16.合同依頼。いやですから
伐採ギルドの前に到着した。
予想はしていたけどログハウスだ、しかも4階くらいまである。
ログハウスってこんなに高く作れるんだ~。
中に入り受付らしい場所へ行くと、予想に反して奇麗なお姉さんがいた。おっさんだらけだと思ってた。
打ち合わせをして、護衛対象の木こりさんと一緒に街を出て森へ向かう事になった。
自分で伐採しても構わないそうだ。
「それにしても兄ちゃん伐採ギルドにはいらねーのか?ウチのギルマスが期待して待ってるぞ?」
「確かに山で木こりをしていましたが、冒険者になりたくて降りてきましたから」
「別に登録するだけでも構わんぞ?特にノルマも義務も何も無いからな」
「そうなんですか?じゃあ戻ったら登録だけしますね」
「おう」
目的地の森に到着した。
伐採ギルドで管理している森らしく木や草が生い茂っていない奇麗な森だ。
木こりさんの伐木の手伝いをして休憩中に自分の伐木依頼をこなそう。
久しぶりにやったけど楽しかったのは内緒だ。
なにより驚いたのは直径70センチ程の太さの木を一振りで切ってしまった事だ。
倒す方向も何もあったモノじゃない危なすぎる。力加減が難しい。
今回はモンスターが出る事も無く無事に任務終了した。
たまにはこんな時も無いとね。
それから数日してもリアは釈放されなかった。
やはりE・D・Dの関係者じゃないかと疑われているのかもしれない。
すっかり詰め所の衛兵と仲良くなったある日の朝、またもや緊急の依頼が舞い込んできた。
ギルドで話しを聞くと王都方面にある街エル・ド・ランとの街道沿いで大量のモンスターの足跡が見つかったらしい。モンスターの姿自体は見ていないが、足跡から大型の四本足モンスター想定三十匹ほど。
現在両方の街合同で冒険者による討伐作戦が出ているので参加してほしい、と。
「アセリアさんの動向はしっかりと見ておきます。作戦に参加してください!」
アニタさんが頭を下げてお願いしてきた。アズベルも隣で頭を下げている。
「いや」
「そんな事をおっしゃらずに!」
「いやですから」
「そこを御再考願います!!!」
「いや、ですからね、そんな大変な事態なら頭を下げられなくても参加しますってば」
「あ、あれ?いいの?こちらから言っておいて何ですが本当にいいんですか?」
「はい、作戦に参加します」
「よかった~」
「な?俺の言ったとおりだろ?俺とコイツは親友だから分かるんだよ」
「それではアズベルさん、作戦の説明をお願いできますか?」
「あれ!?なんでいきなり丁寧になったんだ?俺達親友だよな?な?」
アズベルの声が聞こえない様に両手で耳を塞いで二階の部屋へと向かった。
エリクセンから参加する冒険者の数は五十名、エル・ド・ランからは三十~四十名らしい。
どうやらエリクセンの方が街の規模が大きいようだ。
前衛職や後衛職は使う武器が違い様々なスタイルの冒険者が揃っている。
エル・ド・ランからも同じように多様な冒険者が来るだろうから、自分の役割を見失わない様にしないと連携の取れない混成部隊はあっという間に混乱してしまう。
必要と思われる装備を各自そろえ、昼前にギルドに集合・出発する事となった。
俺は宿へ戻りしずかへキャラチェンジをしよう。
装備の整備とポーションを沢山作っておいた方が安全だろう。
えーっとしずかしずか……ポチっとな。
ユグドラ― ― ― →しずか
それにしても大型のモンスター三十匹ですか。中々の大規模作戦ですね。
武器は数種類持っていますから、防具の予備を観ておきましょう。
ポーションは時間の許す限り、ですね。
以前お邪魔した鍛冶屋さんで炉を借ります。
メイン装備は痛みが少ないので直ぐに完了しました。
予備の方は暫く使っていなかったのですが……錆は出ていませんし、それどころかホコリも付いていません。いわゆるバッグの中は時間が止まっているパターンでしょうか。
こちらは何もしなくて大丈夫ですね。では鍛冶屋さんをでましょう。
さて、後はポーションの材料を買って……ん!?メニューの錬金術製作項目に知らないモノが追加されています。
治療セット
驚きました、こちらに追加されていたんですね。
しかしこれは嬉しい誤算です。ポーションだけでなく治療セットが使えれば、生存率は飛躍的に高まります。
もしかしたら私の知らない物が製作できるようになっているかもしれませんね。
今度一通り確認しましょう。
早速必要な材料を確認して、宿で製作にかかりましょう。
治療セットを三百個作り、回復ポーションを四百個、解毒ポーション百個作りました。冒険者は最大で九十名程なので何とかなるでしょう。
回復系以外に作ったものとして爆弾ポーション五十個、毒ポーション五十個。
爆弾は汎用性があるので持っていれば使うでしょうし、毒はあれば使うかな?
ポーションの小瓶は回復は青、解毒はオレンジ色で真っ直ぐな小瓶。
爆弾は黒で丸い瓶。毒は紫の三角の瓶に入れました。
後は食事とテントでしょうか。何日かかるのか分かりませんし。
食事は残念ながら作れないので買うとして、テントを作りましょう。
大工仕事と裁縫仕事は久しぶりですね。
折り畳み式の二人が入れるくらいの防水加工をしたテントと、簡単な寝袋も作りましょう。
他には何か……まぁ何とかなるでしょう。
そろそろ昼が近いですね。キャラを変更してギルドへ向かうとしましょう。
ではユグドラに変わりましょう。
しずか― ― ― →ユグドラ
流石に荷物が多くないと不自然だから大きめのバッグをマントの下に斜めがけして向かった。
最近は斧を背中に隠す必要が無いから左腰にかけている。
ギルドには沢山の冒険者が集まっていた。
知らない人ばっかりだな、顔を見た事がある人は数名いるけど。
俺の後からもゾロゾロと冒険者が集まり、しばらくして誰も入って来なくなるとアズベルが前に出て全員に話し始めた。
「全員注目!俺はアズベルだ、今回の合同作戦エリクセン支部のリーダーを務める事になった!まずはエル・ド・ランとの中間地点である湖を目指す!そこでエル・ド・ランの冒険者と合流・捜索となる!どんな危険が待ち受けているか分からないが、諸君ならモンスターを討伐し無事に帰還できるはずだ!なーに今回は力強い助っ人も居る事だし、さっさと終わらせて報酬貰ってウッハウハになろうぜ!」
オー!という掛け声に混ざって笑い声も聞こえる。アズベル上手いな、気合いが入って更に緊張をほぐした。
「出発だー!」
ギルドから一斉に冒険者が我先にと飛び出していく。全員すごい気合いの入りようだ。俺も勢いに乗って出て行こうとするがアズベルに止められた。
「ユグドラお前はこっちに来い。紹介しておく、今回は十人で一パーティーを組むがその部隊長達だ」
四人の冒険者と挨拶を交わす。
確か五十人いたから五パーティーって事か。向こうと合わせると九パーティーになり、モンスターは約三十匹だから、一パーティーで二~三匹を相手にする事になるな。
モンスターの正体は分かってない様だけど大丈夫かな。
各リーダー達は戦士二人魔法系二人、そしてアズベルだ。
見るからに強そうな人だから熟練者なのだろう。
「そこで今回はユグドラ、お前には遊撃手として全体を見てほしいんだ」
「ん?それはリーダーであるアズベルの役目じゃないのか?」
「俺とエル・ド・ランのリーダーのどっちが全体を見るかは決まってないが、お前は自身の判断で勝手に動いていい。多分その方がお前は戦いやすいし周りも助かる」
「信用してもらえるのは嬉しいけど……うーん、戦うこと自体は問題ない。でもこういった作戦は初めてだからどうなるか分からないぞ?」
「そこらへんは俺が責任を持つから安心して戦え。なに、戦果を挙げれば誰も文句は言わんさ」
まあ冒険者同士だから固い事は言わなくていいって事かな?それなら勝手にやらせてもらった方が気は楽だ。
「わかった、それでいこう」
「よし、それじゃあ俺達もいくぞ!」
馬を走らせながら周囲を警戒して湖を目指す。
今は街道の使用が禁止されているため商人や旅人の馬車もいない。
エル・ド・ランへは馬車で行けば四日かかるが、今回は中間地点であり、さらに馬で走っているため日が沈んだ頃に到着した。途中でモンスターに遭遇はしなかった。
「今日はここでキャンプをする!パーティーごとに割り当てられた順に警戒に当たれ!」
みんながテントを張り始めたので俺もテントを張った。といっても折り畳み式なので広げて終わりだ。
足つきで地面から二十センチほど浮いているので雨も入ってこない。
後は食事の用意か、正直料理はできないからそこらで木の実や食べれる草を探して、塩漬けした肉と一緒に煮込もう。木の実や草はリアに教えてもらったからバッチリだぜ。
調味料を数種類持ってきたから味を見ながら煮込んでいく。ふ~、あまり長期間は無理だけど数日位ならこれで行けるだろう。
それにしてもエル・ド・ランから来る冒険者はどうしたんだ?まだ来てないようだけど。
飯も食い終わり、順番に見回りをするパーティーが巡回を始めた。アズベルに聞いてみよう。
「アズベル、向こうの街からくる冒険者はいつ来るんだ?」
テントの前でメンバーと話をしていたアズベルに訊ねてみたが、普段ならもう到着していていい時間らしい。
「ひょっとして何かあったのかもしれんが、今から様子を見に行くのは危険すぎる。明日になっても来なければ迎えに行ってみよう」
「そうだな。ところで俺の巡回はいつなんだ?」
「お前はやらなくていい。いややりたければやってもいい。街でも言った通り好きにやってくれ」
そういう事か。ならみんなが元気な今のうちに寝ておいて、深夜にでも見て回ろう。
仮眠から目が覚めた。折り畳み式テントと簡易寝袋の出来は中々いいな。かなり快適だ。
まだエル・ド・ランの冒険者は来ていないようだし、ちょっとだけ様子を見に行こうかな。一時離れる事をアズベルに伝えようとしたが睡眠中だったから、巡回中の冒険者に言伝を頼んで出かけた。
馬を早足でエル・ド・ランへ向かわせる。
何事も無く、単純に準備に時間がかかって出発が遅くなったのならいいが、道中でトラブルがあったのなら早めに向かった方が良いだろう。
自惚れも込みで言うと俺が向かった方が間違いが無い。アズベルのいう遊撃はこういう時に便利だな。
かなりの距離を進むと前方から沢山の蹄の音がする。
エル・ド・ランから出発した冒険者だろうか。
街道の脇に止まり様子を見ると、沢山の馬が全速力でこちらに向かって走っている。
乗っているのは冒険者っぽい風貌だが……聞かないと誰だか分からないよな、俺。
相対速度を合わせ横に並び、先頭を走っている奴に声をかける。
「お前たちは何者だ?」
「俺達はエル・ド・ランの冒険者だ。お前は」
「俺はエリクセンの冒険者だ。何かトラブルでもあったのか?」
「対象かどうかは分からないが大型のモンスターに追われている。我々だけでは対処できないので湖へ急いでいるんだ」
大型モンスターか、どんな奴かだけでも確認しよう。
「エルドランの連中は湖でキャンプを張っている。寝てるやつも居るが叩き起こしてやってくれ」
「分かった。ん?お前はどう……オイ!」
横にずれて速度を落とし、最後尾に付いた。暗くてよく見えないが狼系では無いようだ、目だけが光ってて不気味だ。
なんだろう虎?ライオン?が十匹ほどいる。
馬に乗っている俺と目線が合うなんてどんだけデカイんだか。
どちらにしろ向こうは夜目が利くだろうからこのまま戦うのは不利だ。
だから早速爆弾を使ってみよう。
バッグから黒い小瓶を数個取り出して一個後ろに投げつけると一列目の奴は避けて二列目にいる奴に命中・爆発した。
かなり大きな爆発だったが致命傷にはならなかった。が、のたうち回っている。
続いて三個を一列目の連中を狙って投げつけるが全部避けられてしまった。二列目以降にも当たらない。
「もう警戒してるのか。正面からだともう当たらないかもな」
なら狙いを変えよう。当たらないのなら当たるところに当てればいい。
「足止めにはなるだろう!」
地面に五個投げつける。流石に目の前で爆発が起こると驚いたようで一列目は急停止するものの、二列目以降が衝突して派手に転げまわっている。
そんな中でも一匹だけうまく回避できたようで追いかけてきた。
他の奴らは……どうやら追跡を諦めた様だ。チャーンス。
一匹だけでも倒して相手が何なのか確認できれば対策が打てる。
馬の速度を落として徐々に距離を狭めると、馬の背に立ち、後方へジャンプしてすれ違いざまに背中を切り裂く。
見た感じだとネコ科の生き物に見えた。デカすぎるけど。
かなり深手を負わせたはずだが相手は怯まず反転して俺に襲い掛かってきた。
が、動きが鈍くなっている。
前足で踏み潰しに来たところをあえて懐に飛び込み、今度は無防備な腹を斬りまくった。
流石にこれは効いたらしく転げまわり、次第に動かなくなっていく。
警戒しながら近づくと悲鳴のようなうめき声を漏らしている。大丈夫だろう。
斧を大きく振りかぶって首を切り落とした。
少し先で止まっていた馬に乗り、首を担いで湖へ帰ることにした。
暗くて何なのか分からないままだが、誰か知っているだろう。




