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17.釘を打つのは大工さんだけでお願いします

 湖へ到着すると皆が臨戦態勢で待っていた。


「他の奴は引き返したと思う。とりあえずコレが襲ってきた奴だけど誰か知ってるか?」


 首を地面に降ろすと皆が群がってくる。


「額に角のあるライオンか、ネイル・ライオンだな」


「ネイル……釘か?」


「そうだ、勢いよく角で刺してそのまま木や岩に打ち付けるんだ。でかい釘で刺したみたいな傷跡からそう呼ばれている」


 想像しただけで痛そうだ。あの巨体でそんな事されたら釘の前に体が潰れてしまいそうだ。


「しかしネイル・ライオンだとしたら厄介だな。群れでの狩猟に慣れているし、夜目も利くから昼夜関係なく活動している。居場所の特定が難しいぞ」


 誰がどっちの街の冒険者か分からないけど、対策の議論は白熱している。

 見つけようにも見つからず、見つけたら見つけたで強敵だからどう戦うか……と話が終わらない。


 俺の感覚でいうと、今までで一番強かったのがオーガだけど、オーガとネイル・ライオンが戦えばオーガが勝つと思う。

 オーガが腕一本犠牲にして捕まえてしまえば力はオーガが上だろう。

 ただ低確率で角の刺さり場所が悪ければネイル・ライオンが勝つ。


 しかし人が戦う場合はそうもいかないだろう。

 オーガは囲めば勝てるがネイル・ライオンは素早いためそもそも囲めない。

 スピードに付いて行けなければ十人居ても勝てないだろう。


 真っ向勝負はできないな。


 議論は尽きないが結論が出ないので今日はお開きとなった。

 エル・ド・ランの冒険者は疲れているし休まないと明日からの捜索にも支障が出る。

 作戦を考えるのは明日に持ち越しだ。

 



 翌朝両方の街の冒険者が揃ったのでアズベルが軽く挨拶をした。

 どうやらそのままアズベルが総リーダーを務めるらしい。

 副リーダーはエル・ド・ランの冒険者が務める。


 俺は相変わらずのボッチ遊撃手だ。


 日が昇って改めてネイル・ライオンの首を見たけど、思ったほど首が太くない。

 俺が思っているライオンがそのまま大きくなった訳ではなく、細身なのかもしれない。


 そうなると更に素早く動けるんじゃないかな。結構な強敵じゃないかコレ。


「昨晩襲ってきたネイル・ライオンを今回の対象と仮定するが、他にもいる可能性があるから十分注意してほしい。なので今日は目標の捜索をメインに進める」


 方々に散って調べた結果、どうやら食糧不足なのではないか、という結論が出た。

 小動物なら居るが、少なくともネイル・ライオンの腹を満たす大きさではないため、森の奥から出てきたのではないか、と。


 なのでエサを使っておびき寄せる作戦が取られた。自分達、という最高のエサを使って。


 夜になり酒盛りを始めた俺達冒険者。

 持ってきた食料や狩りで手に入れた食材を惜しみなく使って食事がかなり豪華だ。

 料理の出来る冒険者って素晴らしい!


 深夜になり、はしゃぎ疲れて皆眠ってしまった。

 暫くすると木を叩く音がした。時間を置いてまた音がした。暫くしてもう一度。

 二回木を叩く音がして全員が起き上がり魔法使いが明かりの魔法を使い周囲を照らす。


 ネイル・ライオンの群れが二方向、十~二十メートルの距離にいた。


「行くぞ!」


 アズベルの号令とともに一斉に襲い掛かり二手に分かれて群れの包囲を開始した。

 ネイル・ライオンは不意打ちに失敗したので逃げると思ったが、こちらに襲い掛かってきた。


 それは好都合と言わんばかりに包囲網を完成させてもらおう。


 丸く囲むのではなく湖に追い込むように包囲する。

 弓や魔法攻撃で反対側を心配しなくてもいいので心置きなく打ちまくれる。


 ネイル・ライオンの動きは素早いので前衛で足止めをして、後方から矢と魔法で徐々に数を減らしていく作戦だ。


「その調子だ!包囲網を維持して撃ちまくれ!!!」


 油断はできないものの、継続的な攻撃によって合計二十頭以上いたネイル・ライオンの三分の一は倒しただろう。

 こうなると俺のやる事は少ない。

 後衛として怪我人の治療や爆弾を投げて大人しくしているしかない。


 しかしこちらの犠牲もバカにならない数になってきた。

 十名以上はやられている。前衛の応援に行った方が良い様だ。

 斧を構えて前に出ようとした瞬間、後方から三つ目の群れが現れたのだ。


「アズベル!後ろからネイル・ライオンの群れが来たぞ!」


「なんだと!?クソッ!いま包囲網を緩めるわけには……!」


 二つの包囲網はしっかり機能しているが余裕があるわけではない。

 冒険者を他に回す余裕などないのは見てわかる。


「俺が時間を稼ぐ、そっちは早めに終わらせてくれ!」


「たのむ!」


 と言ったはいいがネイル・ライオンは足が速い。

 何とか俺に集中してほしいんだが……ヘイトを集めるスキルがあればいいけど無いし、使えそうなアイテムは爆弾と毒か……よし、毒を全部投げつけて少しでも足を鈍らせてっと、後は速攻で終わらせるのみだ!!!


 ワザと大声を上げて突っ走る。

 少しでも俺に注意が向いてくれればそれでいい。


 先頭の数頭が角を向けて突っ込んできたが頭が低い位置にあるから丁度いい、頭を叩き割ってやった。

 三頭を倒している間に数頭が通り抜けようとしたので横っ腹に爆弾を投げつけて足を止める。


「俺を倒さずに先に進めると思うなよ!」


 後から思い出したけど、異世界に行ったら言うセリフリストに入っていた。

 脳内では何度も言っていたからスルっと出てきたのだろう。


 爆弾が当たったネイル・ライオンは直ぐには動けないようなので、元気な奴を相手にしよう。

 動ける奴は四頭。

 角はこっちには向けず牙をむいて威嚇してくる。


 一頭が噛みついてきたから後方に下がると、そこにもう一頭が張り手をするように爪で引っ掻きに来た。

 ジャンプでかわしたがさらにもう一頭が噛みに来た。

 何とか斧で受けたが宙に浮いていたので弾き飛ばされる。

 残りの一頭が角で突進をして、俺を地面に釘付けにしようとしたので転がって避けると、地面に角が刺さっていたから爆弾を投げつけた。


 顔面に爆弾を受けて頭が半分無くなったので、流石に動かなくなった。

 残り三頭。

 三頭に近づく途中で横っ腹に爆弾を受けた奴が生きていたから首を落とした。


 間合いを詰めて中央の一頭に斧で攻撃するが下がって避けられた。

 なのでそのまま地面に斧を叩きつけ、土で目くらましをする。

 斧を叩きつけた勢いのまま一回転ジャンプして着地しながら胴体を半分にした。


 残り二頭。


 こうなったら何も考える必要はない。

 真正面の一頭に突っ込み、攻撃してきた前足と口を斬る。

 前足と口を斬った奴は動きが遅くなったので斧で頭を破壊し、最後の1頭は踏みつぶそうとしてきたので単純に避けて喉元を斬った。


 頭上から血を浴びてしまって全身が真っ赤だ。

 とりあえず爆弾で動けなくなった奴が生きていたからとどめを刺し、みんなの応援に向かおう。

 ふぅ、何とかなったな。


 2つの包囲網でネイル・ライオンは残り数頭になっていた。

 これなら前衛の応援も必要ないだろう。また回復役だ。


 ネイル・ライオンを全滅させた。だが二十名以上もの犠牲者をだしてしまった。敵の数が最終的に四十頭近くも居たからだが、予想より被害が大きかったのも事実だ。


「あれは人との相性が悪い。同じ数ならオーガの方が戦いやすいな」


 血が出そうなくらい歯を食いしばるアズベルに気休め程度の声をかけた。


「そう……だな。それにしても助かった、お前がいなければ後ろから来た奴らに全滅させられたかもしれん」


「包囲したつもりが挟撃されるわけだからな」


「俺の采配のお陰だな!」


「俺が強いお陰だな」


 なんとか減らず口を叩けるようになったな。

 最終的な被害や敵の数は夜が明けないと分からない。だが今はゆっくり休むとしよう。


 


 朝になりネイル・ライオンの死体を一か所に集めた所、死体は四十二あった。一方で冒険者の犠牲者は二十三名。九十名ほど居たから四分の一以上の犠牲が出てしまった。


 冒険者の遺体とネイル・ライオンの死体をそれぞれの街へ運ぶ部隊と、しばらく警戒する部隊に分かれた。


 ネイル・ライオンの群れが大きかったので他のモンスターの群れがいるとは思わないが、一応警戒をするそうだ。


 ここは人間のテリトリーだとしっかりアピールする為でもある。

 少しの時間だけど街道を行ったり来たりして安全を確認して街へ戻る事にした。


「なあユグドラ。お前はプロポーズの言葉な何だったんだ?」


 気の緩んだ帰り道でアズベルが聞いてきた。


「突然なんだ?」


「いやな、アニタが気になるって言ってるんだよ。なんて言ったんだ?」


 アニタさんか……アズベルのプロポーズを漫才みたいにしていたけど、やっぱり気になるモノなのか?


「ククルの実を毎年一緒に食べたいって言ったんだ」


「なんだよド定番じゃないか」


「定番だったのか?」


「で、アセリアちゃんは何て?」


「ずっと一緒に食べましょう、って」


「かぁ~~~!いいねぇ若い奴らはよぅ!」


「大して歳変わらないだろう?」


「俺は三十手前だしアニタは二十三だ。もうギリギリだぜ?」


 この世界の結婚適齢期は早い様だ。二十三でギリギリなんて言ったら……日本だと叩かれてしまう。


「アセリアちゃんはいくつなんだ?」


「さあ?十代だと思うけど」


「なんだよ歳も知らずにプロポーズしたのかよ」


「可愛かったし」


「ケッ!このバカップルが!」


「もっと言って」


「バカバカ、バーカ!」


「バカじゃないバカップルだ!」

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