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負け犬達の意地

作者: せれしあ
掲載日:2018/09/17

異界序列の方も進んでますよ。

こちらはなろうのランキングを見て思いついたので妄想を吐き出したものになります。


パクリがあっても多めに見てね。 よろしく。


とある王国には、勇者がいた。

彼は数人の仲間とともに、世界各地の迷宮を突破していった。 12ある迷宮を全て踏破すれば、魔王城への道が開く仕組みになっているそうだ。


勇者が現れたのは3年前。 対し、迷宮が生まれてのは数十年前。 勇者が現れるより前は、探索者と呼ばれる人間たちが、迷宮に挑んでいた。


「なぁ、皆」


とある街の酒場。 迷宮探索を生業とする探索者たちが集う、集会所の様なものでもあるそこで、一人の青年が口を開いた。


「何だよ、リーダー」


訂正。 青年というには、少々年を取りすぎている。

それは彼の呼びかけに応じた男もそうで、彼ら四人のチームは、揃いも揃っておっさんだった。


「俺たちも、迷宮に潜ろう」


その呼びかけに、三人の表情が変わった。


「おいおい、正気か?」

「リーダー、何のつもりだ」

「そうだぜ。 今は勇者様が迷宮に潜ってる最中だ」


それが、彼らが昼間から酒場に集っている理由だった。 勇者一行が迷宮を攻略している最中は、探索者は余計な手出しをしない。 三つ目の迷宮が踏破された時点で自然と発生した、不文律の様なものだった。


「分かっている。 だがここのボスが手強いのは、お前達も分かっているだろう」


だがリーダーは、暗黙の了解を無視して、迷宮に潜る気でいる様だ。


「しかしだな。 勇者ならば、どうとでもなるんじゃねぇか」

「そもそも我らが行ったところで、足手纏いにしかならんだろう」

「何も出来ずに死ぬか、着いてる頃には終わってるかだ。 そんな意味のないこと、してられっかよ」


メンバーの三人は反対の立場を示した。 彼らは頑として、迷宮に行きたがらない。


「まぁ、そうだな。 恐らく、犬死するだろう」


しかし、彼らにもリーダーの言葉は意外だった。


「おいおいリーダー、だったら何で行くんだよ。 ヤケになっちまったのか」


大剣を持った重戦士が、リーダーに問い掛ける。


「いや、違う。 これは単に、プライドの問題だ」


そう行った彼の目は、一切の淀みがなかった。


「プライドだぁ? 一体どうしちまったんだよ。 いつもの冷静さはどうした」


重戦士の言葉は、三人の総意でもあった。


「俺は、いや、俺たちは、探索者だ。 迷宮の探索を生業とし、それの踏破を目的とする。 たとえ勇者が現れようと、それは変わらない」

「だからよ、リーダー。 勇者が現れた時点で、俺たち探索者は廃業なんだよ。 迷宮は全部勇者が踏破するんだ。 俺たちの出る幕なんざ、初めからありゃしねぇのさ」


リーダーの言葉も、重戦士の言葉も、共に真実だ。


「そうだろうか。 たとえ勇者が強力な存在であろうと、勇者一行だけで踏破できるほど、迷宮は甘くないだろう」

「だからよ、実際に三つ、迷宮が踏破されているだろうが」

「それは三つが、踏破するのが容易であったからだろう。 だがこの迷宮は違う。 ここは、踏み台などではない」

「あのなぁ、だからよリーダー」

「いや、そうか」


再度話をしようとした重戦士を、リーダーの声が遮った。


「お前達が迷宮に潜る意思がないのは分かった。 それなのに俺が強制するのは、間違っていたな」

「お、おう。 そりゃそうだ」


そして、リーダーは。


「余計な時間を取らせた」


そうやって席を立ち、酒場から出て行こうとした。


「お、おい待て」

「なんだ、アレン。 お前達も、行く気になったか」


そうじゃねぇ、と叫ぶ重戦士。


「リーダーが一人で死にに行くとか言い始めたんだ。 俺たちが止めねぇわけ、ねぇだろうが」


これは単に、友情の証だった。


「止める、か。 仲間だからこそ、死ぬのは見たくない、という事か」

「あぁそうだ。 犬死するなんざ、認められねぇ」


リーダーは既に、歩みを止めていた。 そしてその体が、重戦士に向けられる。


「しかし俺は、迷宮探索以外に生きがいを感じない」

「あぁ? だからなんだってんだよ」


後ろの二人、弓術士と付与術師も立ち上がる。


「ここの迷宮が無くなれば、俺は生きる意味を失う」

「生きる意味ってなぁ……」


子供の様にごね出したと見て、重戦士が呆れる。


「そうしたら、死んでいるのと同じだ。 守る家族もいない、守る誇りもないのならば、生きるも死ぬも大差がない」

「そこまで思い詰めんなよ。 他に楽しいことでも」

「ない」


リーダーは、断言した。


「先ほども言ったが。 俺は迷宮探索以外に、生き甲斐を感じない」

「だからよリーダー」

「お前もそうだろう? いや、マルクとガレットもそうであるはずだ。 そうでもなければ、勇者でもあるまいに、迷宮の最深部までたどり着くことなんてできない」


彼らは、努力家だった。

不可能と言われる最深部への到達を、勇者でない身でありながら、成し遂げるほどに。


「この世界で勇者以外に、迷宮主と戦った人間は俺たちだけだ。 敗れはしたが、奴の角をへし折りそれを持ち帰った時の歓声は、忘れられないはずだ」


あぁ、その通りだ。

三人の心は、ここにきて動き始めた。


「思い出せ。 迷宮が俺たちの死に場所だ。 迷宮こそが、俺たちの生きる場所だ」


最早誰も、反論しなかった。


「例え俺たちが行っても、結果は変わらないかもしれない。 よくて犬死か、最悪のところ勇者達の足を引っ張ってもろとも、死だ」


言われずとも、分かっていた。


「だがな。 それでも俺たちは行かなければならない。 いや、行きたくてたまらない」


それは、義務感によるものではなく。


「俺たちは、そういう人間だ。 迷宮の魔物に喰い殺されようが、何の恨みも持たない」


行きたいという、欲望だった。


「俺たちは所詮、負け犬だ。 どうあがいても、勇者には勝てないだろう」


あぁ、そうだ。 それは紛れもない、真実だ。


「俺たちのやる事は蛇足。 必要の無いものかも知れない」


当たり前だ。 きっと、そうに違いない。


「だが、俺たちはやる。 迷宮主を道連れにしてでも、迷宮で死んでやる」


気がつけば、誰もが行く気になっていた。


「あぁ、そうだったな」

「何を、怖じ気付いていたのだろうか」

「へっ、俺たちも、ビビるものあったんだな」


正気の沙汰ではない。 だがそんなもの、今やどうでもいい。 好き好んで地下に潜る人間だ。 元より正気ではないのだから。


「行こうぜ、我らがリーダー、ギルガメッシュ。 俺たち『黄金の蛇』の力、()()()に見せてやる」


そうやって彼らは、迷宮への片道切符を切った。


**********************



場面は転換する。



「クソっ。 こいつ、なんて強いんだ」


勇者が声を漏らす。


彼らが闘っているのは龍。 それも大きな剣状の角を生やした、剣角龍と呼ばれる迷宮主だった。


魔法でも使用したのだろうか。 『黄金の蛇』によって根元からへし折られた角は、元通りになっていた。


「探索者でも戦える程の、()()()()じゃ無かったのか……!?」


彼らはニつ、勘違いをしていた。

剣角龍の力を。 そしてギルガメッシュら、『黄金の蛇』の実力を。


彼らが出会ってきた探索者は、大したレベルでは無かったのだろう。 いや、彼らこそが標準。 『黄金の蛇』は、完全に外れ値、例外だったのだ。


「ぐああぁっ」

「アイラ!」


勇者の仲間である女剣士が、龍の一撃を受けて吹き飛ばされた。 数十メートルを一瞬で移動した彼女は、そのままの勢いで迷宮の壁に叩きつけられる。


「……。」


女剣士は、完全に沈黙した。 死んではいないかも知れないが、すぐに起き上がれるほどの損傷ではない。


「クソっ、クソっ、クソっ」


悪態をついた所で、結果は変わらない。 逆にそれは、状況をより、悪化させた。


剣を龍に向け直した勇者の目の前に、巨大な剣が突き出される。 それはあと一瞬で、勇者の身体に突き刺さるだろう。


(俺は、負けるのか)


聖剣の起動は、間に合わない。 先ほどから時間稼ぎを試みているのだが、かの龍はそこまで阿呆ではないのだ。 的確に妨害を加えられた勇者は、聖剣の真価を発揮出来ずにいた。


(……クソっ。 アイラ、セレン、フローラ、エル、マリアナ、こんな僕を許してくれ)


その後悔が、奇跡を呼んだのだろうか。


「猪突猛進だけとは、呆れた戦法だな」


人を食った様な声。


それを発した男は、突如として目の前に現れて。


「……なぁ? 龍よ」


龍の巨大な角に魔法を放ち、横殴りの衝撃を与えて起動を逸らしたのだった。


「……貴方は」

「『黄金の蛇』のリーダー、ギルガメッシュだ。 異邦の伝説に存在した、王の中の王の名でもある」


最も自分は、一介の探索者だが。


言外にそう告げた魔法使いは、至近距離にあった龍の目と対峙し、


「そう言えば、動きを封じていたな」


魔法を再度発動して、その水晶体を破壊した。


龍が絶叫する。 彼が掛けた拘束を、簡単に引きちぎって。


「以前は遅れを取ったが、今回は負けはしない。

なにせ、こちらには勇者がいるのでな」


暴れている龍には、そんな言葉は聞こえていないだろう。 しかし彼としては、宣言しないわけには行かなかった。


「『付与魔法、発動』」


付与術師ガレットの魔法が、勇者とギルガメッシュらを包み込み、強化する。


「ほら、これを飲め」


一つ金貨十枚(=十万円)もする最高級のポーションを、弓術士マルクは女剣士アイラに飲ませていた。 一本では効果が足りなかったため、二本目も投入。


「がはっ、ごほっ」


ようやく目が覚めた様だ。 噎せてしまったのはまぁ、仕方のない事だろう。


「薬屋の自信作だ。 怪我は完治したはずだが」

「あ、あぁ。 ……それで、貴方たちは」


漸く落ち着きを取り戻した龍が、こちらに向かって魔法攻撃を仕掛けてきた。 空中に浮かぶ数多の魔法陣。 それをギルガメッシュは、


「……ふん。 貴様の腕は、上がっていない様だな」


同じ威力の魔法で全て、相殺して見せた。


一つに減った龍の目に、驚愕の表情が浮かぶ。


「隙あり、だぜぇ!」


ギルガメッシュの指示を受けるまでもなく、アレンが砲弾と化して襲いかかる。 アイラが吹き飛ばされた速度の倍、音速に迫る勢いで龍との距離を詰めた重戦士は、へし折った龍の角で作った大剣を、元の持ち主に振り下ろした。


死角から強烈な一撃を喰らった龍は、うつ伏せになって倒れようとする。


……しかしそれでは、足りない。

『黄金の蛇』の四人は、それを理解していた。


「勇者。 お前に頼みたいことがある」

「な、なんだよ」


勇者アーサーは、元の威厳を失いかけていた。


「見ての通り、俺たちはやつと戦ったことがある。 あの角をへし折って、戦利品として持ち帰ることすらできた」


ここでギルガメッシュは、少し間を置いた。


「……だが、俺たちではどう足掻いても、奴を倒せなかった」


全く敵わずに、逃げ帰ったのでは無い。

何をしようが倒せないから、止む無く撤退した、というのが真実だ。


「龍の命を刈り取るほどの威力は、俺たちには出せない。 奴のツノで作った剣でさえ、奴の魔核は貫けなかった」


魔物には、魔核というものがある。 それは迷宮主にも共通する法則だ。 ……少なくともこの世界では。


剣角龍の魔核は胸のあたりに露出している。 だったら破壊は容易と思うかもしれないが、実際のところそうでは無いのだ。


勇者以外には、どうあろうが破壊できない物質。

勇者の聖剣以外にあれを破壊できるのは、おそらく魔王が持つと言われる魔剣くらいだろう。


「聖剣を開放し、奴の魔核を破壊してくれ。 その為の時間稼ぎは、我らが行おう」


連続する爆音轟音、衝突音。

現在進行形で行われている行為に、勇者は愕然としていた。


「あんたたち、一体何者なんだ」


自分たちでは敵わなかった龍を、まるで手玉に取っている『黄金の蛇』の探索者たち。


これほどの力量。

これ程の執念。


一体どうしたら、この境地にたどり着けるのか。


「ただの探索者だ。 強いて言えば、それぞれが『賢者』『剣聖』『鷹眼』『大軍師』のなり損ない……と言ったところか」


『賢者』。 それは勇者の恋人、エルに贈られた称号であった。

『剣聖』はアイラが。 『鷹眼』はセレンが。『大軍師』はフローラが贈られている。 勇者の仲間に相応しい才能を持った、逸材である事に間違いはない。


全ては、致し方のない事だ。

セレンの矢では、龍に傷を与えることはできず。

剣聖のアイラでは、龍と斬り合う事が出来ず。

賢者のエルの魔法は、龍の魔法に威力負けし。

大軍師のフローラの計略など、龍は簡単に見破ってみせた。


犬死するとは、誰が言ったことか。

確かに彼らなら、龍を殺すことはできない。 いずれ力尽き、龍は彼らを殺すだろう。


しかし。

今は勇者という、トドメを刺す者がいる。


「この矢を使え。 これならば多少なりとも、手傷は与えられる」


マルクがセレンに、特製の大矢を渡す。


「これ、私の力じゃ持てない」

「いいや、引けるはずだ。 鷹眼だろう? なら、筋力の不足など何とかして見せろ」


セレンが、差し出された矢を受け取ろうとして、それを地面に落とした。


放てば必中の鷹眼だろうが、引けない矢は射ることが出来ない。


「……すまない。 流石に意地悪が過ぎたな」


なり損ないとしては、鷹眼の不甲斐なさに思うところがあったのだろうが、三十を過ぎた大人が、十五を超えてもいない少女にすることではない。


「マルクの矢は重過ぎなんですよ。 そんなものを引いたところでロクに飛びませんし、貴方みたいに高速で連射なんでできません」


近くで、彼を諌める声があった。


「ガレット。 まぁ確かにそうかもしれないが、奴への威力を確保するには」

「確かに質量は必要ですが、鷹眼には貴方と違って魔法弓が有るんですから。 貴方と同じ方法を用いらなくても良いのです」

「……どうして、それを」


ガレットの言葉に、セレンが驚きを返す。


「一般常識です。 あぁフローラさん、あの龍は状態異常が効かないのではなくすぐに治るだけなので、継続的に掛けてくださいね」


こちらもこちらで、授業中の様だ。


「貴族連中にも都合があったらしい。 男より女を祭り上げたほうがいいとか言う、心の声は丸聞こえだったがな」

「……確かに。 仲間は最初、男だと聞いていた」


真実などそんなものだ。 勇者による魔王討伐は、王国上層部にとっては見世物でしかないのである。


「まぁ、そう言う事だ。 所詮俺たちは負け犬に過ぎないが、犬死にして礎になることは出来る」


そんな事を、自分より圧倒的に格上の男に言われたと言う事実が、勇者にとっては許せないものだった。



この瞬間、聖剣が覚醒した。 本来彼が出せる出力をさらに上回った、最強の一撃が目醒める。


「あぁ、そうか」


何故か勇者は、不敵に笑った。


「だったら俺たちは」


爆ぜる魔力と、高まる気迫。 ギルガメッシュはそれを、目を逸らさずに見ていた。


「踏み台にしていかなきゃな」


既に前線では、剣聖のアイラが。 後衛では賢者のエルが、龍に立ち向かっていた。


『臆せず魔法を撃て。 足りない威力は、無理やり引き出してやる』


念話によって賢者エルに伝えられたのは、そんな指令だった。 勇者アーサーと話しながら、同時に賢者の手助けも行なっていたのだ。


「……あぁ、その意気だ」


嘗て恋仲だった少女に似た勇者の姿勢に、ギルガメッシュは満足げに頷いた。


「ちょうど1分後に一瞬だけ、大きな隙を作る。 その僅かな時間に、奴を討伐しろ」

「あぁ、分かった」


収束していく魔力。

それを見えない範囲で手助けしながら、ギルガメッシュは龍に向けて魔法を放った。


全ては、調整。

1分後に勇者の目の前で、龍に隙を作らせるための。


付与術師のガレットは、その微細な調整を付与魔法だけで行なっていた。 時にはプラス、時にはマイナスにすら調整し、確実に龍の動きを誘導していく。


「どうして、こんな事が」


フローラには、ガレットの付与魔法の使い方が理解できなかった。 いや、信じられなかったと言う方が正しいか。


「簡単な事ですよ。 相手の動きを読んで、自分たちの動きを調整する。 回復も攻撃もできない私たちにできることは、その位です」


前線で彼らが負った傷は、『聖女』マリアナが回復させる。 この役割を持つ人間は、『黄金の蛇』には存在しなかった。


「皆さん、大丈夫ですか」

「このくらい問題ねぇ」

「あぁ、大丈夫だ」


戦法が噛み合えば、前線の被害も軽減されるものだ。 先ほどの様な重傷を、アイラが負うことはもうないだろう。


「すみません、アイラ。 先程まで、お役に立てず」

「いいや、お互い様だ」


勇者一行との戦闘で龍が真っ先に潰したのは、聖女マリアナだった。 的確に打ち込まれた魔法によって、彼女はつい先程まで昏倒していたのだ。 死ななかっただけマシ、と言えるかもしれない。


彼女を起こしたのは無論、ギルガメッシュだ。 その程度のことは造作もないほど、彼は魔法に精通していたのである。


「さてと、残り10秒だ」


9。

龍が咆哮する。


8。

アレンが大剣を叩き込む。


7。

剣聖による無数の斬撃が、龍を襲う。


6。

賢者にしか扱えない禁呪が、解放される。


5。

大軍師の名に恥じぬ誘導魔法で、禁呪の威力が的確な数カ所に集中する。


4。

聖女の奇跡によって、龍の禁呪が防がれた。

仕返しとばかりに放たれたセレンの極大魔法矢とマルクの強大矢が、龍に突き刺さった。


3。

魔力の大部分を消費し少なくない損傷を負った龍は、周囲の魔力を吸収し始める。


2。

その魔力に毒を混ぜ込んだガレットの計略通り、龍が一瞬硬直する。


1。

渾身の力を込めたアレンの一撃に、ガレットの付与魔法、ギルガメッシュの魔法攻撃が乗算され……


0.1。

ギルガメッシュの宣言通り、龍が大きく隙を見せた。

アレンとアイラは、僅か一瞬で前線から離脱した。


「行け、勇者」


0。


「はぁぁぁぁぁっ!」


勇者の名に相応しい一撃は、龍の魔核をことごとく粉砕した。



**********************


「終わった、か」


『黄金の蛇』がここで活動を行ったのは、今年で十二年になる。 九年間の功績が認められ、本来は……という話は、やめておこう。


「あぁ、俺たちの、勝ちだ」


誇らしげに、勇者は言った。


「そうだな。 俺たちの、勝利だ」


『俺たち』の中に自分たちも含まれている事に、ギルガメッシュは気づいた。


「ありがとう。 あなた方がいなければ、僕たちは負けて、死んでいた」


そんな事を、勇者が言った。 彼の恋人である4人と、聖女はこれに反論しなかった。


「礼を言われる筋合いはない。 俺たちはただ出しゃばっただけの、傍迷惑な探索者だ」


ギルガメッシュは最後まで、このスタンスを崩さない様だ。


「そんな。 本当にあなた方がいなければ、私達はやられていたのに」


セレンが、ギルガメッシュの言葉に反論した。


「そうか? 案外なんとかなった気もするんだが……。 少なくとも奴なら、アリシアだったら、どうにかしていただろう」


アリシア。

その言葉に、勇者一行は凍りついた。


「アリシアって、まさか」

「あぁ。 お前達が魔王と呼んでいる、傍迷惑な女の事だな」


ここに来て一番、彼らは驚いていた。


「魔王と知り合いなのか!?」

「知り合いというか、騙されて恋人をやっていた。 凡人にすぎなかった俺に魔法を教えたのも、魔力自体を強化しやがったのもアイツだ」


下心丸見えで、『魔力供給』と称して行われた淫行の数々を思い出したのか、ギルガメッシュは少し頭が痛そうにしていた。


「自分が作った迷宮を自分で攻略しようとするバカはまぁ、アイツくらいだろうさ。 そのくせ迷宮主を殺しては行けない気がするとかほざきやがって。 おそらく隠す気なんてなかったんだろう」


まだ彼が、二十を過ぎていない頃の話だ。

珍しい黄金の髪をした美少女と巡り合ったギルガメッシュは、何故か彼女に気に入られ、共に旅をすることになった。


初恋もファーストキスも、童貞も何もかも掻っ攫って行った彼女は、しかし勇者の誕生を察知して彼の前から消えたのだ。


『ちょっとやばくなったから国に帰るね。 あ、来たかったら来てもいいけど、十二の迷宮を全部攻略して来てね♡』


なんて手紙が部屋に置かれていた時は、笑うことしか出来なかった気がする。


「魔王が、人間界にいたなんて」

「どうしてそれを、国王様に知らせなかったんだ」


鷹眼と勇者が、同時に言葉を発した。


「『十二の迷宮を踏破せよ。 さすれば、魔王城への道が開く』。 その情報筋は俺だ。 そしてそれこそが俺の、迷宮に挑み続ける理由だ」


種明かしをすれば、そういう事だったのだ。

魔王は意図的に、人間と交わったのだろう。


「へっ、酒場では言わなかったけどな。 まともなこと言っている様で実は女が忘れられないだけとは、リーダーも可愛いもんじゃねぇか」


そんな重戦士アレンの言葉の後には、誰も言葉を続けようとはしなかった。


ギルガメッシュがただ照れ臭く笑っただけである。



**********************


『黄金の蛇』の活躍は、世界各地に伝えられた。

それは士気を失っていた探索者達をまた、迷宮を駆り立てる原動力となった。


以前より詳細な迷宮の地図が作成され、信じられないことに勇者が手を下さずとも踏破された迷宮もあった。 探索者、負け犬となる者達のの意地である。


どの様な手段を使ったかは、伝えられていない。

ただ、『黄金の蛇』が中心になって成し遂げた偉業、という事が専らの噂だった。


彼ら四人は、英雄として祭り上げられることとなった。 それをよく思わない勢力もいたが、


「私たちが迷宮で得た利益は全て、王国に献上いたしましょう」


ギルガメッシュはこの一言で、貴族の反発を退けたのだった。 別に彼らは金が欲しかったわけではないので、特に問題はないというのもある。 最低限の収入は掻っ攫っていったのだが。



ある日。

何となく彼女と出会った平原を訪れたギルガメッシュは、そこにあり得ない存在がいることに気づいた。


「おいおい、こっちへ出張って来て大丈夫なのか」

「べっつにー。 大丈夫だよ」


間違いない、アリシアだ。


人類の敵だとわかっていても、ギルガメッシュは喜びを抑えきれなかった。


「聞いたよ。 勇者の力を借りずに、私の僕を倒したんだってね」

「あれはマグレだ。 二度も同じことができるとは思ってない」

「そうかな? きっと君は、あと2回はやってのける」


そう確信してるよ、とアリシアは告げる。


「まさかギルにここまでしてやられるとはね〜。 ちょっと強くし過ぎちゃったかな?」

「弱いままでもよかったんだがな。 俺の貞操を返してくれ」

「えぇ〜? なんだかんだ言ってギル、嬉しそうだったじゃん」


ギルガメッシュを愛称で呼ぶ彼女は、本当にあの頃のアリシアのままだ。 それがギルガメッシュには少し嬉しくて、少し悲しかった。


「勇者に倒されたフリして、ギルと一緒に暮らせないかなぁ。 ほらギル、そういうの上手いでしょ?」

「俺を大罪人にする気か。 バレたら俺の首が飛ぶだけじゃ済まないぞ」

「そこは何とかしてって。 ギルなら出来る! 最悪二人で別世界に逃げ込めば問題ないしね! 駆け落ちった奴だよ!」


相変わらずお花畑で、しかもそれを実現するだけの力を持っている。 本当に厄介で、だからこそ愛おしいのだ。


「まぁ、そういう道もないわけでない」


そうしたギルガメッシュは、アリシアに手を差し伸べた。 彼女は何の迷いもなく、その手を取ろうとして……。


「……が、これが俺の答えだ」


彼の魔法に焼き尽くされた。


「ふーん、結局そうなるのね」


一瞬よりも早い時間で再生した魔王が、魔法使いに殺気を放つ。


「私ね、手をあげて来た人には容赦しないの。 貴方もそれ、わかってるでしょ?」


そんな彼女の問いに、魔法使いは不敵に笑った。


「あぁ、こちらとて容赦はしないさ。 お前は人類の敵なのだから、俺は全力でお前を討つ」


勇者の聖剣。 それに匹敵する魔力が、魔王の目の前で収束して行く。


「……いいわ。 それでこそ、私のギルよ」


彼女が虚空より呼び寄せたのは、かつてギルガメッシュの前で振るった、魔剣だった。


「期待には答えて見せるさ。 俺がその役目から、解放してやろう」

「えぇ、楽しみにしているわ」



そうして、膨大な二つの魔力が、ぶつかり合った。

余波で発生した土煙が晴れる頃には、魔王の姿は何処にも、存在していなかった。


「さてと、迷宮探索に戻るか」


彼にとっての生きがい。 それはアリシアとの再会を経ても、変わる事はない。


平原を越え、仲間の待つ街へ。

王の中の王の名を持った魔法使いは、力強く一歩を踏み出した。



END






どうだったでしょうか。

お前ら負け犬じゃねぇだろという指摘は甘んじて受けます。 もともとこんなに強くする予定なかったし。 主人公双剣使う予定だったし。 聖女なんて後付けして辻褄合わせただけだし(笑)


まぁそれは置いといて。 周りにすごい人がいて、そいつに任せれば全部大丈夫だったとしても。 貴方の犬死にはきっと、無駄にはなりませんよ。


あ、死ねって言ってるわけじゃないですよ!誤解しないでください! 周りに天才とか秀才と書いてもめげずに頑張ってねってことです!ここ重要。



そろそろ蛇足になりそうなのでこれで。 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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