街だ。外壁もしっかりしている。


 ギルドへ向かい受付嬢に自己紹介をすると、早速リアの情報を教えてくれた。


「現在アセリアさんは王都へ向かう準備をしています。馬車乗り場で待っていれば会えるでしょう。案内をさせます」


 案内をする冒険者に付いて行くと、馬車乗り場は沢山の荷馬車と沢山の人でごった返していた。

 まだリアは来ていないようなので、路地に姿を隠して待つことにした。


 暫く待つとどこかからか合図が鳴ったらしい。

 どうやらもう一人冒険者がいてリアを追跡しているらしく、冒険者同士でしか分からない合図があったんだとか。


 案内人が指を差した先を見ると……リア……ああやっと会えた。一番最初に出会った時の服装だ。

 居ても立ってもいられず、人ごみをかき分けて走り出す。


「リア!」


 後ろから声を掛けるとリアは立ち止まり、ゆっくりこちらを振り向いた。


「ユー……さん」


 リア、リア。近づいて抱きしめようとするが、顔を見て手が止まる。


「どうして……そんな表情をするの?」


 怯えている訳ではないだろうが、戸惑っている。なぜだ?そうかまだ気にしているのか。


「リア大丈夫だ、俺は怪我なんてしていない。それよりリアの傷の方が」


「来ないでください!」


 そういって走り出してしまった。


「り、リア!?」


 慌てて後を追いかけるが、人が多すぎて中々進めない。

 しかしリアも同じで、走ろうにも走れないため距離は離れはしなかった。


「まって!リア!リアー!」


「追いかけてこないでください!」


 どうして、なんで?やっと会えたのに、やっと笑顔を見れると思ったのに!


「まって、話しを聞いて!リア!リうわっ!」


 やっと人ごみを抜けた時、一人の男の足に引っかかり転んでしまった。


「すみません、急いでいるものでグアッ!」


 起き上がろうとすると蹴り飛ばされて、数メートル吹き飛ばされ壁に激突してしまった。

 なんだ!? いったい……なんなんだ?


「おいストーカー」


 急いで立ち上がると、リアも何事かとこちらを見ている。

 よかった、見失わないですんだ。

 目の前に黒い鎧を着こんだ男が現れた。こいつが俺を蹴ったのか?なぜだ?


「おいと言っている! 返事くらいしたらどうなんだ!!!」


 今度は殴り掛かってきた!なんとかかわして壁際から逃れたものの、すぐさま蹴りが放たれた。

 腕でガードして相手を見るが、見た事のない男だ。

 ひょっとしてどこかで恨みを買ったのかと思ったが、本当に、全く知らない奴だ。


「誰だ、お前は」


「俺はブラスティー。少女を追い回す悪漢め、騎士団の名において成敗してくれる!」


「悪漢……? 俺の事か!?」


「お前以外に誰がいる。朝っぱらから盛りの付いた犬め、牢屋に入れてやるから大人しくしていろ!」


「いやちょっと待て、俺とリアはふう」


 ブラスティーとかいう男は,大剣を抜いて斬りかかってきた。

 いやだから待てって言ってるのに聞けよこいつ!


 なんとか剣をかわしているが、とてつもなく鋭い。

 騎士団っていうのはこんなに強いのか!? 冒険者とは違いすぎるぞ!


「くっやるな、それならこれでどうだ!」


 タメを作り、掛け声とともに突進してきた。


一閃(いっせん)鋭岩断気(えいがんだんき)!」


 1秒にも満たない間に、複数回の攻撃を仕掛けてくる。まさか攻撃スキルか!?


 防御したものの(いく)つかまともに攻撃を食らい、口から血を吐いて膝を付く。

 マズい!次の攻撃が来たらやられる!ポーションとヒールを……


 黒い具足が視界に入る。

 こんな所で……理由も分からず殺されるのか?せめてリアに……リアに……


「やめてください!」


 俺の頭が温かく包まれた。


「もうやめてください……私が……この人は私の夫です」


 リ……ア……?


「夫だと?ならなぜ逃げていた!」


「喧嘩を……したんです」


「私にはただの喧嘩には見えなかったがな」


「こんな事をしなくてもっ、この人は何もしていないのに!」


 リアが俺をかばってくれているのか?


「そうだよなぁ、いきなり斬りかかるのはやりすぎだよな」


 どうやら野次馬が騒いでいるようだ。


「このあんちゃんは剣も抜いてないのに、一方的だもんな~」


「最近の騎士団は横暴すぎじゃないか?」


 どうやら騎士団は人気がない様だ。


「クッ、紛らわしいことをするな!」


 そういって視界から黒い具足が見えなくなった。

 だがその後で“俺に恥をかかせやがって”という言葉を歯ぎしりしながら呟いたことに、俺は気が付かなかった。


 目が覚めたのは日が沈んでからだった。

 ベッドで寝ていた俺が目を覚ますと、椅子に座ったリアが泣きながら、手を握りしめているのがわかった。


「リア、どうしたの、悲しいことがあったの?」


 流石にダメージが残っているのか、あまり声が出ていない。


「ユーさん、よかった。ごめんなさい……私……私のせいでこんな事になってしまって」


 下を向いて顔が見えなくなってしまった。でも涙が絶え間なく落ちている。

 なんとか上半身を起こし、リアを抱きしめる。


「やっと捕まえた。ありがとう、夫って言ってくれて」


「ユーさん、ユーさん!」


 オレに抱き付いて大声で泣き出してしまった。俺も涙が流れてる。やっとリアと一緒に居られる喜びで。




 いつまで抱きしめ合っていただろうか。俺の腹が鳴ってやっと手が緩んだ。


「そういえば朝飯食べたっきりだ」


「私も」


「お店開いてるかな」


「大丈夫だと思う」


「じゃあ行こうか」


 宿の部屋を出る前に、まずは顔を洗った。

 二人とも目が真っ赤で、涙が乾いた跡が付いていたから。




 店はコレオプテールより一回り大きく、メニューも多いみたいだ。

 いくつか注文すると、ゆっくりと話しを始めた。


「王都に行くつもりだったの?」


「うん」


「どうして?」


「王都には私を知ってる人は居ないし、仕事もあると思ったから」


「俺が追いかけるとは思わなかった?」


「追いかけて来てほしい……と思ってた。でも、私はユーさんを……」


「殺す気なんて無かったんでしょ?」


「わかんない」


 リアの手を取って手のひらを見た。


「この傷、あの時のだね。痛かっただろうに」


 手のひらに真っ直ぐな傷跡がある。

 傷を指でいたわるようになぞると、食事が運ばれてきたので食べ始めた。


「痛いよりも、よかったって」


 やっと微笑んでくれた。


「ごはん、冷めないうちに食べないと店長に怒られちゃうね」


「そうだね」


 肩を寄せて二人一緒の時間だ。

 何日ぶりだろう、とっても久しぶりな感じがする。




 食事が終わり宿に戻ってきたら、突然リアが泣き始めた。


「ど、どうしたの!?」


 流石に突然すぎたので、ベッドに座らせて様子を見るしかできない。


「わたしっ! 私ユーさんを二回も殺す所だった……! もうあんな思いはしたく無いからって離れたのに!」


 二回……俺をナイフで傷つけた時と、黒い鎧の騎士に殺されそうになった時か?

 きっとリアは兄さんが死んだときの悲しみを、二度と味わいたくないからと俺から離れたんだろう。


「でも私は、心のどこかでユーさんが死ぬはずない、負けるはずがないって思ってて……でもそんなはずがなくて……」


 リアの手を握る。


「ユーさんは……ユーさんは優しくて、甘えたくなって、ずっと甘えっぱなしで、でも恩返しも何もできなくて」


「そんな事ないよ。俺はリアと居るととっても心が安らぐ。甘えてるのは俺の方だよ」


「でも、でも普通は許してくれないよ、あんな事したら」


「俺がリアのお兄さんを殺したのは事実だ、それは変わらない。だから俺がリアに謝らないといけないんだ」


 リアの手を離して頭を下げる。


「ごめんリア。許してほしいとは思わない、でも受け止めてほしいんだ。放っておいたら犠牲者が増えてしまう」


「大丈夫わかってる。お兄ちゃんは賞金が付くほどの悪党だったんだもん、きっと沢山人も殺してる。だからお礼をいわせて、罪を重ねる前に終わらせてくれてありがとう。そして、私の我儘(わがまま)につきあわせてしまって、ごめんなさい」


 リアは強い。家族を殺した人間にやさしい言葉をかけるなんてできない。なのに俺を受け入れてくれた。


「俺達さっきから謝ってばっかりだな」


「ほんと、最初から謝る事なんてしなきゃよかった」


「じゃあこの話しはこれでおしまい。次は楽しい話しをしよう」


「例えばどんな楽しい話し?」


「んー、実は俺嘘をついた」


「いきなり何!?」


「俺はリアと居ると心安らぐって言ったけど」


「違うの!?」


「今はすっごくドキドキしてる」


「……私も……だから……甘えさせて?」

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