10.斧の修理・・・そんな事よりアセリアだ!!
翌朝、ゴブリンの洞窟を塞ぐべく、カモフラージュに使われていた岩を使う事にした。
入り口を少し入ったところに沢山放り込んで、後はとにかく入り口を破壊しまくった。
一部分だけ土砂崩れがあったような感じになり、洞窟の中に入るのは困難な状態になったので、もう使えないだろう。
「よし、じゃあ帰るとするか」
アズベルの掛け声で全員が馬に乗り、街への帰路に就いた。
その日の晩には街へ到着した。
今知ったけど、この街の名前はエリクセンというらしい。
一番最初に入った街はアグレス、昼からの護衛で向かったのがバグレス。
距離でいうとエリクセンからアグレスが馬車で三日、アグレスからバグレスは馬車で半日だ。
ギルドへ報告に行くと、受付の女性は相変わらず元気だった。
「おっかえりなさ~い! 随分早かったね。まさか空振りって事はないよね?」
「空振りどころか何回も死にそうになったぜ」
「え! ゴブリンだよね!?」
「キングやらウォーリアーやらシャーマンやら、しかも罠にはめられた」
受付の女性の顔色が変わる。
「ちょっと詳しく聞きたいから二階に来て」
混み入った話がある時は二階に行くのが定番らしい。アセリアの居場所を聞きたいのに……。
「ギルマスが来るから座って待ってて。お茶いれてくる」
二階の部屋に案内されると、バグレスで入った部屋とほぼ同じ作りだった。
各々がソファーに腰かけるとアズベルに訊ねた。
「アセリアの居場所はどこなんだ?」
「ああ、飯屋に住み込みで働いてるよ。今日は報告で行けそうにないな」
疲れているようで半分寝るような格好でソファーに座っている。
「じゃあ明日……」
「明日は彼女休みだよ」
ちくしょう。
「明日……案内するから朝飯をそこで食おう」
「わかった」
会えるのは明後日か。
ああ、ゴフリンの駆除が一日で終わったからか。
予定では明日帰ってくるはずだったから、丁度良かったんだな。
ギルドマスターが部屋に入ってきた。
白髪混じりの、どこにでも居そうな普通のおじさんが現れたから説明を始めたが、終わらない……細かい……延々と一から十まで説明させられた……疲れた。
翌朝アズベルと合流して、アセリアが働いている飯屋で朝食を食べた。
店はかなり大きく朝でも二十人以上の客が入っており、メニューを見た感じだとファミレスみたいな印象だった。
朝昼のメニューは同じで、夜になると変わるらしい。
それにしてもアズベルは随分彼女の事について詳しいな、休みの日まで知ってるし……まさか……まさか! お兄さん!? と思ったらシフト表が貼ってあった。
アズベルと別れて、俺はしずかにキャラチェンジする事にした。
ユグドラ― ― ― →しずか
この街に来た時に鍛冶屋さんは一通り見ましたから、目星はついています。
後は快く炉を貸してくれればいいのですが……。
こちらのお店は炉が三つあり、二つは職人さんが使っていますが一つは空いているようです。
「おはようございます」
お店に入ると、親方さんらしき人が手を止めて私を睨みます。
「何の用だ。修理依頼か?」
親方さんは髭が凄くて顔の輪郭が分かりません。小柄でずんぐりしていますが筋肉質のようです。
「修理依頼ではないのですが、こちらの炉を貸していただけないでしょうか?」
親方さんは空いている炉と私を見ました。
「あんた名前は」
「申し遅れました、しずかといいます」
「そうか、壊さなければ好きにしていいぞ」
「ありがとうございます」
いい人そうでよかったです。ラマから道具を出してユグドラの装備の点検をしましょう。
うーん、バトルアックスが随分と傷んでいますね。
オーガ・ゴブリンと戦いましたしオーガとは力比べまでしましたから。
小型の斧・ハチェットは刃は研ぐだけで大丈夫ですが、木製の柄が傷だらけです。
ゴブリンの剣を受けた時の傷が深いですね。
鎧関係は矢を受けたらしいへこみが数か所ありますが、表面が薄く削れているだけなので簡単な補修で大丈夫でしょう。
さて、バトルアックスは熱して叩き直しましょう。
多少の変形もありますから。
炉で真っ赤に熱して、へこみや歪みを丁寧に叩いて直し、刃は欠けている場所を叩いて伸ばし、形を整えます。
やっぱり石の棍棒を斬ったり、洞窟を塞ぐのに岩肌を叩きまくったのが影響していますね。
もっと丁寧に使ってもらわないと……私ですが。
バトルアックスとハチェットは研ぎまで終わり、鎧も補修が出来たので完了です。
問題はハチェットです。
このまま木の柄を使っていると、そのうち折れてしまいます。
柄を金属にしましょうか? でもハチェットは軽くて取り回しが良いのが利点であって……うーん。
ああ、要は表面が削れなければいいのです。
じゃあ木製の柄に、薄い金属板を巻けばいいのではないでしょうか。
早速新しい木の棒を削って柄を作り、持つ部分以外を少し細くします。
細い所に巻く固い金属板を熱して叩いて巻きマキまき……
これは中々難しいですね。
やっと、かなり苦労して隙間なく巻けました。
みっともない隙間とはおさらばです。
これに刃をはめ込んでっと。
振り回してみましたが、少し重いかもしれませんがユグドラの力なら問題ないでしょう、完了です。
「ふぅ」
ハチェットを台に置くと親方さんに話しかけられました。
「いい腕をしているな。ウチで働かないか?」
まさかのスカウトです。
「すみません、まだしばらくは旅を続けたいので……」
「そうか。ならこの街にいる時は炉を使っていい」
そういって親方さんは仕事に戻りました。自分の腕を認めてもらえてとても嬉しいです。
さあ、今日は色々と買い出しをしないといけません。
昨日のパーティーの時は仲間を助ける為に、戦線から離れてしまいました。
私の戦力的にそれはいけません。
常に前線に立っているのが理想です。
ですが回復が追いつかない時は必ず出てくるでしょう。
なので回復ポーションを作ります。
あらかじめ全員に数本渡しておくか、回復役に渡しておくかはその時に考えますが、有れば有るだけ生存率は上がるでしょう。
後はこの世界の素材の確認です。
金属や繊維の質はもちろん加工の仕方も見ておかないと、テレポートリングの様な古文書レベルの物を人に渡しかねません。
必要な材料を買いながら、仕立て屋さんや金属製品を見て回ります。
繊維の質や加工自体は、私が作ったものと大きく差は無いようです。
商店で鉄の長方形の塊を見せてもらいましたが、あまり質は良くありません。
鉄鉱石自体が悪いのか加工の仕方が悪いのか……暇を見て砂鉄を収集した方が良いかもしれないですね。
一番気になったのが木材加工です。鉄製品の質が悪いので木材の加工も荒いです。
表面を磨いて誤魔化していますが、良く見るとあちこちが歪んでいます。
うーん、これは手持ちの材料は当分の間は自分専用ですね。
冒険者さん達の修理に少し使ってしまいましたが、これからは鉄は現地調達にしましょう。
一通り買い物や調べ物が終わりお店で服を見ていると、アセリアさんを発見してしまいました。
お店の前の通りをうつむきながら歩いていて元気がありません。
声をかけたいですが、しずかでは赤の他人です。
なにがあったのでしょうか……嫌なことがあったのでしょうか失敗したのでしょうか落とし物をしたのでしょうか。
声を掛けられないのがとてももどかしい。しずかで仲良くなれないでしょうか。
後をつけ回す訳にもいかず、私はアセリアさんの後姿をただ眺めていました。
しずか― ― ― →ユグドラ
翌朝ユグドラにチェンジした俺は、アセリアさんが働いている飯屋で朝食を食べるべく、足を進める。
やっと逢える。
でも昨日の姿を思い出して少し悲しい。なに、会えばわかるさ。
「いらっしゃいませ! 空いてる席へどうぞー!」
元気な挨拶が俺を迎えてくれる。
店をぐるりと見まわすと、いた、少し離れたテーブルを拭いている。
心臓の鼓動に合わせて足が速くなりそうなのを抑え、ゆっくり歩いてアセリアさんの近くに行く。
「お、おはようございます」
「あ、はい! おはようござ……あ」
アセリアさんは挨拶とともに振り向き、俺の顔を見ると言葉が止まるが、すぐに言葉を繋いだ。
「お、おはよう……ございます。またお逢い出来ましたね」
とても優しい笑顔で迎えてくれた。ああ……ああ嬉しい。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
本当に元気そうでよかった。もう落ち込んだりしてない様だ。
髪も、瞳も、鼻も、口も奇麗だ。
「アセリア、お客さんを席にご案内して」
「あ! はいすみません! こちらへどうぞ!」
店主らしき男性から声を掛けられてハッとした。
どれだけ見つめてたんだよ俺。
近くのテーブル席に案内されて椅子に座ると、メニューを渡された。
朝食セットがあったのでそれをお願いした。
「では少々お待ちくださいませ」
そういって厨房に向かいオーダーを通す。
顔がニヤけているのが自分でもわかる。
分かるけど止められないし止めたくない。
アセリアさんの姿を目で追っていると重大な事に気が付いた。
この店の制服、胸が強調されすぎじゃね?
アセリアさんは胸が大きいとは思っていたけど、想像以上に大きいから歩く度に揺れている。
そういえばスカートも短いし足が丸出しだ。
メイド服をカスタムした様な制服はフリルが付いていてかわいいけど。
これは……アセリアさんに悪い虫が付いてしまう!!
ああっ! でも俺は親でもないしただの知り合いだし、でも悪い虫が付くなんて我慢できーーーーん!!
一人で悶えていると料理が運ばれてきた。
「お待たせしました、朝食のセットです」
アセリアさんはトレイから大小四つの皿を並べた。
俺はお行儀よく手を膝の上に置いて並べ終わるのを待つと、アセリアさんがクスりと笑った。
「どうしたんですか? さっきまでと随分違いますね」
あ、笑ってくれた。
「ア、アセリアさんの制服姿がカワイイなって」
よし俺!アセリアさんが喜びそうな言葉を考えろ! この際なんとかマニュアルの受け売りでもいい!
「ありがとう、ございま……す」
顔を真っ赤にしてトレイで顔を半分隠してしまった。クソッ! スマホはどこだ! 写真! 写真を撮らせろ!
「ユグドラさんも、かっ……こいい……です」
……ああ、生きているって素晴らしい。
「冷めないうちにドーゾー」
と、どこか冷めた店長の声が聞こえて二度目の我に返った。
「い、いただきます!」
「ご、ごゆっくりどうぞ!」
アセリアさんが慌てて走り去り、俺は慌てて食べ始めた。よかったまだ冷めてなかった。
料理を堪能し、またアセリアさんの姿を探すと目が合った。
とことこ近づいて来てくれるのがとてもかわいい。
「どうかされましたか?」
そういえば特に用が無い。いや無ければ作ればいいんだ!
「えっと~、お会計をお願いします」
終わるのかよ俺!!
「はい、では四カッパーになります」
四カッパー、銅貨四枚か、約四百円だ。
ゆっくり金を出す。何か話題は無いのか、無いと終わってしまうー!
「アセリアさんは毎日ここで働いているんですか?」
ナイス俺! てかシフト表!
「はい、ここで住み込みで働かせてもらっています」
ほうほう、それは有益な情報だ。ってかアズベルから聞いてたんだった。
「じゃあ毎朝来ます!」
「あ、ありがとうございます。でも朝から晩まで働いていますから、営業中はずっといますよ」
そういって微笑んでくれた。ああん、もう!
「じゃあ三食食べに来ます」
そこまでいくと流石に驚かれた。
「冒険者さんなのに、一日中街に居るんですか?」
「あ、私は冒険者でしたね、忘れていました」
「無理はしない程度にお仕事頑張ってください。私はいつでもここでお待ちしていますから」
今日最強の笑顔を頂きました。




